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第32話 保存が面倒なので、箱を作りましたわ
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第32話 保存が面倒なので、箱を作りましたわ
冷たいものは、溶ける。
それは理屈でも、理論でもなく、事実だった。
エオリア・フロステリアは、魔導厨房の作業台に置かれた器を見下ろし、小さく眉をひそめていた。
器の中には、昨日作ったばかりの冷菓がある。
白いものと、茶色いもの。
つまり、香りの良い冷たい甘味と、チョコレート味の冷たい甘味。
どちらも、美味しい。
それは間違いない。
だが。
「……溶けていますわね」
器の縁に、わずかに液体が溜まっている。
全体が崩れるほどではない。
だが、形が甘い。
口どけが変わる。
エオリアにとって、それは十分に不快だった。
「……食べ物が、勝手に状態を変えるのは、好きではありませんわ」
彼女は、冷静だった。
怒っているわけでも、慌てているわけでもない。
ただ、納得がいっていないだけだ。
冷却魔法はある。
温度制御もできる。
ならば、なぜ溶けるのか。
答えは単純だった。
「……容器が、外気の影響を受けているからですわね」
器そのものが、周囲の温度を拾っている。
冷やした中身を守る構造になっていない。
つまり。
「保存が、面倒ですわ」
エオリアは即座に結論を出した。
冷たいものを作るのは、楽しい。
食べるのも、満足する。
だが、溶けるたびに作り直すのは、面倒だ。
「……なら、溶けなければいいだけですわ」
それ以上の理由は、必要なかった。
彼女は、紙とペンを取り出し、簡単な図を書き始める。
四角い箱。
内側に冷却層。
外側に断熱層。
「……魔法は、最小限でいいですわね」
常時冷却は不要。
外気遮断が主。
中の温度を一定に保つだけ。
「強い魔法は、疲れますもの」
あくまで、自分が楽をするための設計だ。
そこへ、静かに扉が開いた。
「お嬢様、失礼いたします」
侍女のエレナだった。
手には帳簿。
「……あら。なにか問題でも?」
「いえ……その……冷たい甘味が、また増えていまして……」
視線は、作業台の奥。
全自動製造魔法が、今日も淡々と稼働している。
白いもの。
茶色いもの。
規則正しく、量産されていく冷菓。
「……止めていませんでしたわね」
「はい……」
「まぁ、いいでしょう」
エオリアは、特に気にしなかった。
「どうせ、食べますもの」
「……全部、ですか?」
「食べきれなければ、考えますわ」
エレナは、それ以上、何も言わなかった。
エオリアは再び設計図に集中する。
「箱に入れて、温度を維持。
開けた時だけ、冷気を逃がさない構造……」
試しに、小型の木箱を一つ取り寄せる。
内側に簡易魔導陣。
外側に遮断結界。
数分後。
「……できましたわ」
彼女は、出来上がった箱に冷菓を一つ入れ、蓋を閉めた。
しばらく放置。
時間が経ってから、再び蓋を開ける。
「……問題ありませんわね」
形は崩れていない。
温度も保たれている。
エオリアは満足そうに頷いた。
「これなら、まとめて保存できますわ」
エレナが恐る恐る口を開く。
「……お嬢様。それ、いくつ作るご予定で……?」
「必要な分だけですわ」
「……必要な分、とは……」
エオリアは、全自動製造魔法の方を一瞥した。
「……この量ですと、箱が足りませんわね」
淡々とした声だった。
「では……追加で、作りますわ」
箱を。
それだけの話だ。
数時間後。
魔導厨房の一角には、同じ形の箱が積まれていた。
中身は、冷たい甘味。
溶けない。
崩れない。
「……これで、安心ですわ」
エオリアは、ようやく落ち着いた様子で椅子に座った。
「作る。
食べる。
保存する。
それだけですのに……」
ほんの少し、考える。
「……余りますわね」
箱の数と、消費量を見比べて、そう判断した。
だが、その顔に焦りはない。
「……まぁ、後で考えましょう」
今は、冷たいものを食べる時間だ。
彼女は箱を一つ開け、スプーンを取り、何事もなかったかのように冷菓を口に運んだ。
冷たい。
甘い。
満足。
それで、十分だった。
この日。
冷たい甘味を溶かさず保存できる箱が完成したが、
エオリアにとって、それは
「面倒が一つ減った」
それ以上でも、それ以下でもなかった。
ただ、その箱が
後に多くの人間の生活を変えることになるなど、
彼女は、まったく考えていなかった。
冷たいものは、溶ける。
それは理屈でも、理論でもなく、事実だった。
エオリア・フロステリアは、魔導厨房の作業台に置かれた器を見下ろし、小さく眉をひそめていた。
器の中には、昨日作ったばかりの冷菓がある。
白いものと、茶色いもの。
つまり、香りの良い冷たい甘味と、チョコレート味の冷たい甘味。
どちらも、美味しい。
それは間違いない。
だが。
「……溶けていますわね」
器の縁に、わずかに液体が溜まっている。
全体が崩れるほどではない。
だが、形が甘い。
口どけが変わる。
エオリアにとって、それは十分に不快だった。
「……食べ物が、勝手に状態を変えるのは、好きではありませんわ」
彼女は、冷静だった。
怒っているわけでも、慌てているわけでもない。
ただ、納得がいっていないだけだ。
冷却魔法はある。
温度制御もできる。
ならば、なぜ溶けるのか。
答えは単純だった。
「……容器が、外気の影響を受けているからですわね」
器そのものが、周囲の温度を拾っている。
冷やした中身を守る構造になっていない。
つまり。
「保存が、面倒ですわ」
エオリアは即座に結論を出した。
冷たいものを作るのは、楽しい。
食べるのも、満足する。
だが、溶けるたびに作り直すのは、面倒だ。
「……なら、溶けなければいいだけですわ」
それ以上の理由は、必要なかった。
彼女は、紙とペンを取り出し、簡単な図を書き始める。
四角い箱。
内側に冷却層。
外側に断熱層。
「……魔法は、最小限でいいですわね」
常時冷却は不要。
外気遮断が主。
中の温度を一定に保つだけ。
「強い魔法は、疲れますもの」
あくまで、自分が楽をするための設計だ。
そこへ、静かに扉が開いた。
「お嬢様、失礼いたします」
侍女のエレナだった。
手には帳簿。
「……あら。なにか問題でも?」
「いえ……その……冷たい甘味が、また増えていまして……」
視線は、作業台の奥。
全自動製造魔法が、今日も淡々と稼働している。
白いもの。
茶色いもの。
規則正しく、量産されていく冷菓。
「……止めていませんでしたわね」
「はい……」
「まぁ、いいでしょう」
エオリアは、特に気にしなかった。
「どうせ、食べますもの」
「……全部、ですか?」
「食べきれなければ、考えますわ」
エレナは、それ以上、何も言わなかった。
エオリアは再び設計図に集中する。
「箱に入れて、温度を維持。
開けた時だけ、冷気を逃がさない構造……」
試しに、小型の木箱を一つ取り寄せる。
内側に簡易魔導陣。
外側に遮断結界。
数分後。
「……できましたわ」
彼女は、出来上がった箱に冷菓を一つ入れ、蓋を閉めた。
しばらく放置。
時間が経ってから、再び蓋を開ける。
「……問題ありませんわね」
形は崩れていない。
温度も保たれている。
エオリアは満足そうに頷いた。
「これなら、まとめて保存できますわ」
エレナが恐る恐る口を開く。
「……お嬢様。それ、いくつ作るご予定で……?」
「必要な分だけですわ」
「……必要な分、とは……」
エオリアは、全自動製造魔法の方を一瞥した。
「……この量ですと、箱が足りませんわね」
淡々とした声だった。
「では……追加で、作りますわ」
箱を。
それだけの話だ。
数時間後。
魔導厨房の一角には、同じ形の箱が積まれていた。
中身は、冷たい甘味。
溶けない。
崩れない。
「……これで、安心ですわ」
エオリアは、ようやく落ち着いた様子で椅子に座った。
「作る。
食べる。
保存する。
それだけですのに……」
ほんの少し、考える。
「……余りますわね」
箱の数と、消費量を見比べて、そう判断した。
だが、その顔に焦りはない。
「……まぁ、後で考えましょう」
今は、冷たいものを食べる時間だ。
彼女は箱を一つ開け、スプーンを取り、何事もなかったかのように冷菓を口に運んだ。
冷たい。
甘い。
満足。
それで、十分だった。
この日。
冷たい甘味を溶かさず保存できる箱が完成したが、
エオリアにとって、それは
「面倒が一つ減った」
それ以上でも、それ以下でもなかった。
ただ、その箱が
後に多くの人間の生活を変えることになるなど、
彼女は、まったく考えていなかった。
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