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第12話 噂は、遅れて届く
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第12話 噂は、遅れて届く
最初に変化に気づいたのは、商人たちだった。
「……最近、アンクレイブ公爵領、
やけに取引が楽になってないか?」
王都の商業ギルドで、
中年の商人が首を傾げる。
「書類の往復が減った」 「通関が早い」 「価格が安定してる」
それは、偶然ではなかった。
「聞いたか?
公爵領に“切れ者の奥様”がいるらしい」
「奥様?」
「噂だと、
書類一枚で物流を動かしたとか……」
尾ひれは、自然と付く。
---
数日後。
王都・王宮の一角で、
一通の報告書が机に置かれていた。
「……アンクレイブ公爵領、
交易量増加?」
アルトゥーラ・レグナードは、
眉をひそめる。
「急すぎないか」
侍従が、慎重に答えた。
「はい。
理由として挙げられているのは……
“内部調整の円滑化”と……」
「内部調整?」
「はい。
特定の人物による統括が、
機能しているとのことです」
アルトゥーラは、報告書を睨みつけた。
「……誰だ」
沈黙。
やがて、侍従が低い声で告げる。
「……エミーラ・ローゼンベルク様、だと」
その名が、
部屋の空気を凍らせた。
「……は?」
アルトゥーラは、
一瞬、言葉を失った。
(あり得ない)
彼女は、
婚約破棄された令嬢だ。
王都を去り、
静かに暮らしているはず――
「さらに……」
侍従は、続ける。
「アンクレイブ公爵は、
彼女に相当な裁量を与えているとの噂です」
アルトゥーラは、
無意識に拳を握った。
(……なぜ、だ)
“完璧すぎて、可愛げがない”
そう切り捨てた女が。
なぜ、他国で――
「殿下?」
「……調べろ」
低い声。
「どこまで関わっているのか、
徹底的にだ」
胸の奥に、
小さな焦りが生まれていた。
---
一方、アンクレイブ公爵邸。
エミーラは、
いつも通り執務棟にいた。
「この件、
急ぎではありませんわ」
落ち着いた声。
「先に、
現場の負担を減らしましょう」
役人たちは、
自然と頷いていた。
命令ではない。
提案だ。
だが、その提案が、
最も合理的だと、
誰もが理解している。
「……奥様」
若い役人が、
おずおずと口を開く。
「最近、
“外”で噂になっているそうです」
「噂?」
「はい。
公爵領が、
やけに回っている、と」
エミーラは、
一瞬だけ考え、
そして、肩をすくめた。
「良い噂なら、
放っておきましょう」
彼女にとって重要なのは、
評価ではない。
“機能しているかどうか”だけだ。
---
その夜。
食堂で、
ゼファーが静かに口を開いた。
「王都から、
探りが来始めている」
「……そうですか」
エミーラは、
紅茶を置いた。
「厄介でしょうか?」
「いや」
ゼファーは、即答する。
「想定内だ」
そして、彼女を見た。
「君の名が、
再び王都で語られている」
エミーラは、
ほんの一瞬だけ、
視線を落とす。
「……過去は、
戻ってきません」
「戻す気も、ない」
ゼファーの声は、
はっきりしていた。
「ここは、
君の居場所だ」
その言葉に、
エミーラは驚き――
そして、静かに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
それは、
契約書にはない言葉。
だが、
確かな“選択”の表明だった。
噂は、遅れて届く。
だが、
一度届けば、
引き返すことはない。
---
最初に変化に気づいたのは、商人たちだった。
「……最近、アンクレイブ公爵領、
やけに取引が楽になってないか?」
王都の商業ギルドで、
中年の商人が首を傾げる。
「書類の往復が減った」 「通関が早い」 「価格が安定してる」
それは、偶然ではなかった。
「聞いたか?
公爵領に“切れ者の奥様”がいるらしい」
「奥様?」
「噂だと、
書類一枚で物流を動かしたとか……」
尾ひれは、自然と付く。
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数日後。
王都・王宮の一角で、
一通の報告書が机に置かれていた。
「……アンクレイブ公爵領、
交易量増加?」
アルトゥーラ・レグナードは、
眉をひそめる。
「急すぎないか」
侍従が、慎重に答えた。
「はい。
理由として挙げられているのは……
“内部調整の円滑化”と……」
「内部調整?」
「はい。
特定の人物による統括が、
機能しているとのことです」
アルトゥーラは、報告書を睨みつけた。
「……誰だ」
沈黙。
やがて、侍従が低い声で告げる。
「……エミーラ・ローゼンベルク様、だと」
その名が、
部屋の空気を凍らせた。
「……は?」
アルトゥーラは、
一瞬、言葉を失った。
(あり得ない)
彼女は、
婚約破棄された令嬢だ。
王都を去り、
静かに暮らしているはず――
「さらに……」
侍従は、続ける。
「アンクレイブ公爵は、
彼女に相当な裁量を与えているとの噂です」
アルトゥーラは、
無意識に拳を握った。
(……なぜ、だ)
“完璧すぎて、可愛げがない”
そう切り捨てた女が。
なぜ、他国で――
「殿下?」
「……調べろ」
低い声。
「どこまで関わっているのか、
徹底的にだ」
胸の奥に、
小さな焦りが生まれていた。
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一方、アンクレイブ公爵邸。
エミーラは、
いつも通り執務棟にいた。
「この件、
急ぎではありませんわ」
落ち着いた声。
「先に、
現場の負担を減らしましょう」
役人たちは、
自然と頷いていた。
命令ではない。
提案だ。
だが、その提案が、
最も合理的だと、
誰もが理解している。
「……奥様」
若い役人が、
おずおずと口を開く。
「最近、
“外”で噂になっているそうです」
「噂?」
「はい。
公爵領が、
やけに回っている、と」
エミーラは、
一瞬だけ考え、
そして、肩をすくめた。
「良い噂なら、
放っておきましょう」
彼女にとって重要なのは、
評価ではない。
“機能しているかどうか”だけだ。
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その夜。
食堂で、
ゼファーが静かに口を開いた。
「王都から、
探りが来始めている」
「……そうですか」
エミーラは、
紅茶を置いた。
「厄介でしょうか?」
「いや」
ゼファーは、即答する。
「想定内だ」
そして、彼女を見た。
「君の名が、
再び王都で語られている」
エミーラは、
ほんの一瞬だけ、
視線を落とす。
「……過去は、
戻ってきません」
「戻す気も、ない」
ゼファーの声は、
はっきりしていた。
「ここは、
君の居場所だ」
その言葉に、
エミーラは驚き――
そして、静かに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
それは、
契約書にはない言葉。
だが、
確かな“選択”の表明だった。
噂は、遅れて届く。
だが、
一度届けば、
引き返すことはない。
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