『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第21話 “白い結婚生活”、予定外に甘くなる

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◆第21話 “白い結婚生活”、予定外に甘くなる

廃太子騒動が起きた王国とは対照的に──
隣国ヴァルメルの朝は穏やかで静かだった。

エヴァントラは新しい住まいで、
ゆっくりと紅茶を淹れながら窓辺で本を開く。

「……平和ですわね」

心からの言葉だった。

そんな彼女の前に、
控えめなノックが響く。

「フェルメリア様、朝食の準備ができています」

声の主はアイオン。
“白い結婚”のパートナーであり、宰相補佐でもある。

エヴァントラは本を閉じ、微笑んだ。

「ご一緒しますわ、アイオン様」


---

◆共同食卓──妙に距離が近い

ダイニングに入ると、
すでにアイオンが食事を整えていた。

「今朝は少し軽めに。
 あなたの好みを、侍女から聞きました」

「まあ……気遣いが細やかですのね」

白い結婚のはずなのに、
夫婦のような空気が流れる。

アイオンは穏やかに微笑んで椅子を勧めた。

「お体のためにも、栄養はきちんと取ってください。
 あなたは、つい仕事に没頭しすぎる」

「……そんなにわたくしのことをご存じでしたの?」

「あなたを見ていれば分かります」

言葉の優しさに、
エヴァントラの胸がすこしだけ揺れた。

(今まで……こんなふうに
 “わたくし自身”を気遣われたことがあったかしら)

ウィッシュの言葉はいつも表面的で、
必要なのは“エヴァントラ”ではなく“有能な駒”だった。

けれど──

アイオンは違った。


---

◆庭園での読書タイム、なぜか隣に座る人が

朝食後、エヴァントラは庭園で本を読んでいた。

風が心地よく、
花々の香りが鼻をくすぐる。

「平和、ですわね……」

すると──
自然と隣に座る影があった。

「ここは日差しが強い。
 日除けを置きます」

アイオンがパラソルを広げ、
彼女の頭上に影をつくった。

「……ありがとうございます」

「あなたが快適に過ごせるように、と思いまして」

(どうして……自然に距離が近いのかしら)

エヴァントラは胸の奥がかすかに熱くなるのを感じた。

するとアイオンは、
彼女の髪に一枚の小さな花弁が付いているのに気づき──

そっと、触れずに取った。

「……ついていました」

「っ……」

触れていないのに、
触れられたようにドキリとする。

(これは“白い結婚”……のはず、ですわよね?)

彼女が自分にそう言い聞かせていると、
アイオンは柔らかく笑った。

「あなたがここで穏やかに過ごせるなら、それでいい。
 もし望むなら……もっと環境を整えます」

「十分すぎるくらいですわ」

「あなたがそう言うなら、よかった」

二人の会話は穏やかで、どこか甘く。

少しの沈黙でさえ心地よかった。


---

◆しかし、王国は地獄のようだった

そのころ王国は──完全に大混乱だった。

廃太子決定の報が広がると、
国民の間で歓声が上がり、

「次の王太子は誰だ!?」
「アイラが出禁!? よくやった!!」
「エヴァントラ様を返して!!」

などと騒動は止まらない。

王宮は火消しに追われ、
国王は頭を抱えるしかなかった。

対照的に隣国ヴァルメルでは──

エヴァントラが椅子にもたれ、
穏やかな午後の日差しの中で微笑んでいた。

アイオンがそっと差し出すのは、
温かいミルクティー。

「少し冷えてきました。どうぞ」

「ありがとうございます、アイオン様」

二人の指が触れそうで触れない距離。

少しだけ照れたように目をそらすエヴァントラ。

そして、そっと彼女を見守るアイオン。

“白い結婚”はまだ始まったばかり。
しかしその甘さは、すでに白くはなかった。


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