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第17話 噂の行き先
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第17話 噂の行き先
噂というものは、
否定されなければ、やがて“前提”になる。
王宮の公式の場から数日後。
王都の空気は、明らかに変わっていた。
「……正直に言えば」 「ええ、私も同じです」
貴族の応接間で、
小さな集まりが開かれていた。
「最近の混乱、
誰がいなくなってから始まったか――」
誰も、
名を口にしない。
だが。
「“あの方”がいらした頃は、
ここまで滞らなかった」
その言葉に、
全員が黙って頷いた。
---
商業ギルドでも、
同じ流れが生まれていた。
「取引条件を見直すなら、
アンクレイブ公爵領を基準にした方がいい」 「向こうは、
話が早い」
「……奥様が、
全体を見ているらしいな」
“奥様”。
もはや、
名を伏せる必要すらなくなっていた。
「エミーラ・ローゼンベルクだ」
誰かが、
はっきり言った。
「元・王太子の婚約者だろう?」 「そうだ。
そして今は、
アンクレイブ公爵夫人」
その肩書きが、
自然に受け入れられている。
---
王宮では。
アルトゥーラ・レグナードが、
報告書を握りしめていた。
「……“エミーラなら”?」
声が、低くなる。
「“エミーラ様がいらした頃は”?」
机の上には、
複数の意見書。
そこに並ぶ言葉は、
遠慮のないものだった。
「……比較されているのか」
否定できない。
否定する材料が、
どこにもなかった。
---
その夜。
アウルス・セナートは、
不安げに口を開いた。
「殿下……
最近、皆さんが……」
「……気にするな」
だが、
その声に力はない。
「私、
ちゃんとできていないんでしょうか」
アウルスは、
初めて弱音を見せた。
アルトゥーラは、
答えに詰まる。
――“できていない”。
だがそれは、
責める言葉ではない。
(……役割が違う)
その事実を、
ようやく理解し始めていた。
「……無理をする必要はない」
そう言うしかなかった。
だがそれは、
慰めであって、
解決ではなかった。
---
一方、アンクレイブ公爵領。
エミーラは、
いつも通り執務をこなしていた。
「……王都の商人、
増えていますね」
「はい」
役人が、
資料を差し出す。
「“こちらの方が話が通る”と」
エミーラは、
小さく息を吐いた。
「……困ったものですわね」
「お困り、ですか?」
「いいえ」
彼女は、首を横に振る。
「ただ、
選ばれた理由を、
忘れたくないだけです」
評価のためではない。
復讐のためでもない。
“機能するから”。
それだけだった。
---
その様子を、
少し離れた場所で見ていたゼファーは、
静かに確信していた。
(……噂は、
もう後戻りしない)
王都は、
比較を始めた。
そして一度始まった比較は、
必ず“結論”へ向かう。
それが、
誰にとって都合が悪くとも。
噂の行き先は、
もはや一つしか残されていなかった。
-
噂というものは、
否定されなければ、やがて“前提”になる。
王宮の公式の場から数日後。
王都の空気は、明らかに変わっていた。
「……正直に言えば」 「ええ、私も同じです」
貴族の応接間で、
小さな集まりが開かれていた。
「最近の混乱、
誰がいなくなってから始まったか――」
誰も、
名を口にしない。
だが。
「“あの方”がいらした頃は、
ここまで滞らなかった」
その言葉に、
全員が黙って頷いた。
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商業ギルドでも、
同じ流れが生まれていた。
「取引条件を見直すなら、
アンクレイブ公爵領を基準にした方がいい」 「向こうは、
話が早い」
「……奥様が、
全体を見ているらしいな」
“奥様”。
もはや、
名を伏せる必要すらなくなっていた。
「エミーラ・ローゼンベルクだ」
誰かが、
はっきり言った。
「元・王太子の婚約者だろう?」 「そうだ。
そして今は、
アンクレイブ公爵夫人」
その肩書きが、
自然に受け入れられている。
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王宮では。
アルトゥーラ・レグナードが、
報告書を握りしめていた。
「……“エミーラなら”?」
声が、低くなる。
「“エミーラ様がいらした頃は”?」
机の上には、
複数の意見書。
そこに並ぶ言葉は、
遠慮のないものだった。
「……比較されているのか」
否定できない。
否定する材料が、
どこにもなかった。
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その夜。
アウルス・セナートは、
不安げに口を開いた。
「殿下……
最近、皆さんが……」
「……気にするな」
だが、
その声に力はない。
「私、
ちゃんとできていないんでしょうか」
アウルスは、
初めて弱音を見せた。
アルトゥーラは、
答えに詰まる。
――“できていない”。
だがそれは、
責める言葉ではない。
(……役割が違う)
その事実を、
ようやく理解し始めていた。
「……無理をする必要はない」
そう言うしかなかった。
だがそれは、
慰めであって、
解決ではなかった。
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一方、アンクレイブ公爵領。
エミーラは、
いつも通り執務をこなしていた。
「……王都の商人、
増えていますね」
「はい」
役人が、
資料を差し出す。
「“こちらの方が話が通る”と」
エミーラは、
小さく息を吐いた。
「……困ったものですわね」
「お困り、ですか?」
「いいえ」
彼女は、首を横に振る。
「ただ、
選ばれた理由を、
忘れたくないだけです」
評価のためではない。
復讐のためでもない。
“機能するから”。
それだけだった。
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その様子を、
少し離れた場所で見ていたゼファーは、
静かに確信していた。
(……噂は、
もう後戻りしない)
王都は、
比較を始めた。
そして一度始まった比較は、
必ず“結論”へ向かう。
それが、
誰にとって都合が悪くとも。
噂の行き先は、
もはや一つしか残されていなかった。
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