『泣きながら婚約破棄されたので了承しました ――なぜ婚約破棄した側の殿下が取り乱しているのですか? 捨てられたのは私では?――』

鷹 綾

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第37話 残った者の責任

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第37話 残った者の責任

 王宮は、静かになった。

 以前のような雑多な声はなく、
 廊下を行き交う人影も、どこか整理されている。

 ――人数が、減ったのだ。

「……随分、すっきりしましたね」

 若い官吏が、思わず漏らす。

「口に出すな」

 先輩が、低く制した。

「これは、
 “楽になった”わけじゃない」

 彼は、視線を会議室の扉に向ける。

「……責任が、
 こちらに来ただけだ」

 午前の会議。

 参加者は、以前より明らかに少ない。
 だが、議論は止まらない。

「この案の場合、
 失敗した際の責任範囲は?」

「こちらで負います。
 だからこそ、
 段階実施を提案します」

 明確な言葉。
 逃げ道を残さない言い方。

 アークトゥルスは、
 そのやり取りを静かに見ていた。

(……残った者は、
 覚悟を決めている)

 それは、
 忠誠ではない。

 自分の判断に、
 名前を刻む覚悟だ。

 会議後。

「……殿下」

 一人の官吏が、
 少し躊躇いながら声をかける。

「我々は、
 正しいでしょうか」

 率直な問い。

 アークトゥルスは、
 すぐには答えなかった。

「……正しいかどうかは、
 結果が決める」

 そして、続ける。

「だが――
 逃げていないことだけは、
 胸を張っていい」

 その言葉に、
 官吏は、深く頭を下げた。

 同じ頃。

 ミラは、
 王宮の外で、
 久しぶりに市井の声を聞いていた。

「最近の王宮、
 決まるまで時間がかかるけど……」

「前より、
 無茶は減ったな」

「……誰かが、
 勝手に決めなくなった」

 それは、
 称賛でも、
 不満でもない。

 ただの、
 実感だった。

(……ちゃんと、
 伝わっている)

 ミラは、
 静かに息を吐く。

 夜。

 アークトゥルスは、
 書斎で一通の書簡を読んでいた。

 退いた元側近からのものだ。

『殿下のやり方は、
 正しいと思います。
 ただ、私には、
 ついていく力がありませんでした』

 短い文面。

 言い訳も、
 恨みもない。

「……ありがとう」

 誰に聞かせるでもなく、
 呟く。

 扉の外で、
 ミラが足を止める。

「殿下」

「……うん」

「残った者は、
 強い人たちではありません」

 静かな声。

「弱さを自覚したうえで、
 立ち続けると決めた人たちです」

 アークトゥルスは、
 小さく笑った。

「……それなら、
 大丈夫だな」

 同じ頃。

 デネブは、
 新しい報告書に目を通していた。

「……王宮内部、
 再編完了、ですか」

 紙を閉じる。

「ようやく、
 “誰かの代わり”で
 回らない組織になりましたわね」

 第37話は、
 ざまぁの後に残るものを描く回。

 壊す話ではない。
 追い出す話でもない。

 残った者が、
 責任を引き受ける――
 それだけの話。

 そしてそれは、
 最も地味で、
 最も重い、
 成長の証だった。
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