エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第22話 余っただけですわ、感動されても困りますの

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第22話 余っただけですわ、感動されても困りますの

 昼前。

 エオリア・フロステリアは、工房の中を一巡してから、静かに首を傾げた。

「……今日も、余っていますわね」

 それは驚きでも嘆きでもない。
 ただの事実確認だった。

 



 

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も一定の速度で稼働している。

 止めない理由は、単純だ。

 止めるほうが、面倒だから。

「止める設定、面倒ですもの」

 結果として、チョコレートは毎日、確実に“作りすぎる”。

 



 

 エレナが帳簿を確認しながら言った。

「昨日の販売分を差し引いても、かなり残っています」

「捨てるのは、論外ですわね」

「はい」

「配るのも、少々面倒ですわ」

「……はい」

 



 

 昨日来た視察団の顔が、エオリアの脳裏をよぎる。

 大勢。
 長話。
 熱心すぎる目。

「……あの方たち、まだ近くにいますの?」

「はい。村の宿をすべて押さえているそうです」

「……やはり、面倒ですわね」

 



 

 エオリアは、あっさりと結論を出した。

「では、渡しましょう」

「……販売ですか?」

「いいえ。処理です」

 



 

 昼過ぎ。

 屋敷の一室が、簡素な提供所として整えられた。

 屋内。
 温度管理あり。
 湿度調整済み。

 食べ物を扱う最低限の配慮だけは、きちんとされている。

 



 

 机の上には、箱が積まれている。

 量は、いつもの販売日より明らかに多い。

 



 

 エレナが確認する。

「値段は、いつも通りで?」

「ええ。変える理由がありません」

「購入制限は?」

「ありませんわ。一人一回まで。それだけ」

 



 

 そして。

 扉を開ける。

 



 

「……これは……?」

 最初に入ってきたのは、昨日の視察団の一人だった。

 



 

「余りましたので、お譲りしますわ」

「……理由は?」

「置き場所が邪魔です」

 



 

 相手は、一瞬言葉を失った。

「……視察団向けの、特別提供……では?」

「違いますわ」

 



 

 エオリアは、淡々と言った。

「今日は在庫処理です」

 



 

 結果は、予想以上だった。

 



 

 一箱。
 二箱。
 三箱。

 次々と運ばれるチョコレート。

 



 

 視察団の一人が、思わず声を上げる。

「……これほどの量を、無造作に……?」

「無造作ではありません」

「?」

「きちんと並べていますわ」

 



 

 そのやりとりを皮切りに、場の空気が変わった。

 



 

 一人が、口にする。

「……本当に、余っているだけなのですね」

「ええ」

 



 

 別の者が、ゆっくり噛みしめるように言った。

「……味が、安定しています。昨日と、まったく同じ」

「当然ですわ。全自動ですもの」

 



 

 そして、誰かが言い出した。

「……感動しました」

 



 

 エオリアは、露骨に顔をしかめた。

「それは、困ります」

 



 

「感動されても、処理量は減りません」

「評価されても、製造は止まりません」

「褒められても、在庫は増えます」

 



 

 視察団は、完全に混乱していた。

 彼らの想定では――

 これは、演出。
 戦略。
 印象操作。

 そうであるはずだった。

 



 

 だが、目の前の女性は、ただ淡々と箱を指差す。

「次の方」

 



 

 昼過ぎ。

 積まれていた箱は、ほぼ消えた。

 



 

 エレナが、確認する。

「……想定以上に、減りました」

「空間が空きましたわね」

「はい」

 



 

 視察団の一人が、勇気を出して尋ねる。

「……この提供、今後も?」

 



 

 エオリアは、即答した。

「余ったら、また行いますわ」

「……定期的に?」

「不定期です。余ったら、です」

 



 

 視察団は、なぜか深く頭を下げた。

「……ありがとうございました」

 



 

 扉が閉まる。

 ようやく、静けさが戻る。

 



 

 エオリアは、ソファに座り、肩の力を抜いた。

「……やっと、片付きましたわ」

「感動されていましたが……」

「余計です」

 



 

 チョコを一粒、口に含む。

「……美味しいですわ」

 



 

 彼女にとって、それがすべてだった。

 評価も。
 感動も。
 意味付けも。

 すべて、在庫処理の副産物にすぎない。

 



 

 夕方。

 工房では、全自動チョコレート製造魔法が、変わらず稼働している。

 



 

「……明日も、余りますわね」

 それを見越して、エオリアは昼寝の準備を始めた。

 感動が広がろうと、
 評価が膨らもうと、
 彼女の一日は、ただ静かに終わっていった。

 ――余ったものを、片付けただけ。

 それ以上でも、以下でもなかった。
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