18 / 32
18話 妹は被害者ではない
しおりを挟む
18話 妹は被害者ではない
帳簿の綻びが見え始めた頃、ルヴェリアの中ではもう一つ、別の線がはっきり形を取りつつあった。
それは義妹オルフィナのことだ。
あの子は本当に何も知らず、ただ贅沢に浮かれているだけの哀れな駒なのか。
それとも、もっと深く、自分の意思で踏み込んでいるのか。
最初の頃、ルヴェリアはそこを慎重に分けて考えていた。
愚かであることと、悪意を持って選ぶことは違う。たとえ姉の婚約者を奪ったとしても、裏の仕組みまでは知らずに踊らされている可能性もあると思っていたのだ。
だが今は、もうその考えにしがみついている方が不自然だった。
王宮の執務室で帳簿を閉じたあと、ルヴェリアは持参した小さな紙包みを机へ置いた。
ディルハルトが視線を向ける。
「それは何だ」
「義妹の私室から流れてきた控えです」
「流れてきた?」
「侍女の一人が、処分するよう命じられた紙束の中に紛れていたそうです。妙だと思って、家令経由でこちらへ回ってきました」
ディルハルトの目がわずかに鋭くなる。
「見ていいか」
「もちろんです」
紙包みを開くと、中から数枚の控え書きが現れる。
高級菓子店の納品控え。
香油の注文控え。
宝飾商への追加依頼の走り書き。
一見すれば、ただの浪費の記録だ。
けれどルヴェリアが注目していたのは、品名ではなく、書き添えられた言葉だった。
彼女は一枚を抜き出し、指先で示す。
「ここです」
ディルハルトが紙を引き寄せる。
そこには、オルフィナらしい丸みのある筆跡でこう書かれていた。
“前回と同じ金で足りますわね。重さは気にしないから、見栄えのする方を先に”
部屋の空気が、しんと静まる。
ディルハルトは無言で次の紙を取った。
別の控えにはこうある。
“細かな釣りはいりません。どうせ誰も見ませんもの”
さらにもう一枚。
“今夜の客には、惜しげなく使っているように見せたいの。前の袋と同じでお願い”
ディルハルトが紙を置いた。
「……これは」
「ええ」
ルヴェリアの声は静かだった。
「知らなかった人間の書き方ではありません」
最初から全部を理解していたとは言わない。
だが少なくとも途中からは、何かがおかしいと知っている。
知ったうえで、“重さは気にしない”“誰も見ない”“前の袋と同じ”と書いているのだ。
そこには被害者の無垢さはない。
違和感を違和感のまま潰して、都合のいい快楽を選んだ人間の筆跡がある。
ディルハルトはしばらく黙っていたが、やがて言う。
「これを、君はどう見る」
ルヴェリアは視線を紙へ落とした。
オルフィナの筆跡だ。
子どもの頃から知っている、少し装った可愛らしい字。
そこに書かれている内容だけが、ひどく醜い。
「最初は分からなかったのでしょう」
「……」
「でも途中で、何かがおかしいとは気づいたはずです。普通の金ではないかもしれない。帳尻が妙かもしれない。見すぎない方がいいものに触れているかもしれない」
ルヴェリアは一枚一枚を見ながら続ける。
「それでも、やめなかった」
むしろ逆だ。
もっと目立ちたがった。
もっと使いたがった。
もっと見せびらかしたがった。
その結果、市場へ流れる金はさらに軽くなり、王都の混乱は強まった。
「……あの子は、怖がるより先に、欲しがったのね」
それは姉としての失望だった。
けれど、もう目を逸らすための失望ではない。
ただ事実として、そこにあるものを認める静かな冷たさだった。
ディルハルトは紙を指で整えながら言う。
「裁判になれば、“よく分からなかった”“言われるまま書いただけだ”と主張するだろうな」
「ええ。きっと涙も流すでしょう」
「同情を引く」
「得意ですもの」
ルヴェリアの返答は、我ながら驚くほど平坦だった。
以前なら、こういう言い方をすれば感情的だと思われるのではないかと気にしたかもしれない。
だが今は違う。
オルフィナがどういう時に泣き、どういう時に甘え、どういう時に責任から逃げるかを、ルヴェリアは嫌というほど知っている。
そして今、目の前にあるこの紙は、その涙よりよほど信用できた。
「被害者ではないわ」
その一言は、小さかったがはっきりしていた。
ディルハルトは何も言わない。
けれどその沈黙は、否定でも促しでもない。
続きを待つ沈黙だった。
ルヴェリアはもう一枚の紙を手に取る。
それは香油商への追加注文控えだ。
隅の方に、急いで書き添えたような一文がある。
“前のより明るく見えるものを。中身より見た目が大事ですもの”
中身より見た目が大事。
思わず、ルヴェリアは目を細めた。
まるで、あのメッキ偽金そのものではないか。
表面の輝きさえあればいい。
中がどうであろうと構わない。
その考え方を、義妹はもう商品だけでなく、自分の生き方にまで染み込ませてしまっている。
「殿下」
ルヴェリアが紙を置く。
「この一文で、私はもう十分だと思います」
「中身より見た目が大事、か」
「ええ。これを偶然の言い回しで済ませるには、ほかの控えが悪すぎる」
ディルハルトは短く息を吐いた。
「たしかに」
「気づいていたんです。見た目だけ整っていれば、少々中身がおかしくても、自分が得をするうちは構わないと」
部屋の中で、時計の針の音だけが微かに聞こえる。
ルヴェリアはその静けさの中で、初めて自分の中にあった最後のためらいが消えたことを知った。
どこかでまだ、義妹を完全な敵と切り捨てきれずにいたのだと思う。
奪われたとはいえ家族だった。
幼い頃、一緒に庭を歩いたこともある。
笑いあった記憶も、まったくなかったわけではない。
だからこそ、どこかで“本当は何も知らないなら”と思っていた。
だが、もうその余地はない。
「……残念です」
ぽつりと漏らすと、ディルハルトが顔を上げた。
「残念?」
「ええ」
ルヴェリアは少しだけ笑った。
自嘲に近い、薄い笑みだった。
「何も知らずに踊らされていただけなら、まだ救いようがあったかもしれないと思っていたので」
「今は違う」
「違います」
即答だった。
「知ったうえで、選んだのですから」
ディルハルトはしばらく彼女を見ていたが、やがて静かに言う。
「辛いな」
その一言は、慰めではなかった。
ただ事実として、そこにある痛みを認める声だった。
だからルヴェリアも、無理に強がらなかった。
「ええ。でも、曖昧なままよりはましです」
それは本心だった。
痛みはある。
けれど、見誤ったまま庇い続ける方が、もっと醜い。
ここまで来たら、もうルヴェリアは姉である前に、王都の異変を止める側の人間でなければならない。
「この控えは保全しておきましょう」
ルヴェリアが言うと、ディルハルトも頷いた。
「写しを作る。原本は別保管だ」
「それと、商人側の控えも取り寄せて照らし合わせたいです」
「同じ表現が残っていれば強いな」
「ええ。“前の袋と同じ”の意味も、いずれ絞れます」
ディルハルトはすぐ文官を呼び、指示を飛ばした。
その間、ルヴェリアは黙って紙を見つめていた。
オルフィナの字。
丸くて、少し甘えていて、どこか子どもっぽい字。
けれど内容はもう、子どもの無邪気さでは済まされない。
人の暮らしを押しつぶす金を、自分の優越感のために喜んで使っていた筆跡だ。
ディルハルトが文官を下がらせたあと、ふと尋ねた。
「君は、彼女と向き合うことになるかもしれない」
「ええ」
「その時、迷うか」
ルヴェリアは少しだけ考えた。
以前なら、この問いに即答できなかったかもしれない。
だが今は違う。
「迷わないように、今日ここまで来たのだと思います」
ディルハルトの目が静かに細まる。
「そうか」
「ええ。証拠があるなら、それで十分です」
その返答に、彼は短く頷いた。
それだけだった。
けれど、その頷きには奇妙な安堵があった。
感情に流されないと分かっているからだろうか。
それとも、ルヴェリア自身がようやく覚悟を固めたのを見て取ったのか。
どちらにせよ、いま二人の間にあるのは同情ではなく、同じ方向を向く者同士の確認だった。
少しして、部屋に静けさが戻る。
ルヴェリアはそっと紙を重ねた。
その時、指先が微かに震えていることに気づく。
怖いわけではない。
怒りでもない。
たぶん、区切りなのだ。
妹を“もしかしたら守るべき存在かもしれない”と思う余地が、いまここで終わった。
その区切りが、指先にだけ少し出たのだろう。
ディルハルトがそれに気づいたのか、机の端の茶杯を静かに彼女の方へ寄せた。
「少し飲め」
ルヴェリアは顔を上げる。
彼は何も言わない。
震えたでしょう、とも。
辛いだろう、とも。
ただ茶杯を寄せるだけ。
その無言が、妙にありがたかった。
「……いただきます」
茶をひと口飲む。
少しぬるくなっていたが、その温度が逆にちょうどよかった。
喉を通ると、胸の奥の硬さがほんの少しだけほどける。
「殿下」
「何だ」
「私は、たぶんもう、あの子を庇いません」
「庇う必要はない」
「ええ」
ルヴェリアは茶杯を置いた。
「ええ、もう」
その返事は、思った以上に静かで、思った以上に重かった。
だが重いからこそ、揺れなかった。
机の上には、義妹の小さな筆跡が並んでいる。
それはもう、泣き言よりも、言い訳よりも、はるかに雄弁だった。
ルヴェリアはその紙から目を離し、まっすぐ前を見た。
被害者ではない。
その認識は冷たい。
けれど冷たいからこそ、本物だった。
帳簿の綻びが見え始めた頃、ルヴェリアの中ではもう一つ、別の線がはっきり形を取りつつあった。
それは義妹オルフィナのことだ。
あの子は本当に何も知らず、ただ贅沢に浮かれているだけの哀れな駒なのか。
それとも、もっと深く、自分の意思で踏み込んでいるのか。
最初の頃、ルヴェリアはそこを慎重に分けて考えていた。
愚かであることと、悪意を持って選ぶことは違う。たとえ姉の婚約者を奪ったとしても、裏の仕組みまでは知らずに踊らされている可能性もあると思っていたのだ。
だが今は、もうその考えにしがみついている方が不自然だった。
王宮の執務室で帳簿を閉じたあと、ルヴェリアは持参した小さな紙包みを机へ置いた。
ディルハルトが視線を向ける。
「それは何だ」
「義妹の私室から流れてきた控えです」
「流れてきた?」
「侍女の一人が、処分するよう命じられた紙束の中に紛れていたそうです。妙だと思って、家令経由でこちらへ回ってきました」
ディルハルトの目がわずかに鋭くなる。
「見ていいか」
「もちろんです」
紙包みを開くと、中から数枚の控え書きが現れる。
高級菓子店の納品控え。
香油の注文控え。
宝飾商への追加依頼の走り書き。
一見すれば、ただの浪費の記録だ。
けれどルヴェリアが注目していたのは、品名ではなく、書き添えられた言葉だった。
彼女は一枚を抜き出し、指先で示す。
「ここです」
ディルハルトが紙を引き寄せる。
そこには、オルフィナらしい丸みのある筆跡でこう書かれていた。
“前回と同じ金で足りますわね。重さは気にしないから、見栄えのする方を先に”
部屋の空気が、しんと静まる。
ディルハルトは無言で次の紙を取った。
別の控えにはこうある。
“細かな釣りはいりません。どうせ誰も見ませんもの”
さらにもう一枚。
“今夜の客には、惜しげなく使っているように見せたいの。前の袋と同じでお願い”
ディルハルトが紙を置いた。
「……これは」
「ええ」
ルヴェリアの声は静かだった。
「知らなかった人間の書き方ではありません」
最初から全部を理解していたとは言わない。
だが少なくとも途中からは、何かがおかしいと知っている。
知ったうえで、“重さは気にしない”“誰も見ない”“前の袋と同じ”と書いているのだ。
そこには被害者の無垢さはない。
違和感を違和感のまま潰して、都合のいい快楽を選んだ人間の筆跡がある。
ディルハルトはしばらく黙っていたが、やがて言う。
「これを、君はどう見る」
ルヴェリアは視線を紙へ落とした。
オルフィナの筆跡だ。
子どもの頃から知っている、少し装った可愛らしい字。
そこに書かれている内容だけが、ひどく醜い。
「最初は分からなかったのでしょう」
「……」
「でも途中で、何かがおかしいとは気づいたはずです。普通の金ではないかもしれない。帳尻が妙かもしれない。見すぎない方がいいものに触れているかもしれない」
ルヴェリアは一枚一枚を見ながら続ける。
「それでも、やめなかった」
むしろ逆だ。
もっと目立ちたがった。
もっと使いたがった。
もっと見せびらかしたがった。
その結果、市場へ流れる金はさらに軽くなり、王都の混乱は強まった。
「……あの子は、怖がるより先に、欲しがったのね」
それは姉としての失望だった。
けれど、もう目を逸らすための失望ではない。
ただ事実として、そこにあるものを認める静かな冷たさだった。
ディルハルトは紙を指で整えながら言う。
「裁判になれば、“よく分からなかった”“言われるまま書いただけだ”と主張するだろうな」
「ええ。きっと涙も流すでしょう」
「同情を引く」
「得意ですもの」
ルヴェリアの返答は、我ながら驚くほど平坦だった。
以前なら、こういう言い方をすれば感情的だと思われるのではないかと気にしたかもしれない。
だが今は違う。
オルフィナがどういう時に泣き、どういう時に甘え、どういう時に責任から逃げるかを、ルヴェリアは嫌というほど知っている。
そして今、目の前にあるこの紙は、その涙よりよほど信用できた。
「被害者ではないわ」
その一言は、小さかったがはっきりしていた。
ディルハルトは何も言わない。
けれどその沈黙は、否定でも促しでもない。
続きを待つ沈黙だった。
ルヴェリアはもう一枚の紙を手に取る。
それは香油商への追加注文控えだ。
隅の方に、急いで書き添えたような一文がある。
“前のより明るく見えるものを。中身より見た目が大事ですもの”
中身より見た目が大事。
思わず、ルヴェリアは目を細めた。
まるで、あのメッキ偽金そのものではないか。
表面の輝きさえあればいい。
中がどうであろうと構わない。
その考え方を、義妹はもう商品だけでなく、自分の生き方にまで染み込ませてしまっている。
「殿下」
ルヴェリアが紙を置く。
「この一文で、私はもう十分だと思います」
「中身より見た目が大事、か」
「ええ。これを偶然の言い回しで済ませるには、ほかの控えが悪すぎる」
ディルハルトは短く息を吐いた。
「たしかに」
「気づいていたんです。見た目だけ整っていれば、少々中身がおかしくても、自分が得をするうちは構わないと」
部屋の中で、時計の針の音だけが微かに聞こえる。
ルヴェリアはその静けさの中で、初めて自分の中にあった最後のためらいが消えたことを知った。
どこかでまだ、義妹を完全な敵と切り捨てきれずにいたのだと思う。
奪われたとはいえ家族だった。
幼い頃、一緒に庭を歩いたこともある。
笑いあった記憶も、まったくなかったわけではない。
だからこそ、どこかで“本当は何も知らないなら”と思っていた。
だが、もうその余地はない。
「……残念です」
ぽつりと漏らすと、ディルハルトが顔を上げた。
「残念?」
「ええ」
ルヴェリアは少しだけ笑った。
自嘲に近い、薄い笑みだった。
「何も知らずに踊らされていただけなら、まだ救いようがあったかもしれないと思っていたので」
「今は違う」
「違います」
即答だった。
「知ったうえで、選んだのですから」
ディルハルトはしばらく彼女を見ていたが、やがて静かに言う。
「辛いな」
その一言は、慰めではなかった。
ただ事実として、そこにある痛みを認める声だった。
だからルヴェリアも、無理に強がらなかった。
「ええ。でも、曖昧なままよりはましです」
それは本心だった。
痛みはある。
けれど、見誤ったまま庇い続ける方が、もっと醜い。
ここまで来たら、もうルヴェリアは姉である前に、王都の異変を止める側の人間でなければならない。
「この控えは保全しておきましょう」
ルヴェリアが言うと、ディルハルトも頷いた。
「写しを作る。原本は別保管だ」
「それと、商人側の控えも取り寄せて照らし合わせたいです」
「同じ表現が残っていれば強いな」
「ええ。“前の袋と同じ”の意味も、いずれ絞れます」
ディルハルトはすぐ文官を呼び、指示を飛ばした。
その間、ルヴェリアは黙って紙を見つめていた。
オルフィナの字。
丸くて、少し甘えていて、どこか子どもっぽい字。
けれど内容はもう、子どもの無邪気さでは済まされない。
人の暮らしを押しつぶす金を、自分の優越感のために喜んで使っていた筆跡だ。
ディルハルトが文官を下がらせたあと、ふと尋ねた。
「君は、彼女と向き合うことになるかもしれない」
「ええ」
「その時、迷うか」
ルヴェリアは少しだけ考えた。
以前なら、この問いに即答できなかったかもしれない。
だが今は違う。
「迷わないように、今日ここまで来たのだと思います」
ディルハルトの目が静かに細まる。
「そうか」
「ええ。証拠があるなら、それで十分です」
その返答に、彼は短く頷いた。
それだけだった。
けれど、その頷きには奇妙な安堵があった。
感情に流されないと分かっているからだろうか。
それとも、ルヴェリア自身がようやく覚悟を固めたのを見て取ったのか。
どちらにせよ、いま二人の間にあるのは同情ではなく、同じ方向を向く者同士の確認だった。
少しして、部屋に静けさが戻る。
ルヴェリアはそっと紙を重ねた。
その時、指先が微かに震えていることに気づく。
怖いわけではない。
怒りでもない。
たぶん、区切りなのだ。
妹を“もしかしたら守るべき存在かもしれない”と思う余地が、いまここで終わった。
その区切りが、指先にだけ少し出たのだろう。
ディルハルトがそれに気づいたのか、机の端の茶杯を静かに彼女の方へ寄せた。
「少し飲め」
ルヴェリアは顔を上げる。
彼は何も言わない。
震えたでしょう、とも。
辛いだろう、とも。
ただ茶杯を寄せるだけ。
その無言が、妙にありがたかった。
「……いただきます」
茶をひと口飲む。
少しぬるくなっていたが、その温度が逆にちょうどよかった。
喉を通ると、胸の奥の硬さがほんの少しだけほどける。
「殿下」
「何だ」
「私は、たぶんもう、あの子を庇いません」
「庇う必要はない」
「ええ」
ルヴェリアは茶杯を置いた。
「ええ、もう」
その返事は、思った以上に静かで、思った以上に重かった。
だが重いからこそ、揺れなかった。
机の上には、義妹の小さな筆跡が並んでいる。
それはもう、泣き言よりも、言い訳よりも、はるかに雄弁だった。
ルヴェリアはその紙から目を離し、まっすぐ前を見た。
被害者ではない。
その認識は冷たい。
けれど冷たいからこそ、本物だった。
0
あなたにおすすめの小説
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる