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第20話 売れなくなったのではなく、満たされたのですわ
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第20話 売れなくなったのではなく、満たされたのですわ
朝。
エオリア・フロステリアは、紅茶を淹れながら、いつもより少しだけ機嫌がよかった。
「……今日は、いい香りですわね」
理由は特にない。
あるとすれば――余計な予定が、なにもないこと。
◆
全自動チョコレート製造魔法は、今日も淡々と稼働している。
一定の速度。
一定の品質。
一定の量。
魔力の流れは安定し、停止させる理由もない。
「……相変わらず、多いですわね」
机の上に並ぶ箱を見て、エオリアは小さく呟いた。
◆
エレナが帳面を持ってくる。
「本日の販売分、準備完了しています」
「どれくらい?」
「昨日と、ほぼ同じ量です」
「……十分ですわ」
◆
正午。
販売開始。
列は、短い。
もはや“列”と呼べるかどうかも怪しい。
◆
「こんにちは」
「こんにちは」
それだけのやりとり。
◆
「今日は、二箱」
「はい」
「次の方」
◆
誰も急がない。
誰も騒がない。
売り場には、妙な落ち着きがあった。
◆
昼過ぎ。
販売終了。
箱は、半分以上残っている。
◆
エレナが、少し気にしたように言う。
「……今日は、売れ残りましたね」
「ええ」
エオリアは、まったく動じなかった。
◆
「……よろしいのですか?」
「なにが?」
「その……売上が……」
◆
エオリアは、紅茶を一口飲んでから、静かに答えた。
「売れなくなったのではありませんわ」
「?」
「満たされたのです」
◆
エレナは、少し考えた。
「……つまり……」
「必要な人のところに、必要な分だけ行き渡った。それだけですわ」
◆
売れ残りは、失敗ではない。
過剰に売ろうとしない限り、それはただの“余り”。
◆
エオリアにとって、チョコレートは――
売るためのものではない。
儲けるためのものでもない。
食べるためのものだ。
◆
夕方。
屋敷の中は、甘い香りで満たされている。
だが、以前のような“圧”はない。
◆
エオリアは、ソファで本を読みながら、気まぐれに一箱開けた。
「……今日は、これにしますわ」
一粒。
ゆっくりと、味わう。
◆
「……美味しい」
それだけで、目的は達成されている。
◆
エレナが、ぽつりと聞いた。
「お嬢様……これから、どうなさるおつもりですか?」
◆
エオリアは、しばらく考えてから答えた。
「どうもしませんわ」
◆
「売りたい日には売る。
食べたい日は食べる。
余ったら、置いておく」
◆
「……それだけ?」
「それ以上、なにが必要ですの?」
◆
エレナは、思わず笑ってしまった。
「……普通、逆なんですけどね」
◆
エオリアは肩をすくめる。
「普通は、面倒ですわ」
◆
夜。
屋敷の外は静まり返っている。
誰かが来る気配もない。
◆
だが、エオリアは不安にならなかった。
来ないなら、それでいい。
◆
ベッドに入る前、彼女は今日の残りの箱を眺める。
「……明日も、同じでいいですわね」
◆
全自動チョコレート製造魔法は、止まらない。
だが、世界は無理に回さなくていい。
◆
エオリア・フロステリアは、
売れ行きも、評判も、期待も手放した。
残ったのは――
自分が美味しいと思えるものを、
自分のペースで味わえる、
静かで、甘い日常。
◆
「売れなくなったのではありませんわ」
灯りを落としながら、彼女はもう一度、心の中で繰り返す。
「……満たされたのです」
それ以上の理由は、どこにも必要なかった。
朝。
エオリア・フロステリアは、紅茶を淹れながら、いつもより少しだけ機嫌がよかった。
「……今日は、いい香りですわね」
理由は特にない。
あるとすれば――余計な予定が、なにもないこと。
◆
全自動チョコレート製造魔法は、今日も淡々と稼働している。
一定の速度。
一定の品質。
一定の量。
魔力の流れは安定し、停止させる理由もない。
「……相変わらず、多いですわね」
机の上に並ぶ箱を見て、エオリアは小さく呟いた。
◆
エレナが帳面を持ってくる。
「本日の販売分、準備完了しています」
「どれくらい?」
「昨日と、ほぼ同じ量です」
「……十分ですわ」
◆
正午。
販売開始。
列は、短い。
もはや“列”と呼べるかどうかも怪しい。
◆
「こんにちは」
「こんにちは」
それだけのやりとり。
◆
「今日は、二箱」
「はい」
「次の方」
◆
誰も急がない。
誰も騒がない。
売り場には、妙な落ち着きがあった。
◆
昼過ぎ。
販売終了。
箱は、半分以上残っている。
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エレナが、少し気にしたように言う。
「……今日は、売れ残りましたね」
「ええ」
エオリアは、まったく動じなかった。
◆
「……よろしいのですか?」
「なにが?」
「その……売上が……」
◆
エオリアは、紅茶を一口飲んでから、静かに答えた。
「売れなくなったのではありませんわ」
「?」
「満たされたのです」
◆
エレナは、少し考えた。
「……つまり……」
「必要な人のところに、必要な分だけ行き渡った。それだけですわ」
◆
売れ残りは、失敗ではない。
過剰に売ろうとしない限り、それはただの“余り”。
◆
エオリアにとって、チョコレートは――
売るためのものではない。
儲けるためのものでもない。
食べるためのものだ。
◆
夕方。
屋敷の中は、甘い香りで満たされている。
だが、以前のような“圧”はない。
◆
エオリアは、ソファで本を読みながら、気まぐれに一箱開けた。
「……今日は、これにしますわ」
一粒。
ゆっくりと、味わう。
◆
「……美味しい」
それだけで、目的は達成されている。
◆
エレナが、ぽつりと聞いた。
「お嬢様……これから、どうなさるおつもりですか?」
◆
エオリアは、しばらく考えてから答えた。
「どうもしませんわ」
◆
「売りたい日には売る。
食べたい日は食べる。
余ったら、置いておく」
◆
「……それだけ?」
「それ以上、なにが必要ですの?」
◆
エレナは、思わず笑ってしまった。
「……普通、逆なんですけどね」
◆
エオリアは肩をすくめる。
「普通は、面倒ですわ」
◆
夜。
屋敷の外は静まり返っている。
誰かが来る気配もない。
◆
だが、エオリアは不安にならなかった。
来ないなら、それでいい。
◆
ベッドに入る前、彼女は今日の残りの箱を眺める。
「……明日も、同じでいいですわね」
◆
全自動チョコレート製造魔法は、止まらない。
だが、世界は無理に回さなくていい。
◆
エオリア・フロステリアは、
売れ行きも、評判も、期待も手放した。
残ったのは――
自分が美味しいと思えるものを、
自分のペースで味わえる、
静かで、甘い日常。
◆
「売れなくなったのではありませんわ」
灯りを落としながら、彼女はもう一度、心の中で繰り返す。
「……満たされたのです」
それ以上の理由は、どこにも必要なかった。
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