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第21話 評価されても困りますわ、人が多いと落ち着きませんもの
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第21話 評価されても困りますわ、人が多いと落ち着きませんもの
朝。
エオリア・フロステリアは、目を覚ました瞬間から機嫌がよくなかった。
「……騒がしいですわね」
まだ寝室のカーテンも開けていないというのに、屋敷の外から人の気配が伝わってくる。
足音。話し声。馬車の軋む音。
――嫌な予感しかしない。
◆
朝食の席で、エレナが遠慮がちに報告する。
「本日、王都より視察団が到着しております」
「……何名ですの?」
「正式には十二名ほどですが、随行や護衛を含めると……二十名を超えています」
エオリアは、スプーンを止めた。
「……多すぎますわ」
「視察ですから……」
「視察という行為自体が、すでに落ち着きません」
◆
彼女は、ため息をついた。
「今日は、何も変えていませんよね?」
「はい。販売条件も、製造量も、すべて通常通りです」
「なら問題ありませんわ」
――本来なら。
◆
だが、問題は“人”だった。
◆
正午前。
屋敷の応接間には、視察団がずらりと並んでいた。
魔法省の役人。
研究者らしき人物。
地方行政の代表。
そして、記録係。
全員が、どこか期待に満ちた顔をしている。
◆
「本日はお時間をいただき、誠に――」
挨拶が始まる。
エオリアは、内心で数を数えていた。
(……まだ終わりませんの?)
◆
「近年注目されている“魔導スイーツ”の実態を――」
「“生活魔法の新たな可能性”として――」
「国益への影響について――」
◆
話は続く。
長い。
とにかく、長い。
◆
エオリアは、ようやく口を開いた。
「要点だけ、お願いいたしますわ」
場の空気が、ぴたりと止まった。
◆
「わたくしは、評価されたいわけではありません」
「国に貢献するつもりもありません」
「研究対象になる気も、ありません」
◆
一人の研究者が、思わず言葉を挟む。
「ですが……あなたの魔法は、革新的で――」
「革新するつもりはありません」
即答だった。
◆
「わたくしはただ、自分が美味しいと思うものを作って、食べているだけですわ」
「余った分を、邪魔だから売っているだけ」
◆
視察団の面々は、言葉を失った。
想定していた“理想的な返答”と、あまりに違う。
◆
エオリアは、静かに続ける。
「ですから……」
一拍置いて。
「人が多いと、落ち着きません」
◆
沈黙。
それは拒絶でも、敵意でもない。
ただの、本音だった。
◆
「視察は、必要ですか?」
役人が恐る恐る尋ねる。
◆
エオリアは、首を傾げた。
「わたくしは、困っていません」
「生活も、製造も、販売も、すでに回っています」
◆
「評価されても、困りますわ」
「増やすつもりも、広げるつもりも、ありません」
◆
その言葉に、エレナは内心で頷いた。
(……いつも通りだわ)
◆
視察団は、その後も屋敷内を案内された。
工房。
保管庫。
販売準備室。
どれも整っているが、過剰ではない。
◆
「……思ったより、簡素ですね」
「ええ。面倒ですもの」
◆
「管理は、厳重なのですか?」
「していませんわ。壊れたら、その時です」
◆
すべての答えが、肩透かしだった。
◆
視察終了後。
ようやく人が引いた屋敷の廊下で、エオリアは小さく息を吐いた。
「……疲れましたわ」
「お嬢様、ほとんど何もなさっていませんが……」
「人が多いだけで、疲れるものです」
◆
午後。
彼女は、いつもの場所で、いつものようにチョコを味わった。
「……落ち着きますわね」
◆
外では、視察団が興奮気味に何かを話し合っている。
だが、エオリアは一切、耳を傾けなかった。
◆
評価されても、困る。
注目されても、嬉しくない。
◆
彼女が欲しいのは、静けさと、美味しさだけ。
◆
夕方。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も淡々と稼働している。
余る分も、変わらない。
◆
「……明日も、通常通りですわね」
それを確認してから、エオリアは昼寝の準備を始めた。
外がどう騒ごうと、関係ない。
彼女の日常は、今日も一切、揺らいでいなかった。
朝。
エオリア・フロステリアは、目を覚ました瞬間から機嫌がよくなかった。
「……騒がしいですわね」
まだ寝室のカーテンも開けていないというのに、屋敷の外から人の気配が伝わってくる。
足音。話し声。馬車の軋む音。
――嫌な予感しかしない。
◆
朝食の席で、エレナが遠慮がちに報告する。
「本日、王都より視察団が到着しております」
「……何名ですの?」
「正式には十二名ほどですが、随行や護衛を含めると……二十名を超えています」
エオリアは、スプーンを止めた。
「……多すぎますわ」
「視察ですから……」
「視察という行為自体が、すでに落ち着きません」
◆
彼女は、ため息をついた。
「今日は、何も変えていませんよね?」
「はい。販売条件も、製造量も、すべて通常通りです」
「なら問題ありませんわ」
――本来なら。
◆
だが、問題は“人”だった。
◆
正午前。
屋敷の応接間には、視察団がずらりと並んでいた。
魔法省の役人。
研究者らしき人物。
地方行政の代表。
そして、記録係。
全員が、どこか期待に満ちた顔をしている。
◆
「本日はお時間をいただき、誠に――」
挨拶が始まる。
エオリアは、内心で数を数えていた。
(……まだ終わりませんの?)
◆
「近年注目されている“魔導スイーツ”の実態を――」
「“生活魔法の新たな可能性”として――」
「国益への影響について――」
◆
話は続く。
長い。
とにかく、長い。
◆
エオリアは、ようやく口を開いた。
「要点だけ、お願いいたしますわ」
場の空気が、ぴたりと止まった。
◆
「わたくしは、評価されたいわけではありません」
「国に貢献するつもりもありません」
「研究対象になる気も、ありません」
◆
一人の研究者が、思わず言葉を挟む。
「ですが……あなたの魔法は、革新的で――」
「革新するつもりはありません」
即答だった。
◆
「わたくしはただ、自分が美味しいと思うものを作って、食べているだけですわ」
「余った分を、邪魔だから売っているだけ」
◆
視察団の面々は、言葉を失った。
想定していた“理想的な返答”と、あまりに違う。
◆
エオリアは、静かに続ける。
「ですから……」
一拍置いて。
「人が多いと、落ち着きません」
◆
沈黙。
それは拒絶でも、敵意でもない。
ただの、本音だった。
◆
「視察は、必要ですか?」
役人が恐る恐る尋ねる。
◆
エオリアは、首を傾げた。
「わたくしは、困っていません」
「生活も、製造も、販売も、すでに回っています」
◆
「評価されても、困りますわ」
「増やすつもりも、広げるつもりも、ありません」
◆
その言葉に、エレナは内心で頷いた。
(……いつも通りだわ)
◆
視察団は、その後も屋敷内を案内された。
工房。
保管庫。
販売準備室。
どれも整っているが、過剰ではない。
◆
「……思ったより、簡素ですね」
「ええ。面倒ですもの」
◆
「管理は、厳重なのですか?」
「していませんわ。壊れたら、その時です」
◆
すべての答えが、肩透かしだった。
◆
視察終了後。
ようやく人が引いた屋敷の廊下で、エオリアは小さく息を吐いた。
「……疲れましたわ」
「お嬢様、ほとんど何もなさっていませんが……」
「人が多いだけで、疲れるものです」
◆
午後。
彼女は、いつもの場所で、いつものようにチョコを味わった。
「……落ち着きますわね」
◆
外では、視察団が興奮気味に何かを話し合っている。
だが、エオリアは一切、耳を傾けなかった。
◆
評価されても、困る。
注目されても、嬉しくない。
◆
彼女が欲しいのは、静けさと、美味しさだけ。
◆
夕方。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も淡々と稼働している。
余る分も、変わらない。
◆
「……明日も、通常通りですわね」
それを確認してから、エオリアは昼寝の準備を始めた。
外がどう騒ごうと、関係ない。
彼女の日常は、今日も一切、揺らいでいなかった。
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