働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第27話「責任を取らない人ほど、最後に名前を呼ばれる」

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第27話「責任を取らない人ほど、最後に名前を呼ばれる」


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 セーラは、今日は本当に何もしていなかった。

 朝はゆっくり起きて、紅茶を飲み、  庭を一周散歩して、  日当たりのいいテラスで本を読んで――  お昼寝までした。

 完璧だ。  これ以上ない「何もしない日」だった。

 ……はずなのに。


---

 「奥様」

 夕方、メイド長が神妙な顔で現れた。

 「またですの?」

 「はい……“また”でございます」

 セーラは、そっと天を仰いだ。


---

 応接室に入ると、そこには  商人ギルドの代表ガルバンと、  見知らぬ貴族が数名。

 全員、妙に緊張している。

 (私が一番リラックスしているの、変じゃない?)


---

 「本日は、ご相談がありまして」

 ガルバンが切り出す。

 「最近、地方商会同士でトラブルが発生しました」

 「まあ」

 「帳簿の解釈と責任範囲について、意見が割れたのです」

 セーラは、嫌な予感しかしなかった。


---

 「そこで……」

 ガルバンは、言いにくそうに続けた。

 「双方とも、最終的にこう言い出しまして」

 『セーラ方式では、どうなっているのか』

 セーラは、完全に無表情になった。

 「……知らないですわ」


---

 「それを、我々も承知しております」

 「しかし」

 「**“奥様なら、どう考えるか”**を基準にしようと」

 「やめてください!」

 思わず声が大きくなる。

 「私は何も考えていません!」

 「考えないことを、考えているだけです!」


---

 だが、貴族の一人が口を開いた。

 「それこそが問題なのです」

 「……?」

 「誰もが責任を取りたがらない中で」

 「奥様だけが、“取らない”と最初から決めている」

 「だからこそ、皆が真剣になる」

 セーラは頭痛を覚えた。


---

 「責任を取らない人が、基準になる……?」

 「はい」

 ガルバンは、深く頷いた。

 「誰も奥様に押し付けられない」

 「だから、自分で考える」

 「結果として、衝突が減ったのです」


---

 セーラは、そっと椅子に座り直した。

 「……それで?」

 「今回は、最終判断を」

 「私に?」

 「いえ」

 ガルバンは、首を横に振った。

 「奥様が“判断しない”という前提を、確認したくて」

 「確認?」

 「はい。両者に、こう伝えてよいかと」

 『奥様は、今回も判断しない』


---

 沈黙。

 セーラは、しばらく考えてから言った。

 「……どうぞ」

 「ありがとうございます」

 全員が、深く頭を下げた。

 (なぜ感謝されるの……?)


---

 夜。

 リチャードは、その話を聞いて静かに笑った。

 「君は、“最後の逃げ道”になっている」

 「逃げ道?」

 「誰もが、“君が出てくる前に解決しよう”と思う」

 「……私、脅しみたいですわね」

 「無言の圧力だな」


---

 セーラは、ベッドに転がった。

 「私は、責任を背負う人生を避けたかっただけなのに」

 「背負わないからこそ、重い」

 「意味が分かりません!」

 リチャードは、優しく言った。

 「君は、誰かの上に立たない」

 「だが、最後に名前が出る」


---

 翌朝。

 地方商会からの報告書には、こう記されていた。

 『本件は、セーラ方式の原点――
 “当事者が決める”という原則に立ち返り、解決した』

 セーラは、紙を見つめたまま呟いた。

 「……私、原点だったの?」


---

 何も決めない。  何も背負わない。  前にも出ない。

 それでも。

 最後に名前を呼ばれる人というのは、  存在してしまうらしい。

 しかも本人は、  紅茶を飲んでいただけなのに。

 セーラは、深いため息をついた。

 「……明日は、何もしない日を増やしますわ」

 世界がそれを許すかどうかは――  別として。
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