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第十二話 王都に近づくと、仕事が降ってきますもの
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第十二話 王都に近づくと、仕事が降ってきますもの
翌朝。
ユニリーバ公爵邸は、驚くほど静かだった。
鳥のさえずり。
木々を揺らす風の音。
遠くで、庭師が作業する気配。
(……平和ですわね)
ティモテ・ユニリーバは、窓辺で紅茶を飲みながら、穏やかにそう思った。
王城にいた頃の朝とは、まるで違う。
目を覚ました瞬間から、
「今日の予定」
「処理すべき案件」
「判断事項」が頭を埋め尽くしていた。
だが今は、何もない。
(何もない、という贅沢)
カップを置いたところで、
控えめなノックがあった。
「ティモテ様」
執事が顔を出す。
「王都より、使者が……」
その一言で、
ティモテの表情が、すっと変わる。
(……来ましたわね)
だが、驚きはない。
むしろ、予想通りだった。
「内容は?」
「殿下よりの近況伺いと……
『少し、お顔を』とのことです」
ティモテは、間を置かずに答えた。
「お断りしてください」
即答だった。
執事が一瞬、目を瞬かせる。
「理由は……?」
ティモテは、紅茶を一口飲んでから、穏やかに言った。
「王都に近づくと、仕事が降ってきますもの」
それは冗談ではなく、
経験に基づいた事実だった。
「私はもう、
王太子妃候補でも、補佐役でもありません」
「それに……」
少しだけ、声を柔らかくする。
「“少しだけ”という言葉は、
一番危険ですわ」
執事は、苦笑いを浮かべた。
「かしこまりました。丁重にお断りいたします」
「ええ、お願いします」
執事が下がると、
ティモテは深く息を吐いた。
(危ないところでした)
もし顔を出していたら。
もし「話だけ」聞いていたら。
きっと、
「ついでにこれも」
「念のため、あれも」
と、仕事が積み上がっていた。
(……自覚しておりますの)
(私は、頼まれると断れませんもの)
だからこそ、距離が必要だ。
昼前、別の報告が入る。
「王都方面の貴族方から、
ご挨拶の申し出が数件……」
「すべて、辞退してくださいな」
迷いはない。
「理由は、同じです」
王都に近づく=仕事。
それが、
今の自分の中で、完全にイコールだった。
午後、庭を散歩する。
広い芝生。
整えられた木々。
(王城の庭とは、違いますわね)
ここでは、
誰かの視線を気にしなくていい。
立場を計算しなくていい。
ただ、歩く。
(……やっぱり)
(ここが、正解)
夕方、執事が再び報告に来た。
「王都からの使者は、引き下がりました」
「そう」
ティモテは、ほっと胸を撫で下ろす。
(寄らない)
(関わらない)
(戻らない)
この三つを守るだけで、
人生の難易度が、驚くほど下がる。
夜、部屋で一人、窓の外を見る。
遠くに、王都の方向がある。
だが、灯りは見えない。
「……私は」
静かに呟く。
「もう、王都の人間ではありませんわ」
それは、拒絶ではない。
逃避でもない。
ただ、
選択だった。
王都に近づけば、
また“有能な誰か”に戻ってしまう。
だから、距離を取る。
それが、
自分を守る一番の方法だった。
ティモテ・ユニリーバは、
静かな夜の中で、
その選択を、何度も確かめていた。
――そして。
この距離感が、
後に王都側を、じわじわと追い詰めていくことを、
彼女はまだ知らない。
翌朝。
ユニリーバ公爵邸は、驚くほど静かだった。
鳥のさえずり。
木々を揺らす風の音。
遠くで、庭師が作業する気配。
(……平和ですわね)
ティモテ・ユニリーバは、窓辺で紅茶を飲みながら、穏やかにそう思った。
王城にいた頃の朝とは、まるで違う。
目を覚ました瞬間から、
「今日の予定」
「処理すべき案件」
「判断事項」が頭を埋め尽くしていた。
だが今は、何もない。
(何もない、という贅沢)
カップを置いたところで、
控えめなノックがあった。
「ティモテ様」
執事が顔を出す。
「王都より、使者が……」
その一言で、
ティモテの表情が、すっと変わる。
(……来ましたわね)
だが、驚きはない。
むしろ、予想通りだった。
「内容は?」
「殿下よりの近況伺いと……
『少し、お顔を』とのことです」
ティモテは、間を置かずに答えた。
「お断りしてください」
即答だった。
執事が一瞬、目を瞬かせる。
「理由は……?」
ティモテは、紅茶を一口飲んでから、穏やかに言った。
「王都に近づくと、仕事が降ってきますもの」
それは冗談ではなく、
経験に基づいた事実だった。
「私はもう、
王太子妃候補でも、補佐役でもありません」
「それに……」
少しだけ、声を柔らかくする。
「“少しだけ”という言葉は、
一番危険ですわ」
執事は、苦笑いを浮かべた。
「かしこまりました。丁重にお断りいたします」
「ええ、お願いします」
執事が下がると、
ティモテは深く息を吐いた。
(危ないところでした)
もし顔を出していたら。
もし「話だけ」聞いていたら。
きっと、
「ついでにこれも」
「念のため、あれも」
と、仕事が積み上がっていた。
(……自覚しておりますの)
(私は、頼まれると断れませんもの)
だからこそ、距離が必要だ。
昼前、別の報告が入る。
「王都方面の貴族方から、
ご挨拶の申し出が数件……」
「すべて、辞退してくださいな」
迷いはない。
「理由は、同じです」
王都に近づく=仕事。
それが、
今の自分の中で、完全にイコールだった。
午後、庭を散歩する。
広い芝生。
整えられた木々。
(王城の庭とは、違いますわね)
ここでは、
誰かの視線を気にしなくていい。
立場を計算しなくていい。
ただ、歩く。
(……やっぱり)
(ここが、正解)
夕方、執事が再び報告に来た。
「王都からの使者は、引き下がりました」
「そう」
ティモテは、ほっと胸を撫で下ろす。
(寄らない)
(関わらない)
(戻らない)
この三つを守るだけで、
人生の難易度が、驚くほど下がる。
夜、部屋で一人、窓の外を見る。
遠くに、王都の方向がある。
だが、灯りは見えない。
「……私は」
静かに呟く。
「もう、王都の人間ではありませんわ」
それは、拒絶ではない。
逃避でもない。
ただ、
選択だった。
王都に近づけば、
また“有能な誰か”に戻ってしまう。
だから、距離を取る。
それが、
自分を守る一番の方法だった。
ティモテ・ユニリーバは、
静かな夜の中で、
その選択を、何度も確かめていた。
――そして。
この距離感が、
後に王都側を、じわじわと追い詰めていくことを、
彼女はまだ知らない。
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