『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第15話 暴走アイラ、国をさらに混乱させる

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◆第15話 暴走アイラ、国をさらに混乱させる

王国の政務室は、もはや戦場だった。

文官たちが抱える書類の山は雪崩のように崩れ、
怒号が飛び交い、全員が疲弊しきっている。

「アイラ様が……またやらかしました!!」

その一言で室内が沈黙した。

「今度は何だ……」
ウィッシュは片手で顔を覆う。

文官が震えながら報告書を差し出した。

「こ、今朝……アイラ様が……
“外交書簡をもっと可愛くした方がいいと思いまして!♡”と……
勝手に隣国へ、 ピンク色の ♡乱舞の恋文風外交文書 を送付されました……!」

 

「「「ぎゃああああああああああああ!!!」」」

文官も兵士も側近も一斉に叫んだ。

「そ、それで……その内容が……」
別の文官が青ざめながら続ける。

『ねぇ王子様♡ 仲良くしましょ♡
 エヴァントラっていう昔の婚約者?
 あんな子より、わたしの方が王太子妃に相応しいと思うの♡』

「「「なんで国際文書でマウント取ってるんだあああ!!!」」」

ウィッシュは机に額をぶつけた。

「アイラ……お前は何をしているんだ……
 外交とは……殴り合いではないんだぞ……!」

文官が泣きそうな声で続ける。

「隣国ヴァルメルから正式抗議が来ています!!
 “侮辱として受け取る”とのことです!」

ウィッシュ「終わった……」

国王室の扉が勢いよく開いた。

国王が怒りで顔を真っ赤にしている。

「ウィッシュ! アイラはどういう教育を受けているのだ!?」

ウィッシュ「そ、それは……」

「外交文書を私物化するとは何事だ!!
 隣国に謝罪文を出し、外交官も総入れ替えだ!」

国王の怒号が政務室に響く。

文官たち((廃太子だ……これはもう……))

視線が刺さるように王太子へ寄せられる。

ウィッシュは震えながら立ち上がった。

「ちがう……違う……悪いのはアイラであって……
 俺では……俺では……!」

文官たちは沈痛な面持ちで言った。

「アイラ様を庇い、
 政治を歪め続けたのは……殿下ご自身です」

ウィッシュの喉がひゅっと鳴る。

(……俺が……?
 俺がこの国を……壊してしまった……?)

動揺が露骨に伝わる。

国王が目を閉じ、深く深くため息を吐いた。

「ウィッシュ。
 わたしは……“廃太子”という言葉を、
 今日ほど現実に感じたことはない……」

その瞬間、王太子の膝が崩れ落ちた。

「や、やめてくれ……!
 フェルメリア……フェルメリアがいれば……
 俺は……俺は……!」

しかし返ってくるのは沈黙だけ。

王宮に響くのは、ウィッシュの震える声だけだった。


---

◆一方その頃、隣国ヴァルメル

エヴァントラはバルコニーで日向ぼっこしながら、
アイオンが淹れた紅茶を味わっていた。

「今日も平和ですわね、アイオン様」

「……あなたの平和は、王国の絶望と比例している気がします」

「わたくし、ただ静かに暮らしたいだけなのですけれどね」

エヴァントラは本をめくりながら、にっこり笑う。

アイオンは胸が高鳴った。

(……この人を苦しめた男が、
 自滅していくのは当然だと思う)

そして自然に口に出た。

「フェルメリア様は、こちらにいてくださればいい。
 もう二度と……あんな場所へ戻る必要はありません」

エヴァントラは驚いたように彼を見た。

「……そう言ってくださるのですか?」

「はい。あなたは──自由であるべき方だ」

エヴァントラの頬に、かすかに赤みが差す。

(アイオン様って……こういうときだけ妙に格好いいんですのよね……)

王国が崩れていく一方で、
隣国では静かに、二人の距離が近づいていくのだった。


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