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第21話 帝国の影
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第21話 帝国の影
倉庫火災から三日。
町は、表向きの平穏を取り戻していた。
だが、その静けさは、どこか張りつめている。
フェリス・リンクスは、領主館の執務室で、帝都から届いた封書を見つめていた。
封蝋は、帝国直属監察局のもの。
(……ついに、来た)
皇帝が「帝国として動く」と言った、その続きだ。
---
正午。
領主館の応接室に、三名の来訪者が現れた。
黒を基調とした簡素な服装。
派手な徽章もない。
だが、その存在感だけで、彼らが“普通の役人”ではないことは明白だった。
「帝国監察局、特別調査官のセレインと申します」
先頭の女性が、静かに名乗る。
「こちらは、補佐官二名」
フェリスは、立ち上がって一礼した。
「フェリス・リンクスです。
本件、全面的に協力いたします」
セレインは、わずかに口元を緩めた。
「話が早い。助かります」
---
応接室の空気は、張りつめていた。
「倉庫放火は、単独犯ではありません」
セレインは、淡々と告げる。
「帝国全土で、同様の手口が確認されています」
フェリスは、眉をひそめた。
「……この地だけの問題ではない?」
「ええ」
補佐官が、地図を広げる。
「不正な仲介商人、人身売買、
帳簿操作、証拠焼却」
指が、いくつもの領地を示す。
「すべて、似た流れです」
フェリスは、静かに息を吸った。
「バロン男爵は……末端、ですね」
「その通り」
セレインは、頷いた。
「彼は、切り捨て要員にすぎません」
---
「……では、私の領地は」
フェリスが問いかける。
「“試された”と考えるべきでしょう」
その言葉は、率直だった。
「改革が本気かどうか。
どこまで踏み込むか」
フェリスは、少しだけ視線を伏せる。
「逃げなかったことで、
答えは出た、と?」
「はい」
セレインは、はっきりと言った。
「だから、我々が来ました」
---
しばしの沈黙。
フェリスは、顔を上げた。
「協力条件を、確認させてください」
監察官の眉が、わずかに動く。
「情報は、隠さないこと。
帝国の動きも、可能な限り共有すること」
フェリスは、静かに続ける。
「そして――」
一拍。
「この地の民を、
“囮”にしないこと」
空気が、さらに引き締まる。
セレインは、しばらくフェリスを見つめ、やがて頷いた。
「約束します」
その声に、偽りはなかった。
---
夕刻。
監察官たちは、領主館の一室を仮拠点として使い始めた。
領地は、表向きには通常運営を続ける。
だが、裏では――
徹底的な洗い出しが始まった。
「これで、引き返せませんね」
侍女が、静かに言う。
「はい」
フェリスは、迷わなかった。
「でも、最初から、そのつもりでした」
売られた過去。
奪われた人生。
それを“運が悪かった”で終わらせないために、
ここに立っている。
---
夜。
フェリスのもとに、短い私信が届いた。
> 監察局が入った以上、事は表沙汰になる。
君の名も、必ず挙がる。
だが、それでいい。
これは、正しい戦いだ。
署名――アーシュ・レーシャー。
フェリスは、静かに微笑んだ。
(……逃げ道は、もう要らない)
帝国の影が、動き出した。
フェリス・リンクスは、この日理解した。
自分が対峙しているのは、
一人の男爵でも、数人の商人でもない。
帝国に巣食う闇そのものなのだと。
そして――
その闇に、真正面から光を当てる役を、
自分は引き受けたのだと。
倉庫火災から三日。
町は、表向きの平穏を取り戻していた。
だが、その静けさは、どこか張りつめている。
フェリス・リンクスは、領主館の執務室で、帝都から届いた封書を見つめていた。
封蝋は、帝国直属監察局のもの。
(……ついに、来た)
皇帝が「帝国として動く」と言った、その続きだ。
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正午。
領主館の応接室に、三名の来訪者が現れた。
黒を基調とした簡素な服装。
派手な徽章もない。
だが、その存在感だけで、彼らが“普通の役人”ではないことは明白だった。
「帝国監察局、特別調査官のセレインと申します」
先頭の女性が、静かに名乗る。
「こちらは、補佐官二名」
フェリスは、立ち上がって一礼した。
「フェリス・リンクスです。
本件、全面的に協力いたします」
セレインは、わずかに口元を緩めた。
「話が早い。助かります」
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応接室の空気は、張りつめていた。
「倉庫放火は、単独犯ではありません」
セレインは、淡々と告げる。
「帝国全土で、同様の手口が確認されています」
フェリスは、眉をひそめた。
「……この地だけの問題ではない?」
「ええ」
補佐官が、地図を広げる。
「不正な仲介商人、人身売買、
帳簿操作、証拠焼却」
指が、いくつもの領地を示す。
「すべて、似た流れです」
フェリスは、静かに息を吸った。
「バロン男爵は……末端、ですね」
「その通り」
セレインは、頷いた。
「彼は、切り捨て要員にすぎません」
---
「……では、私の領地は」
フェリスが問いかける。
「“試された”と考えるべきでしょう」
その言葉は、率直だった。
「改革が本気かどうか。
どこまで踏み込むか」
フェリスは、少しだけ視線を伏せる。
「逃げなかったことで、
答えは出た、と?」
「はい」
セレインは、はっきりと言った。
「だから、我々が来ました」
---
しばしの沈黙。
フェリスは、顔を上げた。
「協力条件を、確認させてください」
監察官の眉が、わずかに動く。
「情報は、隠さないこと。
帝国の動きも、可能な限り共有すること」
フェリスは、静かに続ける。
「そして――」
一拍。
「この地の民を、
“囮”にしないこと」
空気が、さらに引き締まる。
セレインは、しばらくフェリスを見つめ、やがて頷いた。
「約束します」
その声に、偽りはなかった。
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夕刻。
監察官たちは、領主館の一室を仮拠点として使い始めた。
領地は、表向きには通常運営を続ける。
だが、裏では――
徹底的な洗い出しが始まった。
「これで、引き返せませんね」
侍女が、静かに言う。
「はい」
フェリスは、迷わなかった。
「でも、最初から、そのつもりでした」
売られた過去。
奪われた人生。
それを“運が悪かった”で終わらせないために、
ここに立っている。
---
夜。
フェリスのもとに、短い私信が届いた。
> 監察局が入った以上、事は表沙汰になる。
君の名も、必ず挙がる。
だが、それでいい。
これは、正しい戦いだ。
署名――アーシュ・レーシャー。
フェリスは、静かに微笑んだ。
(……逃げ道は、もう要らない)
帝国の影が、動き出した。
フェリス・リンクスは、この日理解した。
自分が対峙しているのは、
一人の男爵でも、数人の商人でもない。
帝国に巣食う闇そのものなのだと。
そして――
その闇に、真正面から光を当てる役を、
自分は引き受けたのだと。
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