白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第十四話 揺らぐ均衡

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第十四話 揺らぐ均衡

 塩税契約から三か月。

 王都の資金の流れは、明らかに変わっていた。

 商会は修道院の預託証書を優先的に扱い、銀行は修道院保証付きの手形を高評価とする。王家は塩税の一部を教育基金へ回し、地方の識字学校が静かに増え始めていた。

 だが、均衡は常に揺らぐ。

 その兆候は、南方から届いた一通の報告書だった。

「銀の流出が増加しています」

 会計係が緊張した声で告げる。

「輸入が急増。特に武器と穀物」

 私は帳簿に目を落とす。

 王家の軍備拡張。

 そして不作の兆し。

「王家融資の第二期返済は来月です」

 院長が静かに言う。

「返済に支障が出る可能性が」

 私は即座に計算を始める。

 塩税収は安定している。だが軍備費の増加が続けば、王家は再び資金不足に陥る。

 そして王家が不履行となれば——

 修道院の信用にも影が落ちる。

 ◇

 その頃、王宮では。

 王太子が机を叩いていた。

「穀物価格が高騰している!」

 財務官は冷静だ。

「干ばつの影響です。備蓄を放出するしかありません」

「軍備を止めるわけにはいかぬ」

「ならば追加融資を」

 沈黙。

 王太子は苦々しく言う。

「また修道院か」

 ◇

 修道院に王家の使者が到着したのは、予想通りだった。

 応接室で財務官が低く告げる。

「第二期返済を一部延期したい」

「理由は」

「穀物価格の異常高騰」

 私は書類を読みながら答える。

「延期は可能です」

 財務官が顔を上げる。

「条件を」

「塩税の一割を二割へ」

 院長が一瞬だけ息を呑む。

 財務官は険しい顔をする。

「それは増税に等しい」

「教育基金の拡充は、長期的税収増に寄与します」

 私は淡々と続ける。

「穀物不足は一時的。識字率向上は恒久的です」

 財務官は黙り込む。

 王家は選択を迫られている。

 短期の苦痛か、長期の衰退か。

「……二割で合意する」

 静かな決断。

 王家は再び、修道院の秩序の中に組み込まれた。

 ◇

 王都の市場。

 穀物価格は高騰し、民衆の不満が高まりつつある。

 だが修道院は別の手を打っていた。

 教育基金の一部を「穀物安定基金」に転用。

 商会と契約し、価格上昇分の一部を補填。

 市民は修道院印の穀物券を受け取り、価格は抑えられた。

 「白き銀行は民を守る」

 噂は広がる。

 ◇

 ヴァルケン家。

 レオナルトは報告書を読む。

「修道院が穀物市場に介入した」

 彼は唇を噛む。

「王家も、商会も、民も……」

 すべてが修道院を軸に回っている。

 ◇

 夜、塔の上。

 風が強い。

 私は王都の灯りを見つめる。

 均衡は常に揺らぐ。

 だが揺らぎを吸収するのが信用。

 院長が隣に立つ。

「王家はさらに依存します」

「依存ではありません」

 私は静かに言う。

「契約です」

 白い誓約は、未完成のまま終わった。

 だが白い契約は、完成し続けている。

 鐘が鳴る。

 祈りの時間。

 私は目を閉じる。

 揺らぐ均衡の中で、白は揺れない。

 それが、秩序という力だった。
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