『婚約破棄されたので、せっかくの異世界を観光と遊びで満喫します!』

鷹 綾

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第十五話 今から、この屋敷を使い倒します

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第十五話 今から、この屋敷を使い倒します

夕暮れの光が、ユニリーバ公爵邸の屋根を黄金色に染めていた。

庭の巨大プールから上がり、
ティモテ・ユニリーバは、バルコニーに設えられた椅子に腰を下ろす。
手には、冷たい果実水。
足元には、柔らかな絨毯。

(……贅沢ですわね)

だが、嫌な感じはしない。
むしろ――当然だと思えた。

ここは、自分の家。
公爵家の屋敷。
そして、これまでほとんど使われてこなかった場所。

(王都にいる間……)

思い返せば、この屋敷は
「帰って寝るだけの場所」だった。

滞在は短く、
休む間もなく王都へ戻る。

整えられた浴室も、
広々とした食堂も、
音楽を奏でるためのホールも。

すべて――
持っているだけだった。

「……もったいない話ですわ」

誰に言うでもなく、呟く。

そのとき、執事が静かに近づいてきた。

「ティモテ様、今後のご予定を……」

その言葉を聞いて、
ティモテは一瞬だけ考えた。

(……ご予定)

王都でなら、
その言葉は「仕事」を意味していた。

だが、今は違う。

「ええ、決めましたわ」

ティモテは、穏やかに微笑む。

「今から、この屋敷を使い倒します」

執事が、目を瞬かせる。

「……使い倒す、でございますか?」

「ええ」

はっきりと頷く。

「浴室も、食堂も、庭も、ホールも」
「全部ですわ」

一つずつ、指を折りながら告げる。

「忙しくて使えなかったものを、
今から全部、取り戻しますの」

執事は、数秒沈黙したあと、
ゆっくりと微笑んだ。

「……かしこまりました」

その返事に、
ティモテは胸の奥が温かくなるのを感じた。

(理解してくれる人が、いる)

それだけで、十分だった。

夜。

広い自室で、ティモテは窓辺に立つ。
庭の灯りが柔らかく揺れ、
屋敷全体が、静かに息づいている。

(……王都では)

(ここを“管理対象”としてしか見ていませんでした)

数字。
維持費。
人員配置。

だが今は――
生活の場として見ている。

「ここは……」

小さく、しかし確かに言葉にする。

「私の城ですわ」

守るためではなく、
使うための城。

誰かの期待に応えるためではなく、
自分が楽しむための場所。

「……いいですわね」

心から、そう思えた。

ベッドに腰掛け、
今日一日を思い返す。

馬で走り、
庭で泳ぎ、
何も生産していない一日。

だが、不思議と――
充実している。

(もう、戻りません)

(あの忙しさには)

静かに、そう決める。

この屋敷で、
この土地で、
この人生を。

「……さて」

灯りを落としながら、
ティモテは小さく笑った。

「明日は、何から使いましょうか」

答えは、決めない。

決めなくていい。
それが、今の自分の生き方だから。

こうして。

ユニリーバ公爵邸は、
再び“主のために”動き始めた。

そしてティモテ・ユニリーバは、
確信していた。

――ここからが、本当の贅沢。
――ここからが、本当の人生。

働かないことを前提にした、
遊び倒す日々が、
いよいよ本格的に始まるのだと。
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