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第18話 正式要請
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第18話 正式要請
その使者は、
前回とは明らかに違う態度で現れた。
アンクレイブ公爵邸、正門前。
「王都より、
正式な外交要請を携えて参りました」
深く、深く――
腰を折る。
その姿に、
門番ですら一瞬、言葉を失った。
---
応接室。
今度の使者は、
王家の紋章が刻まれた文書を
両手で差し出していた。
「これは……」
エミーラは、
文書に目を通し、静かに息を吐く。
「“王国行政補佐官としての一時帰還要請”」
――名目は、あくまで“協力”。
だが。
(本音は、
戻ってきて立て直せ、ですわね)
使者は、
慎重に言葉を重ねる。
「現在、王都では――
調整役を務められる方が不足しておりまして」
「不足、ですか」
エミーラは、
淡々と聞き返す。
「以前は、
不足していなかったはずですが?」
使者の額に、
じわりと汗が浮かぶ。
「……エミーラ様のご助力があれば」
ついに、
名を口にした。
---
その時。
「答えは、
私が出そう」
低く、よく通る声。
ゼファー・アンクレイブが、
席を立った。
「エミーラ・ローゼンベルクは、
現在、
アンクレイブ公爵領の運営責任者の一人だ」
“夫人”ではない。
“装飾”でもない。
――責任者。
「彼女を、
王都の都合で動かすつもりはない」
使者は、
思わず言葉を失う。
「し、しかし……
王国全体のために――」
「ならば」
ゼファーは、
一歩前に出た。
「王国は、
何を差し出す?」
空気が、凍る。
「人材か。
権限か。
それとも――」
視線が、
鋭く突き刺さる。
「責任か」
使者は、
完全に押し黙った。
---
沈黙を破ったのは、
エミーラだった。
「……条件次第、ですわ」
使者の顔が、
ぱっと明るくなる。
「ただし」
その声は、
柔らかいが、揺るがない。
「私は、
王都へ“戻る”ことはありません」
「え……?」
「必要なら、
こちらから助言を行います」
紙にペンを走らせ、
さらさらと条件を書き出す。
「決裁権は王都側が持つ。
責任も、王都が負う」
顔を上げる。
「私は、
“立て直す人”ではなく、
“整える助言者”です」
使者は、
ごくりと喉を鳴らした。
「……それでも、
お願いするしかありません」
頭が、再び下がる。
それはもう、
交渉ではなかった。
---
数日後。
王都では、
正式な発表がなされた。
「アンクレイブ公爵領と王国は、
新たな協力体制を結ぶ」
そこに、
王太子の名はなかった。
代わりに。
「調整・助言役として、
エミーラ・ローゼンベルク殿が関与する」
ざわめき。
そして、
誰もが理解する。
――立場は、完全に逆転した。
---
その夜。
公爵邸の書斎で。
「……大事に、
してしまいましたか」
エミーラが、
小さく呟く。
「いや」
ゼファーは、
即座に否定した。
「正当な評価だ」
そして、
はっきりと告げる。
「公の場で、
君を選んだ」
それは、
政治的宣言であり、
同時に――
個人的な意思表示だった。
エミーラは、
一瞬だけ驚き、
そして、穏やかに微笑む。
「……ありがとうございます」
その笑みは、
もう“仮初め”のものではなかった。
王都は、
頭を下げた。
そして、
彼女の居場所は、
完全に定まった。
---
その使者は、
前回とは明らかに違う態度で現れた。
アンクレイブ公爵邸、正門前。
「王都より、
正式な外交要請を携えて参りました」
深く、深く――
腰を折る。
その姿に、
門番ですら一瞬、言葉を失った。
---
応接室。
今度の使者は、
王家の紋章が刻まれた文書を
両手で差し出していた。
「これは……」
エミーラは、
文書に目を通し、静かに息を吐く。
「“王国行政補佐官としての一時帰還要請”」
――名目は、あくまで“協力”。
だが。
(本音は、
戻ってきて立て直せ、ですわね)
使者は、
慎重に言葉を重ねる。
「現在、王都では――
調整役を務められる方が不足しておりまして」
「不足、ですか」
エミーラは、
淡々と聞き返す。
「以前は、
不足していなかったはずですが?」
使者の額に、
じわりと汗が浮かぶ。
「……エミーラ様のご助力があれば」
ついに、
名を口にした。
---
その時。
「答えは、
私が出そう」
低く、よく通る声。
ゼファー・アンクレイブが、
席を立った。
「エミーラ・ローゼンベルクは、
現在、
アンクレイブ公爵領の運営責任者の一人だ」
“夫人”ではない。
“装飾”でもない。
――責任者。
「彼女を、
王都の都合で動かすつもりはない」
使者は、
思わず言葉を失う。
「し、しかし……
王国全体のために――」
「ならば」
ゼファーは、
一歩前に出た。
「王国は、
何を差し出す?」
空気が、凍る。
「人材か。
権限か。
それとも――」
視線が、
鋭く突き刺さる。
「責任か」
使者は、
完全に押し黙った。
---
沈黙を破ったのは、
エミーラだった。
「……条件次第、ですわ」
使者の顔が、
ぱっと明るくなる。
「ただし」
その声は、
柔らかいが、揺るがない。
「私は、
王都へ“戻る”ことはありません」
「え……?」
「必要なら、
こちらから助言を行います」
紙にペンを走らせ、
さらさらと条件を書き出す。
「決裁権は王都側が持つ。
責任も、王都が負う」
顔を上げる。
「私は、
“立て直す人”ではなく、
“整える助言者”です」
使者は、
ごくりと喉を鳴らした。
「……それでも、
お願いするしかありません」
頭が、再び下がる。
それはもう、
交渉ではなかった。
---
数日後。
王都では、
正式な発表がなされた。
「アンクレイブ公爵領と王国は、
新たな協力体制を結ぶ」
そこに、
王太子の名はなかった。
代わりに。
「調整・助言役として、
エミーラ・ローゼンベルク殿が関与する」
ざわめき。
そして、
誰もが理解する。
――立場は、完全に逆転した。
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その夜。
公爵邸の書斎で。
「……大事に、
してしまいましたか」
エミーラが、
小さく呟く。
「いや」
ゼファーは、
即座に否定した。
「正当な評価だ」
そして、
はっきりと告げる。
「公の場で、
君を選んだ」
それは、
政治的宣言であり、
同時に――
個人的な意思表示だった。
エミーラは、
一瞬だけ驚き、
そして、穏やかに微笑む。
「……ありがとうございます」
その笑みは、
もう“仮初め”のものではなかった。
王都は、
頭を下げた。
そして、
彼女の居場所は、
完全に定まった。
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