働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾

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第25話 何もしないはずが、制度化しました

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第25話 何もしないはずが、制度化しました

 翌朝。

 私は予定どおり、
 全力でだらけていた。

 起きる。
 顔を洗う。
 着替える。

 ――以上。

 その後は、
 ソファに沈み、
 何も考えず、
 天井を見る。

(今日は、勝てる気がする)

 意味を生まない。
 努力もしない。
 工夫もしない。

 完全なる、
 無作為の日常。

 ……のはずだった。

 昼前。

 マーガレットが、
 異様に慎重な声で言った。

「お嬢様……
 ご報告が……」

「嫌な予感しかしないわ」

「はい。
 本日より――」

 彼女は、一枚の紙を差し出した。

「《レイラ様・静養時間規定》
 が制定されました」

「…………は?」

 紙を読む。

――
第一条
レイラ様が何もなさらない時間は、
屋敷の秩序安定に寄与するため、
妨げてはならない。

第二条
当該時間は
「思索」「休養」「内省」
とみなす。

第三条
関係者は
私語・無断接触を慎むこと。
――

 私は、紙を閉じた。

 静かに。

「……誰の発案?」

「家宰です」

「誰が承認?」

「公爵様です」

「父、何してるの」

「“よく分からないが、
 効いているならいい”
 と」

 私は、ソファに顔を埋めた。

「違うの……
 私は、
 ただサボりたいだけなの……」

 午後。

 私は廊下を歩いてみた。

 すると――

 使用人たちが、
 一斉に姿勢を正す。

 音が、消える。

 誰も話さない。

 まるで、
 神聖区域。

(やめて!
 その敬意いらない!)

 私は逃げるように庭へ出た。

 ベンチに座る。

 空を見上げる。

 鳥が鳴く。

 平和。

 ……のはずが。

「お嬢様」

 振り返ると、
 ロバート。

「本日は“静養”の質が
 非常に安定しております」

「評価しないで」

「はい」

 しばらくして、
 父がやってきた。

「レイラ」

「なに?」

「無理はするな」

「してない」

「最近、屋敷が妙に円滑だ」

「それ、私のせいじゃない」

「いや、
 お前が何もしないおかげで
 皆が勝手に考え、
 勝手に動く」

 私は、遠い目をした。

「……それ、
 私いなくても成立するわよね?」

「そうだな」

「じゃあ、
 私は本当に何もしなくていい?」

「いい」

 即答だった。

 夜。

 日記を書く。

『私は今日も何もしなかった。
 結果、
 何もしないことが
 正式に保護された。
 この世界は、
 働かない者を
 放っておくことができないらしい』

 ペンを置く。

 考える。

(……まあ、いいか)

 働かなくていい。
 責められない。
 むしろ推奨。

 これはもう、
 勝ちでは?

 私は布団に潜り込み、
 小さく呟いた。

「明日も……
 何もしよう」

 その言葉は、
 屋敷のどこかで
 なぜか“覚悟ある宣言”として
 受け取られていたらしい。

 ――知らないけれど。
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