7 / 40
第7話 静かな試験
しおりを挟む
第7話 静かな試験
学院が正式に動き出してから、初めての期末試験が近づいていた。
試験。
その言葉だけで、屋敷の空気が少し変わる。
これまでは家庭教師の裁量に任されていた評価。
だが学院では、一定の基準を設ける。
成績は記録し、比較される。
数字になる。
それは、甘えを許さないということだ。
私は試験問題の最終確認をしていた。
法律、会計、歴史、修辞。
単純な暗記ではなく、応用を問う内容。
「難しすぎませんか」
若い講師が不安げに尋ねる。
「基準を下げれば、学院の意味がありません」
「ですが、全員が高得点とはいかないでしょう」
「構いません」
私は首を横に振る。
「全員が同じ結果である必要はありません」
学びは競争だが、同時に自覚でもある。
自分の位置を知ること。
それが次への動機になる。
試験当日。
広間には緊張が漂っていた。
いつもは討論で声を張り上げる少年たちも、今日は静かだ。
紙が配られ、筆が走る。
私は廊下の影からその様子を見守る。
制度は、こうした積み重ねで信頼を得る。
公平であること。
厳格であること。
終わった後の表情は様々だった。
安堵、悔しさ、手応え。
その全てが、成長の証だ。
数日後、結果が出た。
予想通り、上位は明確だった。
だが同時に、意外な名もあった。
参加家の中で最も家格の低い男爵家の次男が、上位三名に入ったのだ。
広間がざわめく。
「ありえない」 「偶然だ」
私は静かに立ち上がる。
「採点は複数講師による確認済みです」
声は穏やかに。
「学院では家格は加点要素ではありません」
少年は戸惑いながらも、胸を張る。
私はその姿を見て、胸の奥が熱くなる。
これだ。
眠っていた人材。
家格の影に隠れていた才能。
制度がなければ、埋もれていたかもしれない。
夜、私は父に報告する。
「面白い結果です」
「聞いた」
父は満足げにうなずく。
「反発も出る」
「覚悟しています」
「男爵家の次男が上位。古い家は面白くないだろう」
「だからこそ、価値があります」
私ははっきりと言う。
「努力が報われる場でなければ、学院はただの集会所です」
父は目を細める。
「お前は揺らがぬな」
「揺らげば、足元から崩れます」
翌日、例の伯爵から再び書状が届いた。
内容は短い。
評価基準の公開を求めるもの。
私は微笑む。
これは攻撃ではない。
確認だ。
つまり、学院は無視できない存在になった。
「公開しましょう」
私は父に告げる。
「隠す理由はありません」
「透明性か」
「はい」
採点基準、配点、講師の名。
すべてを明示する。
公平であることを、数字で示す。
それが学院の信頼になる。
公表後、伯爵家は沈黙した。
否定できない。
結果が出ているから。
その夜、私は庭を歩きながら空を見上げる。
学院は、静かに広がっている。
まだ男子のみ。
女子は、まだ先。
だがこの結果は、布石になる。
家格に関わらず、能力で評価される場。
それは、男社会の中でさえ、揺らぎを生む。
私は小さく呟く。
「未来は、まだ分からない」
だが、少なくとも今日、男爵家の次男は自分の力で評価された。
それは、小さな変化。
けれど確かな一歩。
学院であり、彼女自身。
私はまだ盾の内側にいる。
だが制度は、少しずつ私の手を離れ、社会の中で試され始めている。
静かな試験は、学院の名を確かなものにした。
次に試されるのは、きっと私自身だ。
学院が正式に動き出してから、初めての期末試験が近づいていた。
試験。
その言葉だけで、屋敷の空気が少し変わる。
これまでは家庭教師の裁量に任されていた評価。
だが学院では、一定の基準を設ける。
成績は記録し、比較される。
数字になる。
それは、甘えを許さないということだ。
私は試験問題の最終確認をしていた。
法律、会計、歴史、修辞。
単純な暗記ではなく、応用を問う内容。
「難しすぎませんか」
若い講師が不安げに尋ねる。
「基準を下げれば、学院の意味がありません」
「ですが、全員が高得点とはいかないでしょう」
「構いません」
私は首を横に振る。
「全員が同じ結果である必要はありません」
学びは競争だが、同時に自覚でもある。
自分の位置を知ること。
それが次への動機になる。
試験当日。
広間には緊張が漂っていた。
いつもは討論で声を張り上げる少年たちも、今日は静かだ。
紙が配られ、筆が走る。
私は廊下の影からその様子を見守る。
制度は、こうした積み重ねで信頼を得る。
公平であること。
厳格であること。
終わった後の表情は様々だった。
安堵、悔しさ、手応え。
その全てが、成長の証だ。
数日後、結果が出た。
予想通り、上位は明確だった。
だが同時に、意外な名もあった。
参加家の中で最も家格の低い男爵家の次男が、上位三名に入ったのだ。
広間がざわめく。
「ありえない」 「偶然だ」
私は静かに立ち上がる。
「採点は複数講師による確認済みです」
声は穏やかに。
「学院では家格は加点要素ではありません」
少年は戸惑いながらも、胸を張る。
私はその姿を見て、胸の奥が熱くなる。
これだ。
眠っていた人材。
家格の影に隠れていた才能。
制度がなければ、埋もれていたかもしれない。
夜、私は父に報告する。
「面白い結果です」
「聞いた」
父は満足げにうなずく。
「反発も出る」
「覚悟しています」
「男爵家の次男が上位。古い家は面白くないだろう」
「だからこそ、価値があります」
私ははっきりと言う。
「努力が報われる場でなければ、学院はただの集会所です」
父は目を細める。
「お前は揺らがぬな」
「揺らげば、足元から崩れます」
翌日、例の伯爵から再び書状が届いた。
内容は短い。
評価基準の公開を求めるもの。
私は微笑む。
これは攻撃ではない。
確認だ。
つまり、学院は無視できない存在になった。
「公開しましょう」
私は父に告げる。
「隠す理由はありません」
「透明性か」
「はい」
採点基準、配点、講師の名。
すべてを明示する。
公平であることを、数字で示す。
それが学院の信頼になる。
公表後、伯爵家は沈黙した。
否定できない。
結果が出ているから。
その夜、私は庭を歩きながら空を見上げる。
学院は、静かに広がっている。
まだ男子のみ。
女子は、まだ先。
だがこの結果は、布石になる。
家格に関わらず、能力で評価される場。
それは、男社会の中でさえ、揺らぎを生む。
私は小さく呟く。
「未来は、まだ分からない」
だが、少なくとも今日、男爵家の次男は自分の力で評価された。
それは、小さな変化。
けれど確かな一歩。
学院であり、彼女自身。
私はまだ盾の内側にいる。
だが制度は、少しずつ私の手を離れ、社会の中で試され始めている。
静かな試験は、学院の名を確かなものにした。
次に試されるのは、きっと私自身だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる