働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾

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第26話 何もしない令嬢、外部に波及する

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第26話 何もしない令嬢、外部に波及する

 翌日。

 私は今日も、
 何もしない予定だった。

 予定は大事だ。
 予定通りに何もしない。
 これはもう、
 立派な自己管理である。

 ……が。

 朝食後、
 マーガレットが静かに告げた。

「お嬢様。
 本日は――
 “来客”がございます」

「断って」

「すでに三件、
 断りました」

「優秀ね」

「しかし四件目が……」

 嫌な沈黙。

「……誰?」

「他領の貴族の方々です」

 私は、ゆっくり天井を見た。

「どうして?」

「“噂”です」

 嫌な単語だ。

「どんな?」


 “アーデルハイド公爵令嬢は、
 何もしないことで
 領地を安定させた”
 と」

 私は布団を被った。

「違うの。
 私は安定させたくて
 何もしなかったんじゃないの」

「はい」

「ただ、
 疲れたから」

「はい」

「サボりたかっただけ」

「……はい」

 マーガレットは、
 とても言いにくそうに続けた。

「その結果、
 “統治哲学”として
 解釈されております」

「世界、
 誤解力が高すぎる」

 結局、
 私は応接室に座らされた。

 対面には、
 三人の貴族。

 皆、
 やたら真剣な顔。

「レイラ様」

「お疲れさまです」

「本日は、
 ぜひお話を伺いたく」

 私は即答した。

「特別なことは
 何もしていません」

 沈黙。

 ……からの、
 なぜか感動。

「やはり……!」

「その境地……!」

「“何もしない勇気”……!」

(だから違うって言ってるのに!)

 彼らは熱心に語り始めた。

・口出ししないことで現場が育つ
・判断を遅らせることで最適解が出る
・トップが動かない安定感

 私は、
 途中から思考を放棄した。

(もう好きに解釈して……)

 話が一段落したところで、
 私は一つだけ言った。

「無理に真似しないほうが
 いいと思います」

 三人が息を呑む。

「向いてない人がやると、
 ただの放置ですから」

 沈黙。

 ……そして、
 深い納得。

「……肝に銘じます」

 帰っていった。

 午後。

 父が言った。

「外からの評価が上がっている」

「私は何もしてない」

「それが、
 評価されている」

 私は紅茶を飲んだ。

「ねえお父様」

「なんだ」

「私、
 本当にこのままでいい?」

 父は少し考えて、
 笑った。

「お前が動くと
 周囲が混乱する。
 お前が動かないと
 皆が落ち着く」

「……それ、
 私って邪魔?」

「いや」

 きっぱり。

「要石だ」

 夜。

 私はベッドで転がりながら思う。

 何もしない。
 干渉しない。
 責任も最小限。

 なのに、
 勝手に広がる。

(……もう、
 止まらないわね)

 私は目を閉じた。

 明日も、
 何もしない予定だ。

 ――外が、
 どう騒ごうとも。
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