『婚約破棄されたので、せっかくの異世界を観光と遊びで満喫します!』

鷹 綾

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第二十四話 昼のブランコ、夜の独白(改訂)

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第二十四話 昼のブランコ、夜の独白

昼下がり。

ユニリーバ公爵邸の庭は、
やわらかな陽光に包まれていた。

木々の間を抜ける風が、
芝生を撫で、
葉擦れの音を立てる。

ティモテ・ユニリーバは、
庭の奥へと足を運び、
ふと立ち止まった。

「……あら?」

一本の大木。
そこから下がる、二本の丈夫な縄。
丁寧に磨かれた木の座板。

――ブランコ。

(……敷地内に、こんなものまで)

古い設計思想が、
ここにも残っている。

中世から近世にかけて、
貴族の女性たちが
優雅な遊びとして嗜んだもの。

ドレスを翻し、
空を舞う姿は、
社交の一部であり、
絵画の題材にもなった。

(……でも、今は)

(誰かに見せる必要も、
アピールする必要もありませんわね)

ティモテは、
そっとブランコに腰を下ろした。

軽く、地面を蹴る。

ふわり。

視界が上がり、
空が近づく。

「……っ」

思わず、息が漏れる。

もう一度、
少しだけ強く。

ドレスの裾が、
風をはらんで揺れる。

(……楽しい)

思っていた以上に。

「……ふふ」

声に出して、
小さく笑ってしまう。

かつての貴族女性たちは、
この姿を誰かに見せることで
価値を示したのだろう。

けれど――

「ブランコ、楽しいわ」

誰もいない庭で、
自然と口をついて出た言葉。

そして、
ふと思いつく。

「……子供たちにも、開放しましょう」

少し間を置いて、
口元を緩める。

「大人にも(笑)」

遠くで作業していた使用人が、
思わず顔を上げ、
驚いたようにこちらを見る。

だが、
ティモテは気にしない。

(楽しいものは、
独り占めする理由がありませんわ)

しばらく揺れた後、
ブランコを止め、立ち上がる。

胸の奥が、
すっと軽い。

午後は、
そのまま庭で過ごした。

木陰で本を読み、
気が向けば歩き、
疲れたら腰を下ろす。

誰にも急かされず、
誰の期待も背負わない時間。

そして――
夜。

ユニリーバ公爵邸は、
昼の穏やかさを残したまま、
静寂に包まれていた。

ティモテは、
自室のバルコニーに出て、
夜空を見上げる。

星が、
はっきりと輝いている。

(……昼も、夜も)

(ちゃんと、過ごしましたわね)

王都にいた頃、
夜は「終わらせる時間」だった。

書類を閉じ、
次の判断に備えるための時間。

だが今は違う。

「……もう、十分働いたわ」

昼のブランコの感覚が、
まだ身体に残っている。

風。
浮遊感。
自然にこぼれた笑い。

それらは、
仕事では得られなかったもの。

前世でも。
この世界でも。

期待に応え、
責任を背負い、
誰かの分まで生きてきた。

「……やり切りましたわ」

夜風が、
髪を揺らす。

「もう十分、働いた」

この言葉は、
逃げでも、諦めでもない。

ただの――
区切り。

ティモテ・ユニリーバは、
静かに息を吐き、
微笑んだ。

「……あとは」

「一生、遊び倒すだけですわね」

星空は、
何も答えない。

けれど、
答えはもう、出ている。

昼のブランコと、
夜の独白。

その両方が、
彼女に教えていた。

――ここからが、
本当の人生なのだと。
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