働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾

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第28話「何もしないという宣言が、なぜか改革になる」

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第28話「何もしないという宣言が、なぜか改革になる」


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 セーラは、決意していた。

 今日は、本当に何もしない。

 紅茶を飲み、
 窓際で日向ぼっこをし、
 書類には触れず、
 相談にも応じない。

 完璧な計画だ。

 ――なのに。


---

 「奥様」

 昼前、メイド長が控えめに声をかけてきた。

 「……今日は何も受けませんわ」

 先手必勝で言い切る。

 「承知しております。ただ……」

 嫌な“ただ”だった。


---

 応接室の前には、なぜか人だかりができていた。

 商人。  地方官。  見覚えのない貴族。  そして――書記官までいる。

 全員、静かに待っている。

 (私、王様か何かでしたっけ……?)


---

 ガルバンが一歩前に出た。

 「本日は、奥様が“何もしない日”と宣言されたと聞きまして」

 「ええ、そうです」

 「その件について、確認を」

 セーラは目を細めた。

 「……何を?」


---

 「本日は」

 ガルバンは、妙に厳かな声で言った。

 「指示も」  「助言も」  「意見も」

 「一切、なさらない――それで、よろしいのですね?」

 「よろしいも何も、それが目的ですわ!」


---

 ざわ、と空気が動いた。

 書記官が、急いで何かを書き留めている。

 セーラは嫌な予感しかしなかった。

 「……今、何を書いていますの?」

 「“奥様の公式見解”です」

 「公式!?」


---

 地方官の一人が、緊張した様子で言った。

 「では、本日の会議は」

 「我々だけで決める、ということですね?」

 「ええ。どうぞご自由に」

 セーラは、心からそう思っていた。


---

 ――数時間後。

 屋敷の別室から、激しい議論の声が聞こえてくる。

 資料を広げ、意見をぶつけ合い、  妥協点を探り、  最終的には――まとまった。


---

 夕方。

 ガルバンが、深々と頭を下げた。

 「本日は、ありがとうございました」

 「……何もしてませんけど?」

 「はい」

 彼は、晴れやかな顔で言った。

 「だからこそ、進みました」


---

 「奥様が沈黙されたことで」

 「誰も“正解”に逃げられなかった」

 「結果として、全員が責任を持ちました」

 セーラは、ゆっくりと椅子に沈み込んだ。


---

 夜。

 リチャードは、その話を聞いて、静かに笑った。

 「君は、ついに“制度”になったな」

 「不吉な言い方はやめてください」

 「“何もしないという原則”だ」


---

 セーラは、ため息をついた。

 「私、宣言しただけですわ」

 「それが、人を動かす」

 「納得いきません!」

 リチャードは、優しく続ける。

 「誰もが“上からの答え”を待つ世界で」

 「君だけが、それを拒んだ」


---

 翌日。

 ギルド内に、新しい文言が追加された。

 『重要案件においては、
 奥様の“不介入日”を設けること』

 セーラは、それを見て目を閉じた。

 「……何もしない日が、規則になりましたわ……」


---

 何も言わない。  何も決めない。  ただ、そこにいる。

 それだけで、
 人が考え、
 動き、
 世界が一段、整ってしまう。

 セーラは、紅茶を一口飲んで呟いた。

 「……次は、“存在しない日”を作りましょうか」

 リチャードは、即答した。

 「それは、さすがに探されるな」

 セーラは、静かに遠い目をした。

 働かないはずの人生は、
 なぜか今日も、前に進んでいる。

 本人の知らないところで。
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