エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第19話 欲しい人だけが残ると、世界は驚くほど静かになりますわ

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第19話 欲しい人だけが残ると、世界は驚くほど静かになりますわ

 朝。

 エオリア・フロステリアは、いつもより少し遅く目を覚ました。

「……今日は、起きやすいですわね」

 理由は単純だった。
 外が、静かだから。

 



 

 朝食を終え、紅茶を飲みながら、エレナの報告を聞く。

「行列は……さらに短いです。昨日の半分ほど」

「そう」

 それだけで、十分だった。

「……不安には、なりませんか?」

「なりませんわ」

 即答。

「欲しい人だけが残ったなら、もう増える必要はありません」

 



 

 この数日で、完全に消えたものがある。

 噂話。
 観測目的の来訪者。
 “どんなものか一度見たい”という好奇心。

 残ったのは――
 味を知っていて、今日も欲しい人だけ。

 



 

 正午。

 販売開始。

 列は短く、会話も少ない。

「今日は、これだけでいい」

「明日も来られるしね」

 そんな声が、当たり前のように交わされていた。

 



 

 購入量は、相変わらず多い者もいれば、少ない者もいる。

「……箱は三つ」

「はい」

「次の方」

 淡々と進む。

 



 

 エオリアは、その様子を一切見なかった。

 見る必要がないからだ。

 



 

 昼過ぎ。

 売り切れ。

「……早かったです」

「問題ありませんわ」

 彼女は、何も変えない。

 



 

 屋敷に戻り、エオリアはソファに腰を下ろした。

「……静かですわ」

 それは、退屈ではない。

 余計な音が消えた、という意味だ。

 



 

 エレナが、ぽつりと口にする。

「最近、“ここは落ち着く”と言われています」

「……売り場の話ですの?」

「はい」

 



 

 エオリアは、少しだけ考えた。

「落ち着く、というのは……」

 チョコを一粒、口に含む。

「期待が、ないということですわ」

 



 

 欲しい。
 でも、なくても困らない。

 その距離感。

 それが崩れると、人は騒ぎ始める。

 



 

 午後。

 全自動チョコレート製造魔法は、相変わらず稼働している。

 大量にできる。
 止める理由はない。

「……今日の分も、余っていますわね」

「はい。明日以降に回せます」

「なら、それで」

 



 

 エオリアは、在庫を“資産”だとは思っていなかった。

 ただの、明日食べられる分だ。

 



 

 夕方。

 屋敷の外は、ほとんど人影がない。

 だが、不安はない。

「静かな場所には、静かな人が来ます」

 それが、彼女の持論だった。

 



 

 夜。

 エオリアは、灯りを落とす前に、今日最後のチョコを味わう。

「……同じ味」

 それが、心地いい。

 



 

 ベッドに入りながら、彼女は静かに考える。

 人が減るのは、失敗ではない。
 騒がなくなるのは、成功でもない。

 ただ――
 自然な状態に戻っただけだ。

 



 

 小さく、独り言。

「欲しい人だけが残ると……」

 一拍、置いて。

「世界は、驚くほど静かになりますわね」

 その静けさを、彼女は気に入っていた。

 エオリア・フロステリアは、
 今日も誰かを呼ばず、
 誰かを拒まず、
 ただ“欲しい人だけが来る場所”で、
 自分のための一日を終えた。

 明日もまた、
 必要な分だけが売れ、
 必要な分だけが残る。

 それで、十分だった。
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