エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第37話 称号? 肩が凝りそうですわ

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第37話 称号? 肩が凝りそうですわ

その話は、昼寝の途中で持ち込まれた。

エオリア・フロステリアは、ソファに横になり、冷却魔法でほどよく冷やされた室内で、半分まどろみながら天井を眺めていた。手には、溶けないよう調整されたチョコレートアイス。今のところ、人生は非常に順調である。

「お嬢様……失礼いたします」

エレナの声が、やや遠慮がちに響く。

「……緊急?」

「いいえ。ですが、その……王都から、また」

エオリアは、目を閉じたまま言った。

「帰還要請でしたら、昨日断りましたわ」

「今回は、別件です」

その言い方だけで、だいたい察しはついた。

「称号、ですか」

「……はい」

エレナは、申し訳なさそうに頷いた。

王都魔法省、王立学院、さらに商業評議会の連名による正式な打診。 内容は非常に分かりやすい。

エオリア・フロステリアに、新たな称号を授与したい。 理由は、生活魔法の発展、冷菓文化の普及、経済への好影響、国民の精神安定への寄与など。

「随分と、盛られてますわね」

エオリアは、ようやく目を開けた。

「書類が長いです」

「ええ。三枚あります」

「読むのが面倒ですわ」

「要点だけまとめますと……」

「結構です」

即答だった。

エオリアは、アイスを一口食べる。

「称号というのは、つまり責任が増えるということですわよね」

「……一般的には」

「肩が凝りますわ」

「……はい」

彼女は、上半身を起こして、少しだけ考える素振りを見せた。

「称号を授けられると、式典がありますわよね」

「あります」

「人が集まりますわよね」

「集まります」

「長い話、拍手、移動、挨拶、社交」

エオリアは、淡々と数え上げる。

「全部、嫌ですわ」

結論は、出ていた。

「お断りします」

「理由は……?」

「肩が凝りそうですわ」

エレナは、何も言えなかった。

それは冗談のようでいて、この屋敷では完全に合理的な理由だった。

午後。

ライルが、冷却ボックスの調整をしながら言った。

「称号、断ったんですって?」

「ええ」

「もったいないって言われませんでした?」

「言われましたわ」

「どう返しました?」

「肩が凝るので、いりませんと」

「……潔いですね」

エオリアは、涼しい顔で答える。

「称号がなくても、アイスは冷えますし、チョコは甘いですわ」

「確かに」

「困っていませんもの」

それがすべてだった。

彼女は、評価を求めていない。 承認も、名声も、肩書きも、生活を快適にしてくれるわけではない。

むしろ、増えるのは面倒事だけだ。

「第一、称号が増えると、呼び名が長くなりますわ」

「……ああ」

「覚えるのが面倒です」

「呼ばれる側なのに?」

「なおさらですわ」

夕方。

屋敷の門前では、今日も淡々と販売が行われている。 混乱はない。特別扱いもない。誰も、彼女を崇めない。

ただ、欲しい人が来て、買って、帰る。 それだけ。

エオリアは、その様子を遠目に眺めながら、ソファに戻った。

「平和ですわね」

「はい」

エレナは、紅茶を差し出す。

「称号がなくても、十分すぎるほどです」

「ええ」

エオリアは、紅茶を飲みながら言った。

「私は、私の名前だけで十分ですわ」

「それ以上は、重たい」

「はい」

その夜。

王都には、短い返書が届いた。

称号授与の件、辞退する。 理由は、私生活を重視したいから。 今後も、特別な協力はしない。 ただし、販売は今まで通り続ける。

非常に簡潔で、感情のない文面だった。

それを読んだ者たちは、困惑し、頭を抱え、理解に苦しんだ。

だが、エオリアにとっては、何の問題もない。

今日も、冷たいものは冷たく。 甘いものは甘く。 肩は凝らず。

それでいい。

彼女は、再びソファに横になり、目を閉じた。

「……称号より、昼寝ですわ」

そう呟いて。

そして、何事もなかったように、今日が終わった。
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