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第19話 欲しい人だけが残ると、世界は驚くほど静かになりますわ
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第19話 欲しい人だけが残ると、世界は驚くほど静かになりますわ
朝。
エオリア・フロステリアは、いつもより少し遅く目を覚ました。
「……今日は、起きやすいですわね」
理由は単純だった。
外が、静かだから。
◆
朝食を終え、紅茶を飲みながら、エレナの報告を聞く。
「行列は……さらに短いです。昨日の半分ほど」
「そう」
それだけで、十分だった。
「……不安には、なりませんか?」
「なりませんわ」
即答。
「欲しい人だけが残ったなら、もう増える必要はありません」
◆
この数日で、完全に消えたものがある。
噂話。
観測目的の来訪者。
“どんなものか一度見たい”という好奇心。
残ったのは――
味を知っていて、今日も欲しい人だけ。
◆
正午。
販売開始。
列は短く、会話も少ない。
「今日は、これだけでいい」
「明日も来られるしね」
そんな声が、当たり前のように交わされていた。
◆
購入量は、相変わらず多い者もいれば、少ない者もいる。
「……箱は三つ」
「はい」
「次の方」
淡々と進む。
◆
エオリアは、その様子を一切見なかった。
見る必要がないからだ。
◆
昼過ぎ。
売り切れ。
「……早かったです」
「問題ありませんわ」
彼女は、何も変えない。
◆
屋敷に戻り、エオリアはソファに腰を下ろした。
「……静かですわ」
それは、退屈ではない。
余計な音が消えた、という意味だ。
◆
エレナが、ぽつりと口にする。
「最近、“ここは落ち着く”と言われています」
「……売り場の話ですの?」
「はい」
◆
エオリアは、少しだけ考えた。
「落ち着く、というのは……」
チョコを一粒、口に含む。
「期待が、ないということですわ」
◆
欲しい。
でも、なくても困らない。
その距離感。
それが崩れると、人は騒ぎ始める。
◆
午後。
全自動チョコレート製造魔法は、相変わらず稼働している。
大量にできる。
止める理由はない。
「……今日の分も、余っていますわね」
「はい。明日以降に回せます」
「なら、それで」
◆
エオリアは、在庫を“資産”だとは思っていなかった。
ただの、明日食べられる分だ。
◆
夕方。
屋敷の外は、ほとんど人影がない。
だが、不安はない。
「静かな場所には、静かな人が来ます」
それが、彼女の持論だった。
◆
夜。
エオリアは、灯りを落とす前に、今日最後のチョコを味わう。
「……同じ味」
それが、心地いい。
◆
ベッドに入りながら、彼女は静かに考える。
人が減るのは、失敗ではない。
騒がなくなるのは、成功でもない。
ただ――
自然な状態に戻っただけだ。
◆
小さく、独り言。
「欲しい人だけが残ると……」
一拍、置いて。
「世界は、驚くほど静かになりますわね」
その静けさを、彼女は気に入っていた。
エオリア・フロステリアは、
今日も誰かを呼ばず、
誰かを拒まず、
ただ“欲しい人だけが来る場所”で、
自分のための一日を終えた。
明日もまた、
必要な分だけが売れ、
必要な分だけが残る。
それで、十分だった。
朝。
エオリア・フロステリアは、いつもより少し遅く目を覚ました。
「……今日は、起きやすいですわね」
理由は単純だった。
外が、静かだから。
◆
朝食を終え、紅茶を飲みながら、エレナの報告を聞く。
「行列は……さらに短いです。昨日の半分ほど」
「そう」
それだけで、十分だった。
「……不安には、なりませんか?」
「なりませんわ」
即答。
「欲しい人だけが残ったなら、もう増える必要はありません」
◆
この数日で、完全に消えたものがある。
噂話。
観測目的の来訪者。
“どんなものか一度見たい”という好奇心。
残ったのは――
味を知っていて、今日も欲しい人だけ。
◆
正午。
販売開始。
列は短く、会話も少ない。
「今日は、これだけでいい」
「明日も来られるしね」
そんな声が、当たり前のように交わされていた。
◆
購入量は、相変わらず多い者もいれば、少ない者もいる。
「……箱は三つ」
「はい」
「次の方」
淡々と進む。
◆
エオリアは、その様子を一切見なかった。
見る必要がないからだ。
◆
昼過ぎ。
売り切れ。
「……早かったです」
「問題ありませんわ」
彼女は、何も変えない。
◆
屋敷に戻り、エオリアはソファに腰を下ろした。
「……静かですわ」
それは、退屈ではない。
余計な音が消えた、という意味だ。
◆
エレナが、ぽつりと口にする。
「最近、“ここは落ち着く”と言われています」
「……売り場の話ですの?」
「はい」
◆
エオリアは、少しだけ考えた。
「落ち着く、というのは……」
チョコを一粒、口に含む。
「期待が、ないということですわ」
◆
欲しい。
でも、なくても困らない。
その距離感。
それが崩れると、人は騒ぎ始める。
◆
午後。
全自動チョコレート製造魔法は、相変わらず稼働している。
大量にできる。
止める理由はない。
「……今日の分も、余っていますわね」
「はい。明日以降に回せます」
「なら、それで」
◆
エオリアは、在庫を“資産”だとは思っていなかった。
ただの、明日食べられる分だ。
◆
夕方。
屋敷の外は、ほとんど人影がない。
だが、不安はない。
「静かな場所には、静かな人が来ます」
それが、彼女の持論だった。
◆
夜。
エオリアは、灯りを落とす前に、今日最後のチョコを味わう。
「……同じ味」
それが、心地いい。
◆
ベッドに入りながら、彼女は静かに考える。
人が減るのは、失敗ではない。
騒がなくなるのは、成功でもない。
ただ――
自然な状態に戻っただけだ。
◆
小さく、独り言。
「欲しい人だけが残ると……」
一拍、置いて。
「世界は、驚くほど静かになりますわね」
その静けさを、彼女は気に入っていた。
エオリア・フロステリアは、
今日も誰かを呼ばず、
誰かを拒まず、
ただ“欲しい人だけが来る場所”で、
自分のための一日を終えた。
明日もまた、
必要な分だけが売れ、
必要な分だけが残る。
それで、十分だった。
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