『婚約破棄されたので、せっかくの異世界を観光と遊びで満喫します!』

鷹 綾

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第十七話 自宅食堂で、高級料理フルコース

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第十七話 自宅食堂で、高級料理フルコース

その日の夕方。

ユニリーバ公爵邸の食堂には、
久しぶりに明かりが灯っていた。

長いテーブル。
磨き上げられた銀食器。
壁に掛けられた装飾絵画。

本来なら、
来賓を迎えるための場所。

――つまり、
自分ひとりで使う想定は、されていない場所だった。

「……こちらも、ずいぶん久しぶりですわね」

ティモテ・ユニリーバは、
食堂の中央で立ち止まり、ゆっくりと見回す。

王都にいた頃は、
この部屋を使う時=社交。

気を張り、
言葉を選び、
笑顔を計算する場所だった。

だが今日は違う。

「今夜は、私だけです」

そう告げると、
料理長は一瞬だけ目を見張り、
すぐに深く一礼した。

「かしこまりました。
最高のものをご用意いたします」

それだけでいい。

誰かに見せる必要はない。
誰かをもてなす必要もない。

自分のための、フルコース。

最初に運ばれてきたのは、
季節の前菜。

繊細に盛り付けられた一皿を前に、
ティモテは思わず笑った。

(……王都では)

(味より、会話でしたわね)

一口、口に運ぶ。

「……美味しい」

それ以上の言葉は、いらなかった。

次はスープ。
続いて、魚料理。

料理が進むごとに、
香りと温度と食感が、
じんわりと心に染み込んでくる。

(……ちゃんと、味わっていますわ)

今までは、
「食べながら次を考える」
「話しながら飲み込む」
そんな時間ばかりだった。

だが今は――
食べること、そのものが目的。

メインの肉料理が運ばれてきた頃には、
自然と肩の力が抜けていた。

「……こんなに、ゆっくり」

ナイフを置き、
一度、深く息を吐く。

(時間が、ある)

それが、こんなにも贅沢だとは。

料理長が、控えめに声をかける。

「お口に、合いましたでしょうか」

「ええ」

ティモテは、心から頷いた。

「とても」

その一言で、
料理長の表情が、ぱっと明るくなる。

(……こういう反応)

(今まで、返したことがなかったかもしれませんわね)

最後に、デザート。

甘さ控えめの一皿を前に、
ティモテは椅子に深く腰掛けた。

食堂には、
食器の音すら、もう響いていない。

ただ、静か。

「……贅沢ですわね」

ぽつりと、呟く。

だが、罪悪感はない。

ここは、自分の屋敷。
自分の食堂。
自分の時間。

(使わない方が、おかしかったのですわ)

食後、
そのまま席を立たず、
しばらく余韻に浸る。

誰も、急かさない。
誰も、次を促さない。

(……満ち足りています)

それは、
仕事を終えた満足感とは違う。

自分を大切にした満足感だった。

立ち上がり、
食堂を出る前に、もう一度振り返る。

(ここも……)

(これから、何度も使いますわ)

そう思えることが、
何よりの変化だった。

こうして。

ユニリーバ公爵邸の食堂は、
再び“食事のための場所”として息を吹き返す。

誰かを迎えるためではなく、
主が、きちんと食べるための場所として。

そしてティモテ・ユニリーバは、
確信していた。

――遊ぶとは、
贅沢を誇示することではない。

自分の時間と空間を、
自分のために使うことなのだと。

静かな夜の中で、
彼女はその答えを、
ゆっくりと噛みしめていた。
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