『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第22話 初めての執務手伝い──二人の相性、最高すぎる

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◆第22話 初めての執務手伝い──二人の相性、最高すぎる

ヴァルメル宰相補佐室。
書類の山が積まれた広い執務室に、
静かに足音が響いた。

扉が開き、現れたのはエヴァントラ。

「アイオン様。
 本日は書庫の整理を終えましたので……
 何かお手伝いできることはありますか?」

アイオンは驚いたように顔を上げた。

「え……手伝ってくださるのですか?」

「もちろんですわ。
 “白い結婚”とはいえ、共同生活なのですから」

(……今その言葉を言われると心臓に悪い……)

アイオンはこっそり胸に手を置く。


---

◆業務開始5分──有能さが異常

エヴァントラは一つの書類を手に取った。

「この予算案、問題がありますわね。
 魔術防衛部隊の増員に対して、補給線強化の記載がありません」

アイオン「…………え?」

「このままでは、物資不足で二ヶ月も保ちません。
 こちらに追記しておきますね」

流れるような筆致。

アイオンは思わず固まった。

(……早い……正確……美しい……)

さらにエヴァントラは次の書類を開く。

「外交文書、ここは曖昧表現が多すぎます。
 “友好を望む”ではなく、“相互利益の交渉余地あり”と
 明文化したほうが誤解がありませんわ」

アイオン「………………(言葉が出ない)」

(フェルメリア様……恐ろしく有能……
 いや、知っていましたが……ここまでとは……)


---

◆業務開始10分──完全に息が合う

アイオン「それでは、この資料を──」

エヴァントラ「ああ、こちらの統計資料ですね。
 すでにまとめてありますわ」

アイオン「は?」

エヴァントラ「あなたが必要とされると思い、
 今朝のうちに整理しておきました」

アイオンは一瞬、言葉を失った。

(俺より先回りして……俺より綺麗にまとめている……!?)

二人は自然と並んで作業を始めた。

書類を受け渡す動作もスムーズで、
会話もいちいち噛み合う。

アイオン「この案件は来月に──」

エヴァントラ「後回しにすると揉めます。今処理しましょう」

アイオン「……はい」

エヴァントラ「こちらの予算は今年度に回せますわ」

アイオン「……その通りです」

エヴァントラ「外交書簡は私が草案を出します」

アイオン「よろしくお願いします……」

周囲の部下たちは震えた。

(((なにこの夫婦……仕事の相性良すぎでは???)))

((“白い結婚”って聞いてたけど……絶対嘘だよね?))
((アイオン様、顔がデレてる……))
((エヴァントラ様は無自覚で殺傷力高すぎる……))

執務室はざわつき始めていた。


---

◆お昼前──アイオン、恋に落ちる音がした

ひと段落つくと、アイオンはそっと息をついた。

「……フェルメリア様。
 本当に助かっています。
 あなたが来てくださってから、仕事が三倍の速度で進む……」

「お役に立てて光栄ですわ」

エヴァントラは柔らかく微笑む。

その笑顔を見て──
アイオンの心臓が一瞬止まった。

(……きれいだ……)

気づけば、彼は言葉を零していた。

「あなたは……本当に素晴らしい方だ。
 どうしてあの国は、あなたを手放したのか……」

エヴァントラは少しだけ寂しげに笑う。

「“可愛げがない”そうですから」

「……それは、見る目がなかっただけです」

アイオンは真剣な顔で言った。

その熱に少しだけ戸惑いながら、
エヴァントラは目線をそらす。

「……過去のことですわ」

「いいえ。
 わたしにとっては現在のことです」

言い切ったアイオンに、
エヴァントラの胸がかすかに波打った。


---

◆そして午後──部下たちが確信する

部下A「二人、息ピッタリすぎません……?」
部下B「もう夫婦では……?」
部下C「いや、むしろ“今さら白い結婚の方がおかしい”……」

皆の結論はひとつだった。

(((この二人、絶対相思相愛になる未来しか見えない)))

執務室は完全に恋愛ドラマの撮影現場と化した。


---

◆エヴァントラの帰り際──

仕事を終えたエヴァントラが扉へ向かうと、
アイオンがそっと言った。

「……フェルメリア様」

「はい?」

「また、明日も……隣にいてくれますか?」

エヴァントラの胸が大きく跳ねた。

(その言葉は……まるで本当の──)

しかし彼女は微笑むだけにとどめた。

「喜んで、お手伝いしますわ」

扉が閉じる。

アイオンは胸を押さえた。

(……これはもう……好きでは……?)

気づき始めた恋心。

そして──
二人の距離は今日、決定的に近づいた。


---

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