17 / 40
第十七話 自宅食堂で、高級料理フルコース
しおりを挟む
第十七話 自宅食堂で、高級料理フルコース
その日の夕方。
ユニリーバ公爵邸の食堂には、
久しぶりに明かりが灯っていた。
長いテーブル。
磨き上げられた銀食器。
壁に掛けられた装飾絵画。
本来なら、
来賓を迎えるための場所。
――つまり、
自分ひとりで使う想定は、されていない場所だった。
「……こちらも、ずいぶん久しぶりですわね」
ティモテ・ユニリーバは、
食堂の中央で立ち止まり、ゆっくりと見回す。
王都にいた頃は、
この部屋を使う時=社交。
気を張り、
言葉を選び、
笑顔を計算する場所だった。
だが今日は違う。
「今夜は、私だけです」
そう告げると、
料理長は一瞬だけ目を見張り、
すぐに深く一礼した。
「かしこまりました。
最高のものをご用意いたします」
それだけでいい。
誰かに見せる必要はない。
誰かをもてなす必要もない。
自分のための、フルコース。
最初に運ばれてきたのは、
季節の前菜。
繊細に盛り付けられた一皿を前に、
ティモテは思わず笑った。
(……王都では)
(味より、会話でしたわね)
一口、口に運ぶ。
「……美味しい」
それ以上の言葉は、いらなかった。
次はスープ。
続いて、魚料理。
料理が進むごとに、
香りと温度と食感が、
じんわりと心に染み込んでくる。
(……ちゃんと、味わっていますわ)
今までは、
「食べながら次を考える」
「話しながら飲み込む」
そんな時間ばかりだった。
だが今は――
食べること、そのものが目的。
メインの肉料理が運ばれてきた頃には、
自然と肩の力が抜けていた。
「……こんなに、ゆっくり」
ナイフを置き、
一度、深く息を吐く。
(時間が、ある)
それが、こんなにも贅沢だとは。
料理長が、控えめに声をかける。
「お口に、合いましたでしょうか」
「ええ」
ティモテは、心から頷いた。
「とても」
その一言で、
料理長の表情が、ぱっと明るくなる。
(……こういう反応)
(今まで、返したことがなかったかもしれませんわね)
最後に、デザート。
甘さ控えめの一皿を前に、
ティモテは椅子に深く腰掛けた。
食堂には、
食器の音すら、もう響いていない。
ただ、静か。
「……贅沢ですわね」
ぽつりと、呟く。
だが、罪悪感はない。
ここは、自分の屋敷。
自分の食堂。
自分の時間。
(使わない方が、おかしかったのですわ)
食後、
そのまま席を立たず、
しばらく余韻に浸る。
誰も、急かさない。
誰も、次を促さない。
(……満ち足りています)
それは、
仕事を終えた満足感とは違う。
自分を大切にした満足感だった。
立ち上がり、
食堂を出る前に、もう一度振り返る。
(ここも……)
(これから、何度も使いますわ)
そう思えることが、
何よりの変化だった。
こうして。
ユニリーバ公爵邸の食堂は、
再び“食事のための場所”として息を吹き返す。
誰かを迎えるためではなく、
主が、きちんと食べるための場所として。
そしてティモテ・ユニリーバは、
確信していた。
――遊ぶとは、
贅沢を誇示することではない。
自分の時間と空間を、
自分のために使うことなのだと。
静かな夜の中で、
彼女はその答えを、
ゆっくりと噛みしめていた。
その日の夕方。
ユニリーバ公爵邸の食堂には、
久しぶりに明かりが灯っていた。
長いテーブル。
磨き上げられた銀食器。
壁に掛けられた装飾絵画。
本来なら、
来賓を迎えるための場所。
――つまり、
自分ひとりで使う想定は、されていない場所だった。
「……こちらも、ずいぶん久しぶりですわね」
ティモテ・ユニリーバは、
食堂の中央で立ち止まり、ゆっくりと見回す。
王都にいた頃は、
この部屋を使う時=社交。
気を張り、
言葉を選び、
笑顔を計算する場所だった。
だが今日は違う。
「今夜は、私だけです」
そう告げると、
料理長は一瞬だけ目を見張り、
すぐに深く一礼した。
「かしこまりました。
最高のものをご用意いたします」
それだけでいい。
誰かに見せる必要はない。
誰かをもてなす必要もない。
自分のための、フルコース。
最初に運ばれてきたのは、
季節の前菜。
繊細に盛り付けられた一皿を前に、
ティモテは思わず笑った。
(……王都では)
(味より、会話でしたわね)
一口、口に運ぶ。
「……美味しい」
それ以上の言葉は、いらなかった。
次はスープ。
続いて、魚料理。
料理が進むごとに、
香りと温度と食感が、
じんわりと心に染み込んでくる。
(……ちゃんと、味わっていますわ)
今までは、
「食べながら次を考える」
「話しながら飲み込む」
そんな時間ばかりだった。
だが今は――
食べること、そのものが目的。
メインの肉料理が運ばれてきた頃には、
自然と肩の力が抜けていた。
「……こんなに、ゆっくり」
ナイフを置き、
一度、深く息を吐く。
(時間が、ある)
それが、こんなにも贅沢だとは。
料理長が、控えめに声をかける。
「お口に、合いましたでしょうか」
「ええ」
ティモテは、心から頷いた。
「とても」
その一言で、
料理長の表情が、ぱっと明るくなる。
(……こういう反応)
(今まで、返したことがなかったかもしれませんわね)
最後に、デザート。
甘さ控えめの一皿を前に、
ティモテは椅子に深く腰掛けた。
食堂には、
食器の音すら、もう響いていない。
ただ、静か。
「……贅沢ですわね」
ぽつりと、呟く。
だが、罪悪感はない。
ここは、自分の屋敷。
自分の食堂。
自分の時間。
(使わない方が、おかしかったのですわ)
食後、
そのまま席を立たず、
しばらく余韻に浸る。
誰も、急かさない。
誰も、次を促さない。
(……満ち足りています)
それは、
仕事を終えた満足感とは違う。
自分を大切にした満足感だった。
立ち上がり、
食堂を出る前に、もう一度振り返る。
(ここも……)
(これから、何度も使いますわ)
そう思えることが、
何よりの変化だった。
こうして。
ユニリーバ公爵邸の食堂は、
再び“食事のための場所”として息を吹き返す。
誰かを迎えるためではなく、
主が、きちんと食べるための場所として。
そしてティモテ・ユニリーバは、
確信していた。
――遊ぶとは、
贅沢を誇示することではない。
自分の時間と空間を、
自分のために使うことなのだと。
静かな夜の中で、
彼女はその答えを、
ゆっくりと噛みしめていた。
0
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完】お望み通り婚約解消してあげたわ
さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。
愛する女性と出会ったから、だと言う。
そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。
ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる