ルヴェを侮辱した義妹は宮廷を追放されました ― 王妃クシェは最高の名誉職です ―

鷹 綾

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第31話 廃太子の敗北

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第31話 廃太子の敗北

アルヴェール宮殿の朝は早い。

太陽が昇る頃には、すでに宮廷は動き始めている。

侍従。

女官。

役人。

貴族。

宮殿は一つの都市のようだった。

そしてその朝、ある噂が広がっていた。

「王子殿下が」

「王妃陛下に婚約を止められたそうよ」

「モンフォール嬢との話らしいわ」

「やはり……」

宮廷の噂は早い。

そして正確だ。

すぐに結論が広がる。

――王妃が止めた。

つまり。

宮廷が拒否した。

それは王子の完全な敗北を意味していた。

王子の棟。

ルイ=フィリップは一人で座っていた。

机の上には何もない。

以前は違った。

王太子の時代。

書類。

報告書。

外交文書。

軍の計画。

常に机は山のような仕事で埋まっていた。

だが今は違う。

何もない。

王太子ではないからだ。

王子は静かに呟く。

「……静かだな」

宮廷は忙しい。

だが彼には関係ない。

王太子ではない。

政治にも参加できない。

ただの王子。

その現実が、少しずつ染み込んでいた。

彼は立ち上がり、窓へ歩く。

庭園が見える。

遠くに王妃の棟。

さらに奥に王の棟。

王子は庭園を見ながら思う。

――全部。

自分の選択だった。

最初の婚約。

アデル。

モンフォール公爵家の嫡女。

公爵家。

王家の強力な同盟。

理想的な結婚だった。

だが彼はそれを壊した。

カミーユ。

甘い言葉。

軽い気まぐれ。

退屈な宮廷への反抗。

その結果。

ルヴェ拒否。

王妃侮辱。

宮廷の怒り。

そして――

廃太子。

王子は苦笑する。

「本当に愚かだったな」

あの時。

もし。

儀礼を理解していれば。

ルヴェを尊重していれば。

カミーユを止めていれば。

今も王太子だったかもしれない。

だが宮廷では。

もし、は意味を持たない。

一度の失敗。

それで運命が決まる。

王子は窓から視線を移す。

遠くの回廊。

そこを一人の令嬢が歩いていた。

アデルだった。

モンフォール公爵家の嫡女。

王妃クシェ。

彼女は女官と静かに話している。

穏やかな表情。

落ち着いた歩き方。

宮廷の空気に完全に溶け込んでいる。

王子は小さく笑う。

「あれが」

「本物の宮廷人か」

アデルは何も奪っていない。

ただ。

宮廷の秩序を守っただけ。

王妃を敬い。

儀礼を理解し。

慎重に振る舞った。

その結果。

王妃の信頼。

宮廷の信頼。

そして今。

宮廷で最も安定した地位にいる。

クシェ。

王妃の最側近。

王子はゆっくり息を吐いた。

「勝負にならないな」

それが結論だった。

宮廷は力で動かない。

血筋だけでもない。

秩序。

信頼。

儀礼。

それを理解した者が残る。

理解しなかった者は――

消える。

王子は椅子に戻る。

そして静かに言った。

「負けだ」

それは誰に聞かせる言葉でもない。

ただ。

自分への宣告だった。

かつて王太子だった男の。

完全な敗北だった。
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