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第33話 余ったので、売ることにしましたわ
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第33話 余ったので、売ることにしましたわ
増えていた。
それは、感覚ではなく、事実だった。
魔導厨房の一角に並んだ箱を前にして、エオリア・フロステリアは、静かに状況を把握していた。
冷却ボックスの中には、白いものと茶色いもの。
香りの良い冷たい甘味と、チョコレート味の冷たい甘味。
どちらも、溶けていない。
どちらも、品質は完璧。
どちらも、美味しい。
だが。
「……食べきれませんわね」
彼女は淡々と結論を出した。
一日に食べられる量には限界がある。
無理に食べれば、満足感が下がる。
それでは本末転倒だ。
「美味しいものは、美味しいまま食べたいですもの」
その方針は、最初から変わっていない。
全自動製造魔法は、今日も稼働している。
止める理由はない。
稼働を止める方が、面倒だからだ。
結果として、冷たい甘味は増え続ける。
「……捨てるのは、論外ですわね」
エオリアは即座に否定した。
食べ物を捨てる理由は、どこにもない。
「配る……のも、少々、面倒ですわ」
人を呼ぶ。
説明する。
気を使う。
どれも、今の彼女にとっては不要な作業だった。
では、どうするか。
エオリアは、しばらく考えた後、ごく自然に、ひとつの答えに辿り着いた。
「……売ればいいですわね」
それは、積極的な判断ではなかった。
処分方法として、もっとも手間が少ない選択だった。
「欲しい方が、取りに来てくれればいいだけですわ」
説明はしない。
宣伝もしない。
ただ、置いておく。
エオリアはエレナを呼んだ。
「エレナ、確認しておきたいことがありますわ」
「はい、お嬢様」
「冷却ボックスに入れた状態なら、移動させても品質は変わりませんわね?」
「……はい。箱自体が温度を維持しますので」
「なら、問題ありませんわ」
それだけだった。
翌日。
屋敷の敷地内、正門の内側。
直射日光もなく、清掃が行き届いた小さな待合所。
本来は来客用に使われていた場所に、簡素な台が一つ置かれた。
その上に、冷却ボックスが並ぶ。
中身は二種類。
白いもの。
茶色いもの。
札には、短い文字。
余りました
一箱 銅貨一枚
それ以上の説明はない。
エレナは、少し戸惑いながらも、設置を終えた。
「……お嬢様、安すぎませんか?」
「原料も、手間も、余っているものですもの」
エオリアは、本当に不思議そうな顔をしていた。
「高くする理由が、見当たりませんわ」
「……ですが、これでは……」
「売れなければ、それで構いませんわ」
エオリアは、冷菓を一口食べながら言った。
「減れば、置き場所が空きます。
それだけの話ですわ」
最初に来たのは、近隣の商人だった。
「……これは、例の冷たい甘味ですか?」
「ええ。余っていますので」
「……銅貨一枚で?」
「はい」
商人は、一瞬、警戒した。
だが、試しに一箱買い、蓋を開け、スプーンを入れた。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
冷たい。
甘い。
香りが立つ。
「……これは……」
だが、エオリアは反応を待たない。
「次の方、どうぞ」
感想は不要。
評価も不要。
買うなら買う。
買わないなら、それで終わり。
そういう態度だった。
結果として。
冷却ボックスは、ゆっくりと減っていった。
一人が一箱。
ある者は白。
ある者は茶色。
ある者は、両方。
「……選べるのが、嬉しいですね」
誰かがそう呟いたが、エオリアは聞いていなかった。
彼女は屋敷の中で、昼寝をしていた。
売れたかどうかは、重要ではない。
余ったものが減るかどうか、それだけだ。
夕方。
エレナが報告に来る。
「お嬢様、本日の分は……すべて売れました」
「……そう」
それだけの反応だった。
「明日は……どうなさいますか?」
「同じですわ」
エオリアは、あくびを一つ。
「また余りますもの」
冷たい甘味は、今日も作られる。
食べたい分だけ食べる。
余った分は、売る。
それだけの循環。
この日。
南方の一角で始まった小さな販売は、
後に王都を巻き込む騒ぎになるが。
少なくとも、この時点でのエオリアにとっては。
「……便利になりましたわね」
その一言で、すべてが済んでいた。
増えていた。
それは、感覚ではなく、事実だった。
魔導厨房の一角に並んだ箱を前にして、エオリア・フロステリアは、静かに状況を把握していた。
冷却ボックスの中には、白いものと茶色いもの。
香りの良い冷たい甘味と、チョコレート味の冷たい甘味。
どちらも、溶けていない。
どちらも、品質は完璧。
どちらも、美味しい。
だが。
「……食べきれませんわね」
彼女は淡々と結論を出した。
一日に食べられる量には限界がある。
無理に食べれば、満足感が下がる。
それでは本末転倒だ。
「美味しいものは、美味しいまま食べたいですもの」
その方針は、最初から変わっていない。
全自動製造魔法は、今日も稼働している。
止める理由はない。
稼働を止める方が、面倒だからだ。
結果として、冷たい甘味は増え続ける。
「……捨てるのは、論外ですわね」
エオリアは即座に否定した。
食べ物を捨てる理由は、どこにもない。
「配る……のも、少々、面倒ですわ」
人を呼ぶ。
説明する。
気を使う。
どれも、今の彼女にとっては不要な作業だった。
では、どうするか。
エオリアは、しばらく考えた後、ごく自然に、ひとつの答えに辿り着いた。
「……売ればいいですわね」
それは、積極的な判断ではなかった。
処分方法として、もっとも手間が少ない選択だった。
「欲しい方が、取りに来てくれればいいだけですわ」
説明はしない。
宣伝もしない。
ただ、置いておく。
エオリアはエレナを呼んだ。
「エレナ、確認しておきたいことがありますわ」
「はい、お嬢様」
「冷却ボックスに入れた状態なら、移動させても品質は変わりませんわね?」
「……はい。箱自体が温度を維持しますので」
「なら、問題ありませんわ」
それだけだった。
翌日。
屋敷の敷地内、正門の内側。
直射日光もなく、清掃が行き届いた小さな待合所。
本来は来客用に使われていた場所に、簡素な台が一つ置かれた。
その上に、冷却ボックスが並ぶ。
中身は二種類。
白いもの。
茶色いもの。
札には、短い文字。
余りました
一箱 銅貨一枚
それ以上の説明はない。
エレナは、少し戸惑いながらも、設置を終えた。
「……お嬢様、安すぎませんか?」
「原料も、手間も、余っているものですもの」
エオリアは、本当に不思議そうな顔をしていた。
「高くする理由が、見当たりませんわ」
「……ですが、これでは……」
「売れなければ、それで構いませんわ」
エオリアは、冷菓を一口食べながら言った。
「減れば、置き場所が空きます。
それだけの話ですわ」
最初に来たのは、近隣の商人だった。
「……これは、例の冷たい甘味ですか?」
「ええ。余っていますので」
「……銅貨一枚で?」
「はい」
商人は、一瞬、警戒した。
だが、試しに一箱買い、蓋を開け、スプーンを入れた。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
冷たい。
甘い。
香りが立つ。
「……これは……」
だが、エオリアは反応を待たない。
「次の方、どうぞ」
感想は不要。
評価も不要。
買うなら買う。
買わないなら、それで終わり。
そういう態度だった。
結果として。
冷却ボックスは、ゆっくりと減っていった。
一人が一箱。
ある者は白。
ある者は茶色。
ある者は、両方。
「……選べるのが、嬉しいですね」
誰かがそう呟いたが、エオリアは聞いていなかった。
彼女は屋敷の中で、昼寝をしていた。
売れたかどうかは、重要ではない。
余ったものが減るかどうか、それだけだ。
夕方。
エレナが報告に来る。
「お嬢様、本日の分は……すべて売れました」
「……そう」
それだけの反応だった。
「明日は……どうなさいますか?」
「同じですわ」
エオリアは、あくびを一つ。
「また余りますもの」
冷たい甘味は、今日も作られる。
食べたい分だけ食べる。
余った分は、売る。
それだけの循環。
この日。
南方の一角で始まった小さな販売は、
後に王都を巻き込む騒ぎになるが。
少なくとも、この時点でのエオリアにとっては。
「……便利になりましたわね」
その一言で、すべてが済んでいた。
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