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29話 王太子の再接近
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29話 王太子の再接近
焦燥は、保守派だけのものではなかった。
女子教養課程の成果が王宮にも届いた頃、私は再びあの視線を感じるようになった。
ウォーク・アロング王太子。
男子学院の視察以来、直接的な接触はなかった。
だが彼は常に報告を受けている。
そして今、動いた。
王宮から正式な招待状が届いたのは、共通講義の評価が公表された翌週だった。
名目は「制度成果に関する意見交換」。
私は父と共に王宮へ向かう。
謁見の間は静かだった。
王太子は以前よりも落ち着いた印象を受ける。
「久しいな、公爵令嬢」
「ご無沙汰しております、殿下」
形式的な挨拶。
視線が交差する。
以前の軽い好奇ではない。
明確な意志。
「女子教養課程の成果、見事であった」
「光栄です」
「想定内か」
「はい」
私は迷わず答える。
「共通講義による刺激は、双方に効果がございました」
王太子は小さく笑う。
「刺激、か」
「制御可能な範囲で」
「大胆だな」
「段階を踏んでおります」
沈黙が落ちる。
父が静かに控える。
王太子は一歩踏み出した。
「本題に入ろう」
声の調子が変わる。
「そなたを、王家に迎えたい」
室内の空気が一瞬止まる。
予想していた。
だが実際に言葉にされると、重みが違う。
「婚約の打診である」
私は視線を下げずに答える。
「恐れ多いお申し出です」
だが続ける。
「婚約は家同士の契約です。その決定権は父である公爵にございます」
父が一歩前に出る。
「殿下、それは光栄な申し出にございますが――」
王太子は手を上げ、父を制する。
「まずは令嬢の意志を聞きたい」
私は静かに息を吸う。
「殿下」
「何だ」
「私は制度の設計者に過ぎません」
「……」
「王家に入れば、政治的役割が最優先となります。学院は公正であるべきです」
王太子の目が細くなる。
「王家に入れば、より広く広められるとは考えぬか」
誘惑。
確かに理屈は通る。
だが同時に、制度は王家の色を帯びる。
それは危険。
「殿下」
私は穏やかに言う。
「今はまだ、基盤を固める段階です」
「逃げるのか」
「逃げません」
私は首を振る。
「段階を踏みます」
王太子は沈黙する。
父が静かに言葉を継ぐ。
「殿下、あの娘はまだ未熟にございます。王太子妃の責を負うには時期尚早かと」
丁寧な拒絶。
だが否定ではない。
王太子は私を見つめた。
「そなたは、私を避けているのか」
「避けておりません」
正直に答える。
「私は、制度を守っているだけです」
王太子の表情がわずかに変わる。
理解と、苛立ち。
どちらもある。
「王家に欲しい人材だ」
「光栄です」
「だが公爵を説得できねば進まぬか」
「はい」
私は一歩も引かない。
決定権は父。
それが私の盾。
謁見はそこで終わった。
帰りの馬車の中、父が言う。
「強いな」
「盾があるからです」
「いつまでもあると思うな」
「存じています」
私は窓の外を見る。
王太子は無能ではない。
むしろ有能。
だからこそ、彼は焦らない。
だが確実に動いている。
王家は私を欲している。
制度ごと。
その意味は重い。
夜、私は机に向かう。
婚約。
それは政治。
そして制度の独立性。
今はまだ、王家に入るべきではない。
基盤が弱い。
制度が王家の一部になれば、反発は倍増する。
私は静かに確信する。
再接近は始まりに過ぎない。
次は舞踏会。
公の場。
そこで何が起きるか。
未来はまだ分からない。
だが私は、段階を踏む。
焦らず。
守りながら。
制度を。
そして、自分を。
焦燥は、保守派だけのものではなかった。
女子教養課程の成果が王宮にも届いた頃、私は再びあの視線を感じるようになった。
ウォーク・アロング王太子。
男子学院の視察以来、直接的な接触はなかった。
だが彼は常に報告を受けている。
そして今、動いた。
王宮から正式な招待状が届いたのは、共通講義の評価が公表された翌週だった。
名目は「制度成果に関する意見交換」。
私は父と共に王宮へ向かう。
謁見の間は静かだった。
王太子は以前よりも落ち着いた印象を受ける。
「久しいな、公爵令嬢」
「ご無沙汰しております、殿下」
形式的な挨拶。
視線が交差する。
以前の軽い好奇ではない。
明確な意志。
「女子教養課程の成果、見事であった」
「光栄です」
「想定内か」
「はい」
私は迷わず答える。
「共通講義による刺激は、双方に効果がございました」
王太子は小さく笑う。
「刺激、か」
「制御可能な範囲で」
「大胆だな」
「段階を踏んでおります」
沈黙が落ちる。
父が静かに控える。
王太子は一歩踏み出した。
「本題に入ろう」
声の調子が変わる。
「そなたを、王家に迎えたい」
室内の空気が一瞬止まる。
予想していた。
だが実際に言葉にされると、重みが違う。
「婚約の打診である」
私は視線を下げずに答える。
「恐れ多いお申し出です」
だが続ける。
「婚約は家同士の契約です。その決定権は父である公爵にございます」
父が一歩前に出る。
「殿下、それは光栄な申し出にございますが――」
王太子は手を上げ、父を制する。
「まずは令嬢の意志を聞きたい」
私は静かに息を吸う。
「殿下」
「何だ」
「私は制度の設計者に過ぎません」
「……」
「王家に入れば、政治的役割が最優先となります。学院は公正であるべきです」
王太子の目が細くなる。
「王家に入れば、より広く広められるとは考えぬか」
誘惑。
確かに理屈は通る。
だが同時に、制度は王家の色を帯びる。
それは危険。
「殿下」
私は穏やかに言う。
「今はまだ、基盤を固める段階です」
「逃げるのか」
「逃げません」
私は首を振る。
「段階を踏みます」
王太子は沈黙する。
父が静かに言葉を継ぐ。
「殿下、あの娘はまだ未熟にございます。王太子妃の責を負うには時期尚早かと」
丁寧な拒絶。
だが否定ではない。
王太子は私を見つめた。
「そなたは、私を避けているのか」
「避けておりません」
正直に答える。
「私は、制度を守っているだけです」
王太子の表情がわずかに変わる。
理解と、苛立ち。
どちらもある。
「王家に欲しい人材だ」
「光栄です」
「だが公爵を説得できねば進まぬか」
「はい」
私は一歩も引かない。
決定権は父。
それが私の盾。
謁見はそこで終わった。
帰りの馬車の中、父が言う。
「強いな」
「盾があるからです」
「いつまでもあると思うな」
「存じています」
私は窓の外を見る。
王太子は無能ではない。
むしろ有能。
だからこそ、彼は焦らない。
だが確実に動いている。
王家は私を欲している。
制度ごと。
その意味は重い。
夜、私は机に向かう。
婚約。
それは政治。
そして制度の独立性。
今はまだ、王家に入るべきではない。
基盤が弱い。
制度が王家の一部になれば、反発は倍増する。
私は静かに確信する。
再接近は始まりに過ぎない。
次は舞踏会。
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そこで何が起きるか。
未来はまだ分からない。
だが私は、段階を踏む。
焦らず。
守りながら。
制度を。
そして、自分を。
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