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第14話 王国からの帰還要請──もちろん、お断りですわ
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◆第14話 王国からの帰還要請──もちろん、お断りですわ
王城の会議室には重苦しい空気が漂っていた。
ウィッシュはやつれた顔で机に突っ伏し、
側近たちは山積みの苦情文書を睨みつけている。
「フェルメリア様が抜けてから……
税収が半分以下に……」
「魔物の警戒網も解除され、周辺村が大混乱……」
「さらにアイラ様の“外交文書事件”で隣国が激怒を……」
文官たちは震えだした。
「……正直に申し上げます。
フェルメリア様がいなければ、この国は持ちません」
ウィッシュは苦悶の声を上げた。
「そんなことは分かっている!!
だが……どうすれば……」
国王が深いため息を吐く。
「もう……頼るしかあるまい。
フェルメリア嬢に“帰還要請”を送るしかない」
側近たちがざわつく。
「しかし……王太子殿下自ら破棄した婚約相手に?」
「恥をさらすにも程があります……」
「だが、この国が滅ぶよりはマシだ……!」
国王は震える手で筆を取った。
『フェルメリア・エヴァントラ嬢へ
王国はあなたの力を必要としている。
どうか帰還していただけないだろうか。
王家より正式にお願い申し上げる。』
書き終えた国王は机の上に倒れ込んだ。
「……情けない話だ。かつての婚約者にすがるとは……」
ウィッシュは唇を噛む。
「フェルメリア……どうか戻ってきてくれ……
俺は……まだ……お前を……」
**
手紙は密使によって、隣国ヴァルメルへと届けられた。
---
◆ 隣国ヴァルメル エヴァントラ邸
エヴァントラはソファで優雅に読書中。
アイオンがトレイに紅茶を乗せて入ってきた。
「フェルメリア様、王国からの書状です」
「まぁ、ついに来ましたのね。
“帰ってきてください”というお願いでしょう?」
アイオンは小さく笑った。
「……その通りです」
エヴァントラは手紙を開き、一読してから──
紅茶を口に含み、上品に微笑んだ。
「お断りですわ」
アイオン「やはり、そうなさいますか」
「当然ですわ。
わたくしは王国を捨てたつもりはありませんけど──
王国が先にわたくしを捨てましたのよ?」
淡々と、けれどどこか寂しげに。
「いまさら戻ってほしいと?
ご冗談ですわね。
戻ったら、また便利に使われるだけですもの」
彼女はサラリと返答を書いた。
『王国へ
ご依頼の件ですが、帰還の意思はございません。
どうぞ健やかにお過ごしくださいませ。
フェルメリア・エヴァントラ』
最後に小さな追伸を付け足した。
『追伸:
国を治められないなら、わたくしを悪者にするのは
やめてくださいませ。迷惑ですので。』
アイオンは吹き出しそうになるのを我慢した。
「……痛烈ですね」
「本音を書いただけですわ」
エヴァントラは涼しい顔で封を閉じた。
アイオンの胸が、ほんの少しだけ高鳴る。
(強く、美しく、優しい……
どうしてこの人は、あんな男を選んでしまったのか)
エヴァントラが首を傾げた。
「どうかしました?」
「いえ。……あなたは素晴らしい女性だと思っただけです」
エヴァントラはきょとんとしたが──
頬がわずかに赤く染まった。
---
◆ 王国・会議室
返事が届いた瞬間、室内は凍りついた。
国王「………………嘘だろ」
ウィッシュ「いやああああああああああああああ!!!」
アイラ「フェルメリア様って、そんなに必要なの?」
文官「必要に決まってるだろおおおお!!」
側近「むしろ国王より必要だ!」
ウィッシュは叫んだ。
「フェルメリアァァァッ!!
俺を……俺を見捨てないでくれぇぇぇ!!」
しかし返答文の最後の一行が、
彼の心を粉々に粉砕した。
『どうぞ健やかにお過ごしくださいませ』
ウィッシュ「優しい言葉で突き放されたぁぁぁぁ!!!!」
王国は絶望に沈み、
エヴァントラは隣国で幸せへ歩み出す。
その差は──もう埋まらない。
王城の会議室には重苦しい空気が漂っていた。
ウィッシュはやつれた顔で机に突っ伏し、
側近たちは山積みの苦情文書を睨みつけている。
「フェルメリア様が抜けてから……
税収が半分以下に……」
「魔物の警戒網も解除され、周辺村が大混乱……」
「さらにアイラ様の“外交文書事件”で隣国が激怒を……」
文官たちは震えだした。
「……正直に申し上げます。
フェルメリア様がいなければ、この国は持ちません」
ウィッシュは苦悶の声を上げた。
「そんなことは分かっている!!
だが……どうすれば……」
国王が深いため息を吐く。
「もう……頼るしかあるまい。
フェルメリア嬢に“帰還要請”を送るしかない」
側近たちがざわつく。
「しかし……王太子殿下自ら破棄した婚約相手に?」
「恥をさらすにも程があります……」
「だが、この国が滅ぶよりはマシだ……!」
国王は震える手で筆を取った。
『フェルメリア・エヴァントラ嬢へ
王国はあなたの力を必要としている。
どうか帰還していただけないだろうか。
王家より正式にお願い申し上げる。』
書き終えた国王は机の上に倒れ込んだ。
「……情けない話だ。かつての婚約者にすがるとは……」
ウィッシュは唇を噛む。
「フェルメリア……どうか戻ってきてくれ……
俺は……まだ……お前を……」
**
手紙は密使によって、隣国ヴァルメルへと届けられた。
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◆ 隣国ヴァルメル エヴァントラ邸
エヴァントラはソファで優雅に読書中。
アイオンがトレイに紅茶を乗せて入ってきた。
「フェルメリア様、王国からの書状です」
「まぁ、ついに来ましたのね。
“帰ってきてください”というお願いでしょう?」
アイオンは小さく笑った。
「……その通りです」
エヴァントラは手紙を開き、一読してから──
紅茶を口に含み、上品に微笑んだ。
「お断りですわ」
アイオン「やはり、そうなさいますか」
「当然ですわ。
わたくしは王国を捨てたつもりはありませんけど──
王国が先にわたくしを捨てましたのよ?」
淡々と、けれどどこか寂しげに。
「いまさら戻ってほしいと?
ご冗談ですわね。
戻ったら、また便利に使われるだけですもの」
彼女はサラリと返答を書いた。
『王国へ
ご依頼の件ですが、帰還の意思はございません。
どうぞ健やかにお過ごしくださいませ。
フェルメリア・エヴァントラ』
最後に小さな追伸を付け足した。
『追伸:
国を治められないなら、わたくしを悪者にするのは
やめてくださいませ。迷惑ですので。』
アイオンは吹き出しそうになるのを我慢した。
「……痛烈ですね」
「本音を書いただけですわ」
エヴァントラは涼しい顔で封を閉じた。
アイオンの胸が、ほんの少しだけ高鳴る。
(強く、美しく、優しい……
どうしてこの人は、あんな男を選んでしまったのか)
エヴァントラが首を傾げた。
「どうかしました?」
「いえ。……あなたは素晴らしい女性だと思っただけです」
エヴァントラはきょとんとしたが──
頬がわずかに赤く染まった。
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◆ 王国・会議室
返事が届いた瞬間、室内は凍りついた。
国王「………………嘘だろ」
ウィッシュ「いやああああああああああああああ!!!」
アイラ「フェルメリア様って、そんなに必要なの?」
文官「必要に決まってるだろおおおお!!」
側近「むしろ国王より必要だ!」
ウィッシュは叫んだ。
「フェルメリアァァァッ!!
俺を……俺を見捨てないでくれぇぇぇ!!」
しかし返答文の最後の一行が、
彼の心を粉々に粉砕した。
『どうぞ健やかにお過ごしくださいませ』
ウィッシュ「優しい言葉で突き放されたぁぁぁぁ!!!!」
王国は絶望に沈み、
エヴァントラは隣国で幸せへ歩み出す。
その差は──もう埋まらない。
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