『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾

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第16話 公式の場

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第16話 公式の場

 王宮・大広間。

 久しぶりに開かれた公式の集いは、
 祝宴という名目とは裏腹に、
 どこか落ち着かない空気を纏っていた。

「王太子殿下、ご入場です」

 高らかな声とともに、
 アルトゥーラ・レグナードが姿を現す。

 その腕に、
 寄り添うように立つ少女――
 アウルス・セナート。

 鮮やかな色のドレス。
 少し緊張した表情。
 だが、視線はどこか期待に満ちている。

「……あの方が」 「王太子妃候補……?」

 囁きが、
 さざ波のように広がる。

 アルトゥーラは、
 その反応に満足したように、
 わずかに胸を張った。

(これでいい)

 王太子には、
 隣に立つ存在が必要だ。

 完璧である必要はない。
 ――そう、思い込もうとしていた。


---

 祝宴が始まり、
 貴族たちが次々と挨拶に訪れる。

「殿下、この度は……」 「お幸せそうで、何よりでございます」

 形式的な言葉。

 その中で、
 ある老侯爵が、
 にこやかにアウルスへ声をかけた。

「王太子妃候補殿。
 最近の交易の停滞について、
 どのようにお考えですかな?」

 ――空気が、一瞬止まる。

「え……?」

 アウルスは、
 目を瞬かせた。

「こ、交易、ですか……?」

 助けを求めるように、
 アルトゥーラを見る。

「殿下が、
 きっと良いお考えを……」

 老侯爵は、
 困ったように笑った。

「いえ、
 お考えがあれば、
 ぜひ伺いたく」

 沈黙。

 アルトゥーラは、
 慌てて口を挟む。

「……現在、
 調整中だ」

 曖昧な言葉。

 それ以上、
 話は続かなかった。

 だが。

 その“間”が、
 何より雄弁だった。


---

 別の場所では、
 若い貴族たちが、
 小声で囁き合っていた。

「……以前なら」 「ええ。
 あの質問、
 エミーラ様が即座に……」

「数字と理由を添えて」 「しかも、
 相手の顔を立てながら」

 誰も、
 名前を大きく口にはしない。

 だが、
 比較は止められなかった。


---

 祝宴の終盤。

 アルトゥーラは、
 疲れた表情を隠しきれずにいた。

「殿下……?」

 アウルスが、
 不安そうに声をかける。

「私、
 何か失礼を……?」

「……いや」

 短く答える。

 だが、
 胸の奥には、
 はっきりとした違和感があった。

(……足りない)

 誰かが悪いのではない。

 ただ――
 場を“回す力”が、
 決定的に足りない。

 それを、
 誰よりも彼自身が、
 痛感していた。


---

 一方、アンクレイブ公爵領。

 同じ夜。

 エミーラは、
 静かな会議室で、
 商人たちと向き合っていた。

「条件はこちらで問題ありません」

 落ち着いた声。

「互いに、
 長く続く形にしましょう」

 商人たちは、
 深く頭を下げる。

「ありがとうございます、奥様」 「いえ」

 エミーラは、
 首を横に振った。

「役割を果たしているだけですわ」

 会議が終わり、
 ゼファーが静かに言った。

「……王都では、
 今夜、公式の場があったそうだ」

「そうですか」

 それだけの反応。

「……行かなくて、
 後悔はないか」

 エミーラは、
 少し考え――
 穏やかに答えた。

「ありません」

 迷いは、なかった。

「私は、
 ここで必要とされています」

 ゼファーは、
 短く頷く。

「それでいい」

 そして、
 付け加えるように言った。

「君がいない場で、
 君の価値が語られるなら、
 それで十分だ」

 エミーラは、
 小さく微笑んだ。


---

 王宮の大広間では、
 祝宴が終わり、
 人々が去っていく。

 残されたアルトゥーラは、
 一人、立ち尽くしていた。

(……公式の場とは)

 隣に立つ者の“力”が、
 如実に表れる場所。

 それを、
 今日、思い知らされた。

 公式の場は、
 誰が“ふさわしいか”を、
 静かに、しかし残酷に映し出す。


---
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