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第39話 選ばれなかった理由
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第39話 選ばれなかった理由
王宮に、ひとつの報告が回った。
派手さのない、
だが、無視できない内容。
「……一部貴族より、
正式な問い合わせが来ています」
側近が、淡々と告げる。
「“なぜ、自分たちは選ばれなかったのか”と」
アークトゥルスは、
書類から目を上げた。
「……そうか」
声に、驚きはない。
いずれ来ると、
分かっていた。
会議室。
限られた人数が集められる。
かつて、
声を上げ、
不満を漏らし、
やがて居場所を失った者たち。
彼らは、
怒りよりも、
戸惑いを抱えていた。
「殿下……」
代表格の貴族が、
言葉を選びながら口を開く。
「我々は、
忠誠を尽くしてきたつもりです」
「それは、
疑っていない」
アークトゥルスは、
即座に否定した。
だが、
続く言葉は、
はっきりしていた。
「だが――
それは、
選ばれる理由にはならない」
場が、静まる。
「私は、
あなた方を嫌ったわけではない」
淡々と。
「ただ、
理由を持つ案を、
選んだだけだ」
「……では、
我々は、
何が足りなかったのですか」
その問いに、
逃げなかった。
「自分の言葉です」
短く、
だが明確に。
「誰かが決めた前例。
誰かが通した慣習。
それを、
“自分の判断”として
語れなかった」
沈黙。
それは、
否定ではない。
説明だった。
「……それだけで、
我々は、
切り捨てられたと?」
声が、わずかに震える。
「切り捨ててはいない」
はっきりと否定する。
「ただ――
私の代わりに
考える人間は、
必要なくなった」
その瞬間、
何人かが、
ようやく理解した顔をした。
――
問題は、
能力でも、
立場でもなかった。
“考える責任”を、
引き受けなかったこと。
会議は、
それ以上、
長引かなかった。
彼らは、
怒鳴られもせず、
責められもせず、
ただ、席を立つ。
その背中には、
敗北感よりも、
重たい納得が残っていた。
夜。
アークトゥルスは、
書斎で一人、
深く息を吐いた。
(……言えた)
逃げずに。
誤魔化さずに。
そこへ、
ミラが静かに入ってくる。
「殿下、
お疲れでしょう」
「……ああ」
「でも、
今日の説明は、
必要でした」
アークトゥルスは、
小さく頷いた。
「……デネブなら、
もっと早く言っていたな」
ミラは、
少しだけ微笑む。
「でも、
殿下は、
ご自身の言葉で言いました」
それで、
十分だった。
同じ頃。
デネブは、
別の地で、
報告を受け取っていた。
「……王太子殿下、
理由を、
直接説明されたそうです」
デネブは、
静かに目を閉じる。
「ええ。
それでいい」
誰かに守られる必要も、
誰かに代わってもらう必要も、
もうない。
第39話は、
ざまぁの最終確認。
叫びも、
断罪も、
土下座もない。
ただ――
選ばれなかった理由を、
本人たちが、
理解してしまう。
それ以上に、
残酷で、
誠実な結末は、
存在しなかった。
王宮に、ひとつの報告が回った。
派手さのない、
だが、無視できない内容。
「……一部貴族より、
正式な問い合わせが来ています」
側近が、淡々と告げる。
「“なぜ、自分たちは選ばれなかったのか”と」
アークトゥルスは、
書類から目を上げた。
「……そうか」
声に、驚きはない。
いずれ来ると、
分かっていた。
会議室。
限られた人数が集められる。
かつて、
声を上げ、
不満を漏らし、
やがて居場所を失った者たち。
彼らは、
怒りよりも、
戸惑いを抱えていた。
「殿下……」
代表格の貴族が、
言葉を選びながら口を開く。
「我々は、
忠誠を尽くしてきたつもりです」
「それは、
疑っていない」
アークトゥルスは、
即座に否定した。
だが、
続く言葉は、
はっきりしていた。
「だが――
それは、
選ばれる理由にはならない」
場が、静まる。
「私は、
あなた方を嫌ったわけではない」
淡々と。
「ただ、
理由を持つ案を、
選んだだけだ」
「……では、
我々は、
何が足りなかったのですか」
その問いに、
逃げなかった。
「自分の言葉です」
短く、
だが明確に。
「誰かが決めた前例。
誰かが通した慣習。
それを、
“自分の判断”として
語れなかった」
沈黙。
それは、
否定ではない。
説明だった。
「……それだけで、
我々は、
切り捨てられたと?」
声が、わずかに震える。
「切り捨ててはいない」
はっきりと否定する。
「ただ――
私の代わりに
考える人間は、
必要なくなった」
その瞬間、
何人かが、
ようやく理解した顔をした。
――
問題は、
能力でも、
立場でもなかった。
“考える責任”を、
引き受けなかったこと。
会議は、
それ以上、
長引かなかった。
彼らは、
怒鳴られもせず、
責められもせず、
ただ、席を立つ。
その背中には、
敗北感よりも、
重たい納得が残っていた。
夜。
アークトゥルスは、
書斎で一人、
深く息を吐いた。
(……言えた)
逃げずに。
誤魔化さずに。
そこへ、
ミラが静かに入ってくる。
「殿下、
お疲れでしょう」
「……ああ」
「でも、
今日の説明は、
必要でした」
アークトゥルスは、
小さく頷いた。
「……デネブなら、
もっと早く言っていたな」
ミラは、
少しだけ微笑む。
「でも、
殿下は、
ご自身の言葉で言いました」
それで、
十分だった。
同じ頃。
デネブは、
別の地で、
報告を受け取っていた。
「……王太子殿下、
理由を、
直接説明されたそうです」
デネブは、
静かに目を閉じる。
「ええ。
それでいい」
誰かに守られる必要も、
誰かに代わってもらう必要も、
もうない。
第39話は、
ざまぁの最終確認。
叫びも、
断罪も、
土下座もない。
ただ――
選ばれなかった理由を、
本人たちが、
理解してしまう。
それ以上に、
残酷で、
誠実な結末は、
存在しなかった。
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