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第36話 「面会の条件」
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第36話 「面会の条件」
エドラー伯爵家からの返書は、噂が流れ始めてから二日後に届いた。
内容は簡潔で、だが必死さが滲んでいる。
――一度、直接お話ししたい。
――誤解を解く機会をいただけないか。
ノインはその文面を読み終え、静かに紙を折りたたんだ。
「……来ましたね」
「想定より早い」
フェルディナンドは短く答え、椅子の背に手を置いた。
「向こうは、主導権を失うことを恐れている。だから“面会”を切り札にする」
「私を、揺さぶるために?」
「感情に訴える。血縁を持ち出す。過去を美化する。――常套だ」
ノインは、胸の奥に小さな痛みを覚えながらも、顔を上げた。
「……会います」
「条件付きで、だな」
その言葉に、ノインは目を瞬かせた。
「条件……?」
「お前が傷つかないための線を、先に引く」
フェルディナンドは机に向かい、紙を一枚引き寄せた。
「場所は公爵邸。第三者の立会いを入れる。時間は短く、話題は限定」
「……ずいぶん、事務的ですね」
「事務でいい。感情は、向こうが使う」
ノインは少し考え、ゆっくりと頷いた。
「わかりました。……私も、条件を出したいです」
「言ってみろ」
「“謝罪”が目的なら、言葉だけで終わらせないこと」
「ほう」
「過去の扱いについて、事実を認めること。それができないなら――話す意味はありません」
フェルディナンドの目が、わずかに細まった。
評価するような、誇らしげな視線。
「いい条件だ」
その日の夕方、ラドクリフ執事が応接室の準備を整えた。
過度に華美ではない、けれど逃げ場のない、静かな部屋。
「……緊張、してますか?」
整えられた室内を見渡しながら、ノインが尋ねると、フェルディナンドは即答した。
「している」
「え……?」
「お前が、どう扱われるかがな」
ノインは、ふっと笑った。
「……大丈夫です。今の私は、あの頃の私じゃありません」
「それでも、だ」
彼はそう言って、ノインの手を取った。
「逃げてもいい。途中で終わらせてもいい。――その権利は、常にお前にある」
その言葉が、何よりの支えだった。
翌日、正午。
エドラー伯爵夫妻とエミリアが、公爵邸の門をくぐった。
かつて見慣れたはずの姿は、今はどこか小さく見える。
伯爵夫人の視線は落ち着かず、エミリアは唇を噛みしめている。
応接室で向かい合った瞬間、重い沈黙が落ちた。
「……久しぶりね、ノイン」
「はい。お久しぶりです」
丁寧な挨拶。
感情を削ぎ落とした、距離のある声。
伯爵が咳払いをし、口を開く。
「今日は……話し合いの場を設けてくれて感謝する」
「条件は、事前にお伝えした通りです」
ノインは、はっきりと言った。
「過去の扱いについて、事実を認めてください。それができないなら――ここで終わりです」
伯爵夫妻は、言葉に詰まった。
エミリアが、耐えきれないように声を上げる。
「……どうして、そんな言い方を……!」
「エミリア」
ノインは、静かに視線を向けた。
「“どうして”か、あなたならわかっているはずです」
沈黙。
逃げ場は、もうない。
フェルディナンドは一言も挟まない。
ただ、そこに“在る”だけで、圧力になっていた。
面会は、ここからが本番だ。
感情ではなく、事実で向き合うための――条件は、すでに整っている。
ノインは背筋を伸ばし、次に来る言葉を、正面から受け止める準備をした。
エドラー伯爵家からの返書は、噂が流れ始めてから二日後に届いた。
内容は簡潔で、だが必死さが滲んでいる。
――一度、直接お話ししたい。
――誤解を解く機会をいただけないか。
ノインはその文面を読み終え、静かに紙を折りたたんだ。
「……来ましたね」
「想定より早い」
フェルディナンドは短く答え、椅子の背に手を置いた。
「向こうは、主導権を失うことを恐れている。だから“面会”を切り札にする」
「私を、揺さぶるために?」
「感情に訴える。血縁を持ち出す。過去を美化する。――常套だ」
ノインは、胸の奥に小さな痛みを覚えながらも、顔を上げた。
「……会います」
「条件付きで、だな」
その言葉に、ノインは目を瞬かせた。
「条件……?」
「お前が傷つかないための線を、先に引く」
フェルディナンドは机に向かい、紙を一枚引き寄せた。
「場所は公爵邸。第三者の立会いを入れる。時間は短く、話題は限定」
「……ずいぶん、事務的ですね」
「事務でいい。感情は、向こうが使う」
ノインは少し考え、ゆっくりと頷いた。
「わかりました。……私も、条件を出したいです」
「言ってみろ」
「“謝罪”が目的なら、言葉だけで終わらせないこと」
「ほう」
「過去の扱いについて、事実を認めること。それができないなら――話す意味はありません」
フェルディナンドの目が、わずかに細まった。
評価するような、誇らしげな視線。
「いい条件だ」
その日の夕方、ラドクリフ執事が応接室の準備を整えた。
過度に華美ではない、けれど逃げ場のない、静かな部屋。
「……緊張、してますか?」
整えられた室内を見渡しながら、ノインが尋ねると、フェルディナンドは即答した。
「している」
「え……?」
「お前が、どう扱われるかがな」
ノインは、ふっと笑った。
「……大丈夫です。今の私は、あの頃の私じゃありません」
「それでも、だ」
彼はそう言って、ノインの手を取った。
「逃げてもいい。途中で終わらせてもいい。――その権利は、常にお前にある」
その言葉が、何よりの支えだった。
翌日、正午。
エドラー伯爵夫妻とエミリアが、公爵邸の門をくぐった。
かつて見慣れたはずの姿は、今はどこか小さく見える。
伯爵夫人の視線は落ち着かず、エミリアは唇を噛みしめている。
応接室で向かい合った瞬間、重い沈黙が落ちた。
「……久しぶりね、ノイン」
「はい。お久しぶりです」
丁寧な挨拶。
感情を削ぎ落とした、距離のある声。
伯爵が咳払いをし、口を開く。
「今日は……話し合いの場を設けてくれて感謝する」
「条件は、事前にお伝えした通りです」
ノインは、はっきりと言った。
「過去の扱いについて、事実を認めてください。それができないなら――ここで終わりです」
伯爵夫妻は、言葉に詰まった。
エミリアが、耐えきれないように声を上げる。
「……どうして、そんな言い方を……!」
「エミリア」
ノインは、静かに視線を向けた。
「“どうして”か、あなたならわかっているはずです」
沈黙。
逃げ場は、もうない。
フェルディナンドは一言も挟まない。
ただ、そこに“在る”だけで、圧力になっていた。
面会は、ここからが本番だ。
感情ではなく、事実で向き合うための――条件は、すでに整っている。
ノインは背筋を伸ばし、次に来る言葉を、正面から受け止める準備をした。
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