『婚約破棄されたので、せっかくの異世界を観光と遊びで満喫します!』

鷹 綾

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第十四話 庭に、リゾートを作りました

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第十四話 庭に、リゾートを作りました

翌日。

ユニリーバ公爵邸の中庭は、朝から少しだけ騒がしかった。

「ティモテ様、こちらでよろしいでしょうか」

使用人が指し示した先には、
公爵邸の庭の一角――
もともと噴水と花壇があった、日当たりの良い場所がある。

「ええ、完璧ですわ」

ティモテ・ユニリーバは、満足そうに頷いた。

そこには今、
大きく澄んだ水を湛えた巨大なプールが広がっている。

(……使っていなかった施設、まだまだありますのね)

この庭には、
元から水路と浄化魔法が組み込まれていた。
本来は、来賓用の観賞設備。

だが――
誰も、使っていなかった。

「では、整えてくださいな」

その一言で、使用人たちが一斉に動き出す。

ビーチチェア。
日除けの天幕。
冷たい飲み物を冷やす魔法具。

次々と配置されていく光景を見ながら、
ティモテは、どこか可笑しそうに微笑んだ。

(……仕事では、こんな指示、出しませんでしたわね)

これは、効率でも成果でもない。
ただの、快適さの追求。

着替えを済ませ、
ゆっくりと水に足を入れる。

「……冷たくて、気持ちいい」

肩まで浸かると、
身体の力が、すっと抜けていく。

(王城の浴室とは、別物ですわ)

あそこは、
「短時間で整える場所」だった。

ここは違う。

時間を使うための場所。

プールサイドに上がり、
ビーチチェアにもたれる。

差し出されたのは、
果実をたっぷり使った冷たい飲み物。

「……最高ですわ」

思わず、声に出る。

太陽は穏やか。
風は心地いい。
誰も、呼びに来ない。

(……忙しすぎて)

(この屋敷の施設、ろくに使っていませんでしたのね)

その事実が、今さらながら可笑しい。

ここは、自分の家。
自分の庭。
自分の時間。

それを、
今から取り返す。

午後は、泳いでは休み、
休んでは水に入る。

何かを生み出す必要はない。
判断も、決断もない。

「……静か」

水面が、きらきらと光る。

(王都は、今頃どうしているのかしら)

一瞬だけ、そんな考えが浮かぶ。

だがすぐに、
その思考を水に沈めた。

(考えなくていいことは、考えません)

夕方、プールサイドで軽食を取る。

使用人たちが、
どこか嬉しそうに動いているのが目に入る。

(……そうですわね)

(屋敷が、ちゃんと“生きている”)

ただの管理対象ではない。
使われ、楽しまれている場所。

それだけで、空気が変わる。

日が傾き始めた頃、
ティモテは、チェアに身を委ねたまま空を見上げる。

「……自宅で、バカンス」

ぽつりと呟く。

(悪くありませんわね)

むしろ、
これ以上ない贅沢だった。

こうして。

ユニリーバ公爵邸は、
少しずつ姿を変えていく。

「執務のための屋敷」から、
「楽しむための屋敷」へ。

そしてティモテ・ユニリーバは、
確信していた。

――ここは、
私の人生を遊び倒すための拠点ですわ。

その決意とともに、
庭のプールは、静かに輝いていた。
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