働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第21話「何もしない奥様、なぜか会議に呼ばれる」

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第21話「何もしない奥様、なぜか会議に呼ばれる」


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 その日は、朝から嫌な予感しかしなかった。

 理由は単純だ。

 ――執事が、やたら丁寧だから。

 「奥様、本日はご予定がございます」

 「……その言い方、絶対にろくな予定ではありませんわよね?」

 セーラは紅茶を一口飲み、ため息をついた。

 「どこから?」

 「王城でございます」

 「はい解散」

 即答だった。


---

 だが、現実は甘くない。

 リチャードが、いつの間にか背後に立っていた。

 「逃げる気か?」

 「ええ。全力で」

 「逃げ切れない」

 「でしょうね!」


---

 王城・会議室。

 そこに集められていたのは、そうそうたる顔ぶれだった。

 財務官、法務官、商務官、地方代表、そして王の側近。

 全員が、一斉にセーラを見る。

 (……帰りたい)

 セーラは、無言で椅子に座った。

 「では、会議を始めよう」

 側近が口を開いた瞬間、空気が張り詰める。

 「本日の議題は――“今後の方針について”」

 セーラは、そっと手を挙げた。

 「先に確認しても?」

 「どうぞ」

 「私は、何か決める立場ではありませんわよ?」

 場が一瞬、沈黙した。

 そして。

 「ええ、承知しております」

 全員が、真顔で頷いた。

 (怖い)


---

 会議は、奇妙な進行を見せた。

 誰も、結論を押し付けてこない。  誰も、責任を他人に投げない。

 「この件は、現場判断で」  「こちらは、慎重に様子見を」  「必要があれば、改めて協議を」

 セーラは、途中で気づいた。

 (……私、置物ですわね?)


---

 休憩時間。

 財務官が、こっそり話しかけてきた。

 「奥様」

 「はい?」

 「その……何か、ご意見は?」

 セーラは、首を傾げた。

 「特には?」

 「……ですよね」

 財務官は、なぜか安心した顔をした。


---

 会議後半。

 議題は、地方都市の税率調整に移った。

 ここで、皆が一斉にセーラを見る。

 「……?」

 「奥様は、どう思われますか?」

 ついに来た。

 セーラは、深く息を吸った。

 「正直に言いますわね」

 「私は、その街を知りません」

 「現地の状況も、生活も、分かりません」

 会議室が、ざわつく。

 「ですから――」

 セーラは、淡々と続けた。

 「決めるべきは、そこに住む人と、責任を負う人ですわ」

 「私が口を出す理由は、ありません」


---

 沈黙。

 そして、誰かが小さく笑った。

 「……それでこそ、ですな」

 「え?」

 「いや、失礼。助かりました」

 なぜか、全員が晴れやかな顔になる。

 (なぜ!?)


---

 会議は、予定より早く終わった。

 帰りの馬車で、セーラはリチャードに言った。

 「私、何もしませんでしたわよ?」

 「それが、一番だった」

 「……本当に?」

 「皆、自分で決める覚悟ができた」

 セーラは、頭を抱えた。

 「私は、ただ楽をしたいだけなのに……」

 「君は、“決めない自由”を与えている」


---

 屋敷に戻ると、使用人たちが穏やかに迎えてくれた。

 「奥様、お疲れ様でした」

 「……ええ」

 その夜。

 セーラは、ベッドに倒れ込んだ。

 「何もしないって……疲れますわね」

 隣で、リチャードが小さく笑った。

 「それでも、君は今日も何もしなかった」

 「ええ。誇らしく怠けましたわ」

 その言葉に、彼は肩を震わせた。


---

 こうして。

 何もしない奥様は、
 また一つ、国の“厄介な会議”を
 何も決めずに終わらせたのだった。

 ――なお、評価だけは、また上がった。
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