婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾

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第9話: 共闘の契機

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 第9話: 共闘の契機

朝の森は霧に包まれていた。木々の間を柔らかな陽光が差し込み、地面に淡い光の道を描く。ヴィオラとセイルは、昨夜の野営を片付け、隣町への道を歩いていた。セイルの提案で、今日は少し大きな依頼を受ける予定だ。ギルドの掲示板にあった『失われた遺跡の探索』。報酬は金貨二十枚。危険度は高いが、古代の遺物が見つかれば、さらに高額になるという。

ヴィオラはセイルの横を歩きながら、昨夜のことを思い返していた。焚き火の前で抱きしめられた温もり、セイルの優しい言葉。心が、初めて軽くなった気がする。

「セイル……昨夜は、ありがとう」

セイルは前を向いたまま、静かに答えた。

「気にしなくていい。俺も、話せてよかった」

ヴィオラは微笑んだ。セイルの背中が、少し頼もしく見える。

町に着き、ギルドへ向かった。依頼板の前で、ヴィオラは遺跡探索の紙を指差した。

「これ、受けようか」

セイルは紙を読み、頷いた。

「遺跡は古い影の神殿だという。君の力に、ぴったりかもしれない」

受付の男が、二人を見て目を細めた。

「初心者と中堅か。危ないぞ。遺跡には、影の魔物が出る」

ヴィオラは胸を張った。

「大丈夫です。私たちなら」

男は肩をすくめ、依頼書にサインさせた。

二人は馬を借り、遺跡へ向かった。町から半日ほどの山道。道中、セイルが剣を磨きながら話した。

「遺跡の奥に、影の結晶があるらしい。それが手に入れば、君の力がさらに強くなる」

ヴィオラは興味深く聞いた。

「結晶……?」

「影の力を増幅するものだ。だが、守護者の力が暴走する危険もある」

ヴィオラは頷いた。

「なら、慎重に」

遺跡の入り口は、苔むした石門だった。門を開けると、冷たい風が吹き抜ける。ヴィオラは影を呼び、足元を照らした。黒い糸が、通路を優しく導く。

「ここから、奥へ」

セイルが先頭に立ち、ヴィオラが後ろから影で周囲を探る。通路の壁には、古い壁画。影を操る人々が、神に祈る姿。

「これ……私の血統みたい」

ヴィオラが呟くと、セイルは振り返った。

「そうだ。君の先祖の記録だ」

奥へ進むと、広い部屋に出た。中央に祭壇。祭壇の上に、黒い結晶が浮かんでいる。影の結晶だ。

しかし、結晶を守るように、影の魔物が現れた。黒い霧のような体、赤い目が複数。ゴーレムのような影の守護獣。

「来たわ!」

ヴィオラは影を広げ、幻影を生み出した。複数のヴィオラの姿が、部屋を埋め尽くす。魔物たちは混乱し、幻影に襲いかかる。

「今よ、セイル!」

セイルが跳び、剣を振るった。銀光が閃き、一体の魔物を斬り裂く。ヴィオラは影の糸で、もう一体の足を絡め、動きを封じた。

「連携が完璧だ」

セイルの声に、ヴィオラは笑った。

「セイルの剣が、頼もしいわ!」

戦いは激しかった。魔物が霧を吐き、視界を奪う。ヴィオラは影で霧を払い、セイルに道を開いた。セイルの剣が、次々と魔物を倒す。

最後の魔物が倒れた瞬間、結晶が輝いた。ヴィオラの胸に、熱い力が流れ込む。

「これは……」

守護者の声が、頭に響いた。

『結晶を受け入れよ。君の力は、さらに深まる』

ヴィオラは手を伸ばし、結晶に触れた。黒い光が体を包み、影がより鮮やかになる。幻影が、よりリアルに。予知の力が、少しだけ芽生えた。

セイルが近づき、ヴィオラの肩を支えた。

「大丈夫か?」

ヴィオラは頷き、微笑んだ。

「ええ……強くなった気がする」

セイルは結晶の欠片を拾い、ヴィオラに渡した。

「これで、君の影は安定する」

ヴィオラは欠片を握りしめた。温かな力。

「セイル……一緒に戦えて、よかった」

セイルは小さく笑った。

「俺もだ。君がいなければ、魔物の霧で負けていたかもしれない」

二人は遺跡を抜け、夕陽の下へ出た。報酬の結晶と、魔物の核を袋に詰め、馬で町へ戻る。

ギルドで報酬を受け取り、二人は宿屋へ。部屋で、ヴィオラは結晶を眺めた。

「セイル……これからも、一緒に冒険しよう」

セイルは窓辺に立ち、外を見ながら答えた。

「もちろんだ。君の影と、俺の剣。相性がいい」

ヴィオラは頷き、心の中で思った。

『この人となら、どんな未来も怖くない』

だが、この共闘の先に、セイルの秘密が少しずつ明らかになろうとしていることを、ヴィオラはまだ知らなかった。

王都の影で、セリナの目が、再び二人を追っていた。

(次回、第10話:心の揺らぎ)

(文字数:約2450文字)
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