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第10話 規律という概念
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第10話 規律という概念
最初の壁を越えたあと、学院の空気は少しだけ変わった。
表面的には静かだ。
時間割は守られ、席順も守られ、討論も以前より秩序を帯びている。
だが私は知っている。
これは自然に整ったのではない。
枠を与えたから整ったのだ。
枠がなければ、人は慣れた形に戻る。
家の上下関係。
長子優先。
家格による暗黙の優越。
それらを学院の外に置いてもらうためには、学院内の規律が明確でなければならない。
私は講師会議で言った。
「規律は罰のためにあるのではありません」
全員の視線が集まる。
「規律は、能力を正しく測るためにあります」
成績順の席。
統一された時間割。
同じ課題。
同じ試験。
条件が揃っていなければ、成果は比較できない。
比較できなければ、評価は信用されない。
信用がなければ、学院はただの集まりだ。
年配の講師が口を開く。
「令嬢様、自由を奪いすぎではないかという声もあります」
「承知しています」
私は静かに答える。
「ですが、ここは家ではありません」
家は血で守られる。
学院は規律で守られる。
その違いを理解してもらうまで、時間はかかる。
その日の午後、私は寮を巡回した。
部屋割りは家格ではなく、学年と成績を基準にしている。
最初は不満もあったが、今では静かだ。
ある部屋の前で足を止める。
中から議論の声が聞こえた。
「税率を一律にするのは不公平だ」
「だが複雑すぎれば徴収が滞る」
私は扉を軽く叩き、顔を覗かせる。
「討論は講義時間外でも結構です」
二人は慌てて立ち上がる。
「失礼いたしました」
「謝る必要はありません」
私は微笑む。
「ただし、夜更かしは規律違反です」
笑いが漏れる。
柔らかい緊張。
規律は締め付けるためではなく、守るため。
その感覚が、少しずつ根づいている。
夕刻、父の書斎へ向かう。
「順調か」
「表面上は」
私は正直に答える。
「内心の不満は消えていません」
「当然だ」
父は淡々と言う。
「人は急には変わらぬ」
「はい」
私は窓の外を見つめる。
「ですが、学院内では変わってもらいます」
「強いな」
「強くなければ、制度は残りません」
父は椅子に深く座り、私を見上げる。
「規律は、いつかお前にも向く」
「承知しています」
学院は私の思想で作られている。
ならば、私もその枠に従わねばならない。
公平であること。
例外を作らないこと。
それは自分にも適用される。
数日後、参加家の一つが不満を表明した。
「我が家の子弟が、夜間自習を拒否されたと聞いた」
私は直接応対する。
「夜間自習は希望制です」
「だが他家の子は参加している」
「選択です」
私は静かに説明する。
「参加しなければ不利になるわけではありません」
だが、内心では知っている。
規律は公平でも、意識は違う。
参加する者は伸びる。
参加しない者は差を感じる。
それが現実だ。
「強制ではない」
私は繰り返す。
「ただ、機会は平等にあります」
沈黙の後、その家は納得した。
納得というより、反論できなかったのだろう。
私は疲れを覚えながらも、確信していた。
規律は、徐々にこの場を学院へと変えている。
徒弟でもなく、修道院でもない。
家でもない。
第三の場所。
夜、私は机に向かい、規律文書の最終版に署名する。
公爵家印が押される。
正式な学院規則。
これで後戻りはできない。
だが、後戻りするつもりもない。
私は小さく呟く。
「秩序なくして、底上げはありません」
より多くの者に教育の機会を。
そのためには、秩序が必要だ。
規律という概念は、この国にはまだ新しい。
だが今、この屋敷の中で確かに息づいている。
そして私は、その中心に立っている。
揺らがずに、前へ進むために。
最初の壁を越えたあと、学院の空気は少しだけ変わった。
表面的には静かだ。
時間割は守られ、席順も守られ、討論も以前より秩序を帯びている。
だが私は知っている。
これは自然に整ったのではない。
枠を与えたから整ったのだ。
枠がなければ、人は慣れた形に戻る。
家の上下関係。
長子優先。
家格による暗黙の優越。
それらを学院の外に置いてもらうためには、学院内の規律が明確でなければならない。
私は講師会議で言った。
「規律は罰のためにあるのではありません」
全員の視線が集まる。
「規律は、能力を正しく測るためにあります」
成績順の席。
統一された時間割。
同じ課題。
同じ試験。
条件が揃っていなければ、成果は比較できない。
比較できなければ、評価は信用されない。
信用がなければ、学院はただの集まりだ。
年配の講師が口を開く。
「令嬢様、自由を奪いすぎではないかという声もあります」
「承知しています」
私は静かに答える。
「ですが、ここは家ではありません」
家は血で守られる。
学院は規律で守られる。
その違いを理解してもらうまで、時間はかかる。
その日の午後、私は寮を巡回した。
部屋割りは家格ではなく、学年と成績を基準にしている。
最初は不満もあったが、今では静かだ。
ある部屋の前で足を止める。
中から議論の声が聞こえた。
「税率を一律にするのは不公平だ」
「だが複雑すぎれば徴収が滞る」
私は扉を軽く叩き、顔を覗かせる。
「討論は講義時間外でも結構です」
二人は慌てて立ち上がる。
「失礼いたしました」
「謝る必要はありません」
私は微笑む。
「ただし、夜更かしは規律違反です」
笑いが漏れる。
柔らかい緊張。
規律は締め付けるためではなく、守るため。
その感覚が、少しずつ根づいている。
夕刻、父の書斎へ向かう。
「順調か」
「表面上は」
私は正直に答える。
「内心の不満は消えていません」
「当然だ」
父は淡々と言う。
「人は急には変わらぬ」
「はい」
私は窓の外を見つめる。
「ですが、学院内では変わってもらいます」
「強いな」
「強くなければ、制度は残りません」
父は椅子に深く座り、私を見上げる。
「規律は、いつかお前にも向く」
「承知しています」
学院は私の思想で作られている。
ならば、私もその枠に従わねばならない。
公平であること。
例外を作らないこと。
それは自分にも適用される。
数日後、参加家の一つが不満を表明した。
「我が家の子弟が、夜間自習を拒否されたと聞いた」
私は直接応対する。
「夜間自習は希望制です」
「だが他家の子は参加している」
「選択です」
私は静かに説明する。
「参加しなければ不利になるわけではありません」
だが、内心では知っている。
規律は公平でも、意識は違う。
参加する者は伸びる。
参加しない者は差を感じる。
それが現実だ。
「強制ではない」
私は繰り返す。
「ただ、機会は平等にあります」
沈黙の後、その家は納得した。
納得というより、反論できなかったのだろう。
私は疲れを覚えながらも、確信していた。
規律は、徐々にこの場を学院へと変えている。
徒弟でもなく、修道院でもない。
家でもない。
第三の場所。
夜、私は机に向かい、規律文書の最終版に署名する。
公爵家印が押される。
正式な学院規則。
これで後戻りはできない。
だが、後戻りするつもりもない。
私は小さく呟く。
「秩序なくして、底上げはありません」
より多くの者に教育の機会を。
そのためには、秩序が必要だ。
規律という概念は、この国にはまだ新しい。
だが今、この屋敷の中で確かに息づいている。
そして私は、その中心に立っている。
揺らがずに、前へ進むために。
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