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第二十七話 苛立ちの正体
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第二十七話 苛立ちの正体
王都。
朝の鐘が鳴っても、
執務室の空気は重いままだった。
机の上に積み上がった書類は、
昨日よりも――確実に増えている。
「……どうして、こうなる」
アビュース・オブ・パワー王太子は、
苛立ちを隠そうともせず、
机に手をついた。
昨夜、
かなりの時間を使って処理したはずだ。
それなのに。
(減らない……)
いや、正確には。
(私が処理している)
それが、問題だった。
「殿下、
次はこちらを……」
側近が、
恐る恐る書類を差し出す。
アビュースは、
反射的にそれを受け取り――
そして、はたと気づく。
(……違う)
(本来、これは)
彼の視線が、
執務室の反対側へ向く。
そこには、
エリーゼ・レッケル伯爵令嬢。
彼女は、
丁寧に書類を整理し、
要点をまとめ、
誠実に仕事をしている。
だが。
「……殿下」
控えめな声。
「こちらの件ですが、
最終的な判断をお願いできますか?」
まただ。
アビュースは、
一瞬、言葉を失う。
(また、私か)
胸の奥で、
何かがぎしりと軋む。
(……いや)
(私が、そうさせた)
彼女に仕事を任せきれず、
判断を自分に集めてしまった。
だが、
ティモテ・ユニリーバの時は違った。
思い出す。
書類を前に、
一切の迷いなく判断を下す姿。
確認も、相談もなく、
当然のように処理していく背中。
(……あれは)
(優雅さが、なかったのか?)
一瞬、
自分の言葉が頭をよぎる。
――「仕事にしか興味がない」
胸の奥に、
小さな痛みが走る。
「殿下?」
エリーゼの声で、
我に返る。
「……ああ」
書類に目を通し、
指示を出す。
それで、また一件。
だが、
その繰り返しが、
確実に彼を追い詰めていた。
昼過ぎ。
側近の一人が、
慎重に口を開く。
「殿下……
このままでは、
決裁が追いつきません」
「分かっている」
苛立った声が、
思わず出る。
だが、
苛立ちの矛先は――
エリーゼではない。
(彼女は、悪くない)
問題は、
もっと根深い。
(……私が)
(楽を、していたのか)
ティモテがいた頃。
彼は、
「確認する側」でいるだけでよかった。
最終承認の印を押す。
それだけ。
実務も、
判断も、
ほとんどが彼女の手を経ていた。
それが、
当たり前になっていた。
「……くそ」
小さく、
吐き捨てる。
それは、
苛立ち。
だが同時に――
後悔の、芽でもあった。
エリーゼが、
不安そうにこちらを見る。
「殿下……
私、何か不手際が……?」
その言葉に、
アビュースは一瞬、言葉を詰まらせた。
「……いや」
否定する。
「君は、よくやっている」
それは、
嘘ではない。
だが。
(それでは、足りない)
その事実が、
彼を苛立たせていた。
夕方。
執務室を出る頃には、
頭が重く、
肩が凝り固まっていた。
(……なぜだ)
(私は、正しい選択をしたはずだ)
優雅で、
心に余裕のある婚約者。
それを選んだ。
なのに――
どうして、
こんなにも苛立つ。
答えは、
もう見え始めていた。
アビュース・オブ・パワー王太子は、
まだ認められずにいる。
――自分が、
どれほどの“負担”を
ティモテ・ユニリーバに
押しつけていたのかを。
王都。
朝の鐘が鳴っても、
執務室の空気は重いままだった。
机の上に積み上がった書類は、
昨日よりも――確実に増えている。
「……どうして、こうなる」
アビュース・オブ・パワー王太子は、
苛立ちを隠そうともせず、
机に手をついた。
昨夜、
かなりの時間を使って処理したはずだ。
それなのに。
(減らない……)
いや、正確には。
(私が処理している)
それが、問題だった。
「殿下、
次はこちらを……」
側近が、
恐る恐る書類を差し出す。
アビュースは、
反射的にそれを受け取り――
そして、はたと気づく。
(……違う)
(本来、これは)
彼の視線が、
執務室の反対側へ向く。
そこには、
エリーゼ・レッケル伯爵令嬢。
彼女は、
丁寧に書類を整理し、
要点をまとめ、
誠実に仕事をしている。
だが。
「……殿下」
控えめな声。
「こちらの件ですが、
最終的な判断をお願いできますか?」
まただ。
アビュースは、
一瞬、言葉を失う。
(また、私か)
胸の奥で、
何かがぎしりと軋む。
(……いや)
(私が、そうさせた)
彼女に仕事を任せきれず、
判断を自分に集めてしまった。
だが、
ティモテ・ユニリーバの時は違った。
思い出す。
書類を前に、
一切の迷いなく判断を下す姿。
確認も、相談もなく、
当然のように処理していく背中。
(……あれは)
(優雅さが、なかったのか?)
一瞬、
自分の言葉が頭をよぎる。
――「仕事にしか興味がない」
胸の奥に、
小さな痛みが走る。
「殿下?」
エリーゼの声で、
我に返る。
「……ああ」
書類に目を通し、
指示を出す。
それで、また一件。
だが、
その繰り返しが、
確実に彼を追い詰めていた。
昼過ぎ。
側近の一人が、
慎重に口を開く。
「殿下……
このままでは、
決裁が追いつきません」
「分かっている」
苛立った声が、
思わず出る。
だが、
苛立ちの矛先は――
エリーゼではない。
(彼女は、悪くない)
問題は、
もっと根深い。
(……私が)
(楽を、していたのか)
ティモテがいた頃。
彼は、
「確認する側」でいるだけでよかった。
最終承認の印を押す。
それだけ。
実務も、
判断も、
ほとんどが彼女の手を経ていた。
それが、
当たり前になっていた。
「……くそ」
小さく、
吐き捨てる。
それは、
苛立ち。
だが同時に――
後悔の、芽でもあった。
エリーゼが、
不安そうにこちらを見る。
「殿下……
私、何か不手際が……?」
その言葉に、
アビュースは一瞬、言葉を詰まらせた。
「……いや」
否定する。
「君は、よくやっている」
それは、
嘘ではない。
だが。
(それでは、足りない)
その事実が、
彼を苛立たせていた。
夕方。
執務室を出る頃には、
頭が重く、
肩が凝り固まっていた。
(……なぜだ)
(私は、正しい選択をしたはずだ)
優雅で、
心に余裕のある婚約者。
それを選んだ。
なのに――
どうして、
こんなにも苛立つ。
答えは、
もう見え始めていた。
アビュース・オブ・パワー王太子は、
まだ認められずにいる。
――自分が、
どれほどの“負担”を
ティモテ・ユニリーバに
押しつけていたのかを。
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