婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾

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第8話: 魔法の秘密

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 第8話: 魔法の秘密

隣町のギルドは、王都のものより賑やかだった。石造りの建物に、依頼板が壁一面を埋め尽くしている。ヴィオラはセイルの隣で、板を眺めていた。銀髪の彼は、静かに依頼を吟味している。

「これ、どう?」

ヴィオラが指差したのは、森の奥で出没する魔物の討伐依頼。報酬は金貨五枚。危険度は高めだが、二人の力ならこなせそうだ。

セイルは頷いた。

「いい。君の影で、敵を幻惑できる。俺が仕留める」

二人は受付で依頼を受け、早速森へ向かった。町の外れから、深い緑の森が広がる。陽光が葉を透かし、地面に金色の斑点を落とす。

森に入ってすぐ、セイルが口を開いた。

「ヴィオラ。君の力について、もっと話そう」

ヴィオラは少し緊張した。影の守護者の存在は、まだ誰にも明かしていない。

「ええ……何が知りたいの?」

「どうやって目覚めた? 普通の人間が、影の魔法を操れるのは稀だ」

ヴィオラは歩きながら、ゆっくり語り始めた。

「婚約破棄の夜……屈辱で、心が砕けそうになった時。胸の奥から、力が溢れてきたの。影が、私を守ってくれるって」

セイルの瞳が、鋭くなった。

「それは、封印だったのか」

「そう。守護者って言うの。私の血統に宿る存在で、影を操る力を与えてくれる」

セイルは足を止め、ヴィオラを振り返った。

「守護者……聞いたことがある。古代の影の一族が、力を託す精霊だ。君は、その継承者」

ヴィオラは驚いた。

「セイルも、知ってるの?」

「俺の国にも、似た伝承がある。影は、闇ではなく、光を映す鏡。使い手次第で、守りにも、破壊にもなる」

ヴィオラは胸を押さえた。

「私は……復讐のために使いたくない。でも、守りたいものは、今は自分だけ」

セイルは静かに言った。

「それでいい。力は、君の心に従う」

二人はさらに森の奥へ進んだ。木々が密集し、陽光が届かなくなる。ヴィオラは影を呼び、足元を照らした。黒い糸が、道を優しく導く。

「練習しよう」

セイルが提案した。ヴィオラは頷き、手を差し出した。

「幻影……」

影が膨らみ、複数のヴィオラの姿が生まれた。セイルは剣を抜き、軽く斬る。幻影は消え、本物だけが残る。

「まだ、揺らぎがある。集中しろ」

ヴィオラは目を閉じ、深呼吸した。心を落ち着け、影に意志を注ぐ。

「もっと、強く……」

今度の幻影は、完璧だった。セイルが斬っても、消えない。セイルは剣を収め、微笑んだ。

「上達が早い。君は、天才だ」

ヴィオラの頰が赤くなった。

「セイルのおかげよ。教えてくれて、ありがとう」

セイルは視線を逸らし、咳払いした。

「礼はいらない。俺も、君の力を見たいだけだ」

その言葉に、ヴィオラは少し寂しさを覚えた。セイルはいつも、冷たく距離を置く。けれど、行動は優しい。

突然、森の奥から咆哮が響いた。魔物だ。巨体の熊型魔物、ダークベア。赤い目が、二人を睨む。

「来たわ」

ヴィオラは影を広げ、セイルの前に立った。

「私が、幻影で惑わす!」

影の糸がベアを包み、複数の幻影を生む。ベアは混乱し、幻影に爪を振り下ろす。

「今よ!」

セイルが跳び、剣を振り下ろした。一撃で、ベアの首を斬り落とす。血が飛び散り、巨体が倒れた。

ヴィオラは息を荒げ、セイルに近づいた。

「すごい……一撃で」

セイルは剣を拭き、鞘に戻した。

「君の幻影が完璧だったからだ」

二人は報酬の証拠となるベアの牙を抜き、森を抜けた。夕陽が、森を赤く染める。

町に戻り、ギルドで報酬を受け取った。金貨を半分こに分け、ヴィオラは袋を握りしめた。

「これで、少し余裕ができたわ」

セイルは頷いた。

「次は、もっと大きな依頼をしよう」

夜、宿屋の部屋で、ヴィオラはベッドに座った。セイルは隣の部屋。静かな夜に、影が部屋の隅で揺れる。

「守護者……セイルは、信じていい?」

影は答えなかった。だが、温かな気配が、ヴィオラを包んだ。

ヴィオラは微笑んだ。

「少しずつ、信じてみよう」

翌朝、二人は新たな依頼を探しにギルドへ向かった。ヴィオラの心に、セイルへの信頼が、少しずつ芽生えていた。

だが、セイルの過去に、影が忍び寄っていることを、彼女はまだ知らなかった。

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