追放された悪役令嬢は最強魔法で復讐し、隣国王子に永遠に愛される

鷹 綾

文字の大きさ
7 / 30

第7話 荒廃の辺境と、最初の奇跡

しおりを挟む
第7話 荒廃の辺境と、最初の奇跡

ノルドフォール領地に到着したのは、王都を出発してからちょうど七日目の午後だった。

馬車が最後の丘を越えると、目の前に広がった景色に、エメロードは息を呑んだ。

荒野。

灰色の大地が果てしなく続き、枯れた草が風に揺れるだけ。遠くに小さな村の影が見えるが、煙突から煙は上がっていない。作物は育たず、木々は枯れ、道すらまともに整備されていない。

魔物の咆哮が、遠くから聞こえてくる。

監視騎士の一人が、馬車を止めながら言った。

「ここがノルドフォールだ。領主の屋敷は村の奥にある。……これより先は、俺たちの任務終了だ」

もう一人が、冷ややかに付け加える。

「悪役令嬢に相応しい場所だな。生き延びられるといいが」

エメロードは静かに馬車を降り、リアナと共に荷物を下ろした。

「ご苦労様でした。お二方とも、お気遣いありがとうございます」

騎士たちは一瞬戸惑ったが、すぐに馬を返して去っていった。

残されたのは、エメロードとリアナ、そして荒廃した領地だけ。

二人は、村に向かって歩き始めた。

村に近づくにつれ、惨状がはっきりわかる。

家々は朽ちかけ、屋根に穴が開いている。道端に座る領民たちは、痩せ細り、目は虚ろ。子供は泣き、老人は咳き込んでいる。

誰も、エメロードたちに気づかない。

気づいたとしても、歓迎する気力すらないようだった。

村の中心にある、かつての領主屋敷は──廃墟に近かった。

壁は崩れ、窓は割れ、門は半開きで傾いている。

エメロードは門を押し開け、中庭に入った。

雑草が生い茂り、噴水は干上がっている。

「ここが……私の新しい家ね」

リアナが、震える声で言った。

「お嬢様……本当に、ここで暮らすんですか?」

エメロードは微笑んだ。

「ええ。でも、すぐに変えてみせるわ」

まずは屋敷の掃除から始めた。

エメロードは闇魔法で埃と蜘蛛の巣を一掃し、治癒魔法で腐った木材を修復。召喚した小さな影の精霊たちに、重い家具を動かさせた。

リアナは目を丸くしながら、それでも懸命に手伝う。

夕方には、何とか一部屋が住める状態になった。

その夜、エメロードは屋敷の屋根に上り、周囲を見渡した。

村の灯りは、わずか数軒だけ。

領民たちは、飢えと病に苦しんでいる。

魔物の脅威に、怯えている。

「まずは、領民の信頼を得ないと」

エメロードは決意し、翌朝から行動を開始した。

村の広場に出て、声を張り上げた。

「皆さん、お集まりください! 新しい領主、エメロード・フォン・エルグランドです!」

最初は誰も来なかった。

しかし、好奇心からか、数人の老人がゆっくりと集まってきた。

続いて、子供たちが、母親たちが。

やがて、五十人ほどの領民が広場に集まった。

皆、痩せ細り、服はぼろぼろ。目は疑いと諦めに満ちている。

エメロードは静かに一礼した。

「皆さん、長い間苦しめてごめんなさい。これまでは、王都の私が領地を顧みなかったせいです」

領民たちがざわめく。

「でも、これからは違います。私は皆さんを救います。病気を癒し、魔物を退治し、この土地を豊かにします」

一人の老人が、嘲るように言った。

「そんなこと……今さら言われてもな。前の領主も、同じこと言って逃げたよ」

「魔法なんて、聖女様以外に使える奴なんかいねえ」

エメロードは微笑んだ。

「では、証明しましょう」

彼女は広場の中心に立ち、掌を開いた。

柔らかな緑の光が広がる──治癒魔法の大範囲発動。

光が領民たちを包み込む。

瞬間、咳き込んでいた老人の咳が止まり、熱を出していた子供の顔に血色が戻る。傷だらけの男たちの傷が癒え、疲れた体に力が満ちる。

領民たちが、驚愕の声を上げた。

「体が……軽い!」

「痛みが、なくなった……!」

「魔法だ、本物の魔法だ!」

エメロードはさらに続けた。

「次は、食料です」

彼女は地面に手を当て、闇魔法と治癒魔法を融合させた独自の呪文を唱える。

枯れた大地が、わずかに震えた。

すると、土の中から──新鮮な野菜が、次々と芽吹き始めた。

ジャガイモ、ニンジン、カボチャ。

一夜で収穫できるほどの、立派な作物。

領民たちが、呆然とそれを見つめる。

「こんなこと……ありえねえ」

「神様だ……領主様は神様だ!」

子供たちが駆け寄り、野菜を抱きしめる。

母親たちが、涙を流しながらエメロードに跪く。

「ありがとう……ありがとうございます!」

エメロードは優しく皆を起こした。

「まだ始まりよ。これから、もっと豊かにします。魔物も、私が退治するわ」

その言葉に、領民たちは初めて──希望の光を見た。

夕方、村は活気づいていた。

久しぶりに満腹になった領民たちが、笑顔で語り合う。

エメロードの噂が、瞬く間に広がる。

「新しい領主様は、最強の魔法使いだ」

「聖女様なんか目じゃない」

「俺たちの領地が、救われた……!」

屋敷に戻ったエメロードは、疲れ果てながらも満足げに微笑んだ。

リアナが、温かいスープを持ってきてくれた。

「お嬢様……すごいです。みんな、感謝してました」

「ありがとう、リアナ。でも、まだまだよ。この領地を、本当に豊かにするには時間がかかる」

その夜、エメロードは再び屋根に上った。

星空が、美しく輝いている。

(これが、私の第一歩)

(王都の皆さん……見てなさい。この辺境から、すべてを変えてみせる)

しかし、領地の改革はまだ始まったばかり。

魔物の脅威は、すぐそこまで迫っている。

村の外で、大きな咆哮が響いた。

エメロードの瞳が、鋭く輝いた。

「来るなら、来なさい」

彼女は静かに立ち上がり、闇のマントを纏った。

最強の魔導師として、最初の戦いが始まろうとしていた。

辺境での新しい生活。

それは、復讐への大きな一歩だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚
恋愛
王太子から婚約破棄された衝撃で階段から落ちた公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベール。 目覚めた彼女は、なんと前世の記憶——ブラック企業で働き詰めだったOL・佐伯ゆかりとしての人生を思い出してしまう。 無理して働いた末に過労死した前世の反省から、シャルは決意する。 「もう頑張らない。今度の人生は“好き”と“昼寝”だけで満たしますわ!」 貴族としての特権をフル活用し、ワイン造りやスイーツ作りなど“趣味”の延長でゆるゆる領地改革。 気づけば国王にも称賛され、周囲の評価はうなぎのぼり!? 一方、彼女を見下していた王太子と“真実の愛()”の令嬢は社交界で大炎上。 誰もざまぁされろなんて言ってないのに……勝手に転がり落ちていく元関係者たち。 本人はただ紅茶とスコーンを楽しんでいるだけなのに―― そんな“努力しない系”令嬢が、理想の白い結婚相手と出会い、 甘くてふわふわ、そしてちょっぴり痛快な自由ライフを満喫する ざまぁ(他力本願)×スローライフ×ちょっと恋愛な物語です♪

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

処理中です...