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26話 被害者のふり
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26話 被害者のふり
公開審問の空気は、前半だけでずいぶん重くなっていた。
河岸の会計係がゼルカインの名を出し、伯爵家の裏帳簿と夜会の資金移動が結びつけられたことで、傍聴席のざわめきはもう抑えきれないところまで膨らんでいる。
それでも、まだ決着ではない。
証言が重なるほど、人は次の醜さを求める。
誰が誰を売るのか。
誰が最後に涙を使うのか。
その場にいる誰もが、それを待っていた。
やがて記録官が次の名を読み上げる。
「オルフィナ・アストラーデ」
その名が響いた瞬間、室内の空気がまた少し変わった。
婚約者を奪った妹。
派手な夜会の主役。
そして伯爵家に切り捨てられ、いまは保護下にある女。
貴族たちの視線には、好奇心と軽蔑と、少しの期待が混ざっていた。
どれほど無様に泣くのか、見たいのだ。
側扉から入ってきたオルフィナは、以前の華やかさが嘘のように弱々しかった。
飾り気のない淡色のドレス。
宝石は一つもない。
顔色は悪く、目元は泣き腫らして赤い。
けれど、それでもなお、どこか計算された儚さが残っている。
あの義妹は、こういう場でどう見えるのが自分に有利かを、本能で知っているのだとルヴェリアは思った。
オルフィナは席の前へ立つと、最初から震えていた。
手も肩も、声も。
それが本当に恐怖から来るものなのか、それとも半分は見せるためのものなのか、ルヴェリアにはもう見分けがつく。
裁定官が問う。
「オルフィナ・アストラーデ。そなたはヴォルゼック伯爵家と、偽貨幣流通に関する一連の行為について証言を求められている。よいな」
オルフィナは小さく頷いた。
「……はい」
「まず確認する。そなたは伯爵家の不正について、どこまで知っていた」
オルフィナの唇が震える。
そして、待っていましたとばかりに、目から大粒の涙がこぼれた。
「わ、私は……」
掠れた声。
息を詰まらせるような間。
周囲の視線を集めるには十分な弱さだった。
「私は、何も知らなかったのです……」
その言葉に、傍聴席のあちこちで、ごく小さな動きが起こる。
ルヴェリアは目を伏せなかった。
やはりそれで来たか、と思っただけだ。
オルフィナは続ける。
「最初はただ、ゼルカイン様が優しくて……贈り物をくださって、私を大切にしてくださって……私は、それを信じていただけで……」
声が揺れる。
涙が落ちる。
彼女は両手を胸の前で握りしめ、いかにも“傷ついた娘”の形を作っていた。
「金のことも、商会のことも、私は難しいことなんて分かりません……ただ、言われるままに、頂いたものを受け取って……」
そこまで言って、オルフィナは嗚咽を漏らした。
見事なものだ、とルヴェリアは冷静に思う。
何も知らない。 ただ愛されたかった。 利用されただけ。
その三つを、涙と震えだけで押し通そうとしている。
もし控えがなければ、あるいは途中まで信じた者もいたかもしれない。
実際、傍聴席の一角では、年配の女貴族が眉をひそめていた。
若い娘が騙されたのなら、多少は気の毒だと思ったのだろう。
だが、それも長くは続かなかった。
裁定官が無感情に問い返す。
「言われるまま、とは具体的に誰の指示だ」
「そ、それは……ゼルカイン様や、伯爵家の方々が……」
「偽金であると知ったのはいつだ」
オルフィナは怯えたように目を泳がせる。
「わ、分かりません……少し変だと思ったことはありましたけれど、でも、そんな大それたことだなんて……」
「では、これは何だ」
記録官が紙を一枚差し出す。
オルフィナの控えの写しだ。
見覚えのある紙を見た瞬間、オルフィナの顔が強張る。
記録官は、はっきりと読み上げた。
「“前回と同じ金で足りますわね。重さは気にしないから、見栄えのする方を先に”」
傍聴席がざわめく。
オルフィナは息を呑んだ。
「そ、それは……」
「あなたの筆跡で間違いないか」
「……はい」
「“重さは気にしない”とは、何のことだ」
オルフィナが口を開きかけ、閉じる。
その沈黙だけで、半分は終わっていた。
だが彼女は、まだ諦めなかった。
「わ、私は……詳しいことは分からなくて……ただ、商人たちの言うことに合わせて……」
「合わせて?」
記録官は二枚目を広げる。
「“細かな釣りはいりません。どうせ誰も見ませんもの”」
三枚目。
「“前の袋と同じでお願い”」
四枚目。
「“中身より見た目が大事ですもの”」
一枚ずつ読み上げられるたびに、オルフィナの顔が青ざめていく。
その様子を、ルヴェリアはまっすぐ見ていた。
もう痛まなかった。
あれほど姉へ見せつけるように振りまいていた言葉が、いまこうして鎖になって自分へ戻ってきているだけだ。
裁定官が問う。
「これらは脅されて書いたのか」
「ち、違います……」
「では、自らの意思で書いたのだな」
「……」
オルフィナは答えられない。
だが裁定官は待たなかった。
「答えよ」
「……はい」
そのかすれた一言が、審問室の空気を決定的に変えた。
同情の余地が、目に見えて狭まる。
オルフィナは慌てたように叫んだ。
「でも、でも私は、本当に全部は知らなかったんです! 怖かったのです! 気づいた時には、もう引き返せなくて……!」
その言い方には、本音が混じっていた。
たしかに怖かったのだろう。
たしかに途中で抜けられないと思ったのだろう。
けれど、それで消えないものもある。
ルヴェリアはそれを知っている。
市場で見た女たちも、きっと知っている。
怖いから許されるなら、苦しいから許されるなら、最初に押しつぶされた人たちはどうなるのだ。
オルフィナはなおも涙を流しながら訴える。
「私はただ、愛されていると思って……婚約者だから信じて……!」
その言葉に、ルヴェリアは初めて目を細めた。
そこだけは、たぶん本当だ。
オルフィナは信じたかったのだ。
利用されているのではなく、愛されているのだと。
だから都合の悪い違和感を見ないふりした。
そして見ないふりしたまま、もっと欲しがった。
被害者の顔と加害者の手を、同時に持ったまま。
その時、裁定官ではなく、ディルハルトが口を開いた。
「では問う」
室内が静まり返る。
ディルハルトの声は高くない。
けれど、いまこの場では誰よりも重い。
「あなたは、伯爵家の金がおかしいと気づいた後も、夜会を開き、贈り物を求め、見せびらかすように使い続けた」
オルフィナは震えながら首を振る。
「そ、それは……」
「知らなかったのではない。知った後もやめなかったのだ」
「私は、怖くて……!」
「怖い者が、“もっと見栄えのする方を先に”と書くか」
一瞬、完全な沈黙が落ちる。
オルフィナの口が開いたまま止まった。
何か言おうとしているのに、言葉が出ない。
その顔を見て、傍聴席の空気がはっきり変わった。
もう“哀れな妹”を見る目ではない。
自分だけ助かろうとしている、見苦しい女を見る目だ。
オルフィナもそれに気づいたのだろう。
顔をぐしゃりと歪め、ついに泣き叫んだ。
「だって、私だけが悪いみたいじゃない!」
その一声は、彼女自身の首をさらに絞めた。
自分だけが悪いみたい。
その言葉には、“悪くない”ではなく、“皆も悪い”という本音がにじんでいたからだ。
裁定官が冷たく問う。
「つまり、自らにも責任があると認めるのだな」
「そ、そうじゃなくて……!」
「そうでないなら、何だ」
「私は……私は……!」
オルフィナはもう、まともに言葉を繋げられなくなっていた。
涙、嗚咽、否定、言い訳。
それらが全部混ざって、ただ見苦しいだけの音になる。
ルヴェリアは、そこでようやく自分の中に何も揺れていないことを知った。
かわいそうだとは思う。
けれど、だからといって庇おうとは思わない。
姉としての情が完全に消えたわけではない。
ただ、その情はもう、真実より重くはない。
記録官が最後の一枚を読み上げる。
「“今夜の客には、惜しげなく使っているように見せたいの。前の袋と同じでお願い”」
そして、紙を置いた。
「以上をもって、オルフィナ・アストラーデが偽金流通の異常に気づいた後も、積極的に見栄と贅沢のため利用していたことを示す補助証拠とする」
補助証拠。
その言葉が重く落ちる。
主犯ではない。
だが被害者だけでもない。
まさにその中間で、欲に従って手を貸していた者。
それが今のオルフィナの位置だった。
オルフィナはもう、ただ泣くだけだった。
最初に審問室へ入ってきた時の“儚げな婚約者”の顔は消えている。
そこにいるのは、自分だけ助かりたいのに、証拠に追いつめられている女だ。
ディルハルトは視線を外さずに言う。
「涙は事情になる。だが、免罪にはならない」
短いその一言で、審問室の空気は完全に定まった。
オルフィナは被害者のふりをした。
そして失敗した。
その事実が、誰の目にも明らかになったのだ。
やがて裁定官が命じる。
「オルフィナ・アストラーデは一旦控えへ下がらせよ」
衛士が近づく。
オルフィナは立ち上がろうとしてふらつき、必死に机へ手をついた。
その姿は、かつて夜会の中央で宝石を揺らして笑っていた女と同じとは思えないほど惨めだった。
引かれていく直前、オルフィナはたった一度だけ、ルヴェリアの方を見た。
泣き腫らした目。
助けを求めるような、恨むような、何とも言えない目。
けれどルヴェリアは、ただ静かに見返しただけだった。
もう、その涙では動かない。
その無言の返答に、オルフィナは顔を歪めたまま連れて行かれた。
扉が閉じる。
審問室には、妙に乾いた静けさが残った。
そしてルヴェリアは知る。
次は、ゼルカインの番だと。
あの男が、この見苦しい被害者のふりをどう切り捨てるのか。
本当の醜さは、まだこれからだった。
公開審問の空気は、前半だけでずいぶん重くなっていた。
河岸の会計係がゼルカインの名を出し、伯爵家の裏帳簿と夜会の資金移動が結びつけられたことで、傍聴席のざわめきはもう抑えきれないところまで膨らんでいる。
それでも、まだ決着ではない。
証言が重なるほど、人は次の醜さを求める。
誰が誰を売るのか。
誰が最後に涙を使うのか。
その場にいる誰もが、それを待っていた。
やがて記録官が次の名を読み上げる。
「オルフィナ・アストラーデ」
その名が響いた瞬間、室内の空気がまた少し変わった。
婚約者を奪った妹。
派手な夜会の主役。
そして伯爵家に切り捨てられ、いまは保護下にある女。
貴族たちの視線には、好奇心と軽蔑と、少しの期待が混ざっていた。
どれほど無様に泣くのか、見たいのだ。
側扉から入ってきたオルフィナは、以前の華やかさが嘘のように弱々しかった。
飾り気のない淡色のドレス。
宝石は一つもない。
顔色は悪く、目元は泣き腫らして赤い。
けれど、それでもなお、どこか計算された儚さが残っている。
あの義妹は、こういう場でどう見えるのが自分に有利かを、本能で知っているのだとルヴェリアは思った。
オルフィナは席の前へ立つと、最初から震えていた。
手も肩も、声も。
それが本当に恐怖から来るものなのか、それとも半分は見せるためのものなのか、ルヴェリアにはもう見分けがつく。
裁定官が問う。
「オルフィナ・アストラーデ。そなたはヴォルゼック伯爵家と、偽貨幣流通に関する一連の行為について証言を求められている。よいな」
オルフィナは小さく頷いた。
「……はい」
「まず確認する。そなたは伯爵家の不正について、どこまで知っていた」
オルフィナの唇が震える。
そして、待っていましたとばかりに、目から大粒の涙がこぼれた。
「わ、私は……」
掠れた声。
息を詰まらせるような間。
周囲の視線を集めるには十分な弱さだった。
「私は、何も知らなかったのです……」
その言葉に、傍聴席のあちこちで、ごく小さな動きが起こる。
ルヴェリアは目を伏せなかった。
やはりそれで来たか、と思っただけだ。
オルフィナは続ける。
「最初はただ、ゼルカイン様が優しくて……贈り物をくださって、私を大切にしてくださって……私は、それを信じていただけで……」
声が揺れる。
涙が落ちる。
彼女は両手を胸の前で握りしめ、いかにも“傷ついた娘”の形を作っていた。
「金のことも、商会のことも、私は難しいことなんて分かりません……ただ、言われるままに、頂いたものを受け取って……」
そこまで言って、オルフィナは嗚咽を漏らした。
見事なものだ、とルヴェリアは冷静に思う。
何も知らない。 ただ愛されたかった。 利用されただけ。
その三つを、涙と震えだけで押し通そうとしている。
もし控えがなければ、あるいは途中まで信じた者もいたかもしれない。
実際、傍聴席の一角では、年配の女貴族が眉をひそめていた。
若い娘が騙されたのなら、多少は気の毒だと思ったのだろう。
だが、それも長くは続かなかった。
裁定官が無感情に問い返す。
「言われるまま、とは具体的に誰の指示だ」
「そ、それは……ゼルカイン様や、伯爵家の方々が……」
「偽金であると知ったのはいつだ」
オルフィナは怯えたように目を泳がせる。
「わ、分かりません……少し変だと思ったことはありましたけれど、でも、そんな大それたことだなんて……」
「では、これは何だ」
記録官が紙を一枚差し出す。
オルフィナの控えの写しだ。
見覚えのある紙を見た瞬間、オルフィナの顔が強張る。
記録官は、はっきりと読み上げた。
「“前回と同じ金で足りますわね。重さは気にしないから、見栄えのする方を先に”」
傍聴席がざわめく。
オルフィナは息を呑んだ。
「そ、それは……」
「あなたの筆跡で間違いないか」
「……はい」
「“重さは気にしない”とは、何のことだ」
オルフィナが口を開きかけ、閉じる。
その沈黙だけで、半分は終わっていた。
だが彼女は、まだ諦めなかった。
「わ、私は……詳しいことは分からなくて……ただ、商人たちの言うことに合わせて……」
「合わせて?」
記録官は二枚目を広げる。
「“細かな釣りはいりません。どうせ誰も見ませんもの”」
三枚目。
「“前の袋と同じでお願い”」
四枚目。
「“中身より見た目が大事ですもの”」
一枚ずつ読み上げられるたびに、オルフィナの顔が青ざめていく。
その様子を、ルヴェリアはまっすぐ見ていた。
もう痛まなかった。
あれほど姉へ見せつけるように振りまいていた言葉が、いまこうして鎖になって自分へ戻ってきているだけだ。
裁定官が問う。
「これらは脅されて書いたのか」
「ち、違います……」
「では、自らの意思で書いたのだな」
「……」
オルフィナは答えられない。
だが裁定官は待たなかった。
「答えよ」
「……はい」
そのかすれた一言が、審問室の空気を決定的に変えた。
同情の余地が、目に見えて狭まる。
オルフィナは慌てたように叫んだ。
「でも、でも私は、本当に全部は知らなかったんです! 怖かったのです! 気づいた時には、もう引き返せなくて……!」
その言い方には、本音が混じっていた。
たしかに怖かったのだろう。
たしかに途中で抜けられないと思ったのだろう。
けれど、それで消えないものもある。
ルヴェリアはそれを知っている。
市場で見た女たちも、きっと知っている。
怖いから許されるなら、苦しいから許されるなら、最初に押しつぶされた人たちはどうなるのだ。
オルフィナはなおも涙を流しながら訴える。
「私はただ、愛されていると思って……婚約者だから信じて……!」
その言葉に、ルヴェリアは初めて目を細めた。
そこだけは、たぶん本当だ。
オルフィナは信じたかったのだ。
利用されているのではなく、愛されているのだと。
だから都合の悪い違和感を見ないふりした。
そして見ないふりしたまま、もっと欲しがった。
被害者の顔と加害者の手を、同時に持ったまま。
その時、裁定官ではなく、ディルハルトが口を開いた。
「では問う」
室内が静まり返る。
ディルハルトの声は高くない。
けれど、いまこの場では誰よりも重い。
「あなたは、伯爵家の金がおかしいと気づいた後も、夜会を開き、贈り物を求め、見せびらかすように使い続けた」
オルフィナは震えながら首を振る。
「そ、それは……」
「知らなかったのではない。知った後もやめなかったのだ」
「私は、怖くて……!」
「怖い者が、“もっと見栄えのする方を先に”と書くか」
一瞬、完全な沈黙が落ちる。
オルフィナの口が開いたまま止まった。
何か言おうとしているのに、言葉が出ない。
その顔を見て、傍聴席の空気がはっきり変わった。
もう“哀れな妹”を見る目ではない。
自分だけ助かろうとしている、見苦しい女を見る目だ。
オルフィナもそれに気づいたのだろう。
顔をぐしゃりと歪め、ついに泣き叫んだ。
「だって、私だけが悪いみたいじゃない!」
その一声は、彼女自身の首をさらに絞めた。
自分だけが悪いみたい。
その言葉には、“悪くない”ではなく、“皆も悪い”という本音がにじんでいたからだ。
裁定官が冷たく問う。
「つまり、自らにも責任があると認めるのだな」
「そ、そうじゃなくて……!」
「そうでないなら、何だ」
「私は……私は……!」
オルフィナはもう、まともに言葉を繋げられなくなっていた。
涙、嗚咽、否定、言い訳。
それらが全部混ざって、ただ見苦しいだけの音になる。
ルヴェリアは、そこでようやく自分の中に何も揺れていないことを知った。
かわいそうだとは思う。
けれど、だからといって庇おうとは思わない。
姉としての情が完全に消えたわけではない。
ただ、その情はもう、真実より重くはない。
記録官が最後の一枚を読み上げる。
「“今夜の客には、惜しげなく使っているように見せたいの。前の袋と同じでお願い”」
そして、紙を置いた。
「以上をもって、オルフィナ・アストラーデが偽金流通の異常に気づいた後も、積極的に見栄と贅沢のため利用していたことを示す補助証拠とする」
補助証拠。
その言葉が重く落ちる。
主犯ではない。
だが被害者だけでもない。
まさにその中間で、欲に従って手を貸していた者。
それが今のオルフィナの位置だった。
オルフィナはもう、ただ泣くだけだった。
最初に審問室へ入ってきた時の“儚げな婚約者”の顔は消えている。
そこにいるのは、自分だけ助かりたいのに、証拠に追いつめられている女だ。
ディルハルトは視線を外さずに言う。
「涙は事情になる。だが、免罪にはならない」
短いその一言で、審問室の空気は完全に定まった。
オルフィナは被害者のふりをした。
そして失敗した。
その事実が、誰の目にも明らかになったのだ。
やがて裁定官が命じる。
「オルフィナ・アストラーデは一旦控えへ下がらせよ」
衛士が近づく。
オルフィナは立ち上がろうとしてふらつき、必死に机へ手をついた。
その姿は、かつて夜会の中央で宝石を揺らして笑っていた女と同じとは思えないほど惨めだった。
引かれていく直前、オルフィナはたった一度だけ、ルヴェリアの方を見た。
泣き腫らした目。
助けを求めるような、恨むような、何とも言えない目。
けれどルヴェリアは、ただ静かに見返しただけだった。
もう、その涙では動かない。
その無言の返答に、オルフィナは顔を歪めたまま連れて行かれた。
扉が閉じる。
審問室には、妙に乾いた静けさが残った。
そしてルヴェリアは知る。
次は、ゼルカインの番だと。
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