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第十五話 破門の影
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第十五話 破門の影
穀物安定基金の発動から二週間。
王都の暴動は起きなかった。
塩と穀物の価格は抑えられ、修道院印の穀物券は市場で銀貨と同等に扱われるようになった。
それは安心の証。
だが同時に——嫉妬の種でもあった。
修道院の門前に、見慣れぬ使者が現れた。
赤い外套、金糸の刺繍。
大司教庁の紋章。
院長がわずかに眉を動かす。
「来ましたか」
応接室に通されたのは、若い助祭だった。
「聖マリアンヌ修道院の経済活動について、調査が入ります」
「理由は」
「教会財政への影響と、権限逸脱の疑い」
私は静かに椅子に腰を下ろす。
想定内だ。
資金が集まりすぎれば、上位組織は必ず動く。
「逸脱とは」
「銀行類似行為、通貨類似証書の発行、王家との独自契約」
院長が口を開く。
「すべて教会法の範囲内です」
「それを確認します」
助祭の視線が私に向く。
「あなたが中心人物と聞いています」
「帳簿の管理を担当しております」
「破門の可能性も視野に入る案件です」
室内の空気が一瞬で冷える。
破門。
それは修道院の信用の死。
だが私は動じない。
「調査を歓迎いたします」
助祭が一瞬だけ驚く。
「歓迎?」
「すべての契約は記録されています」
私は帳簿を差し出す。
「王家契約、商会契約、融資契約。教会法に基づき署名済み」
助祭はページをめくる。
沈黙。
数字は嘘をつかない。
◇
王宮。
財務官が報告を受ける。
「大司教庁が動きました」
「修道院を牽制するためか」
「信用の集中を恐れています」
王太子は苦笑する。
「教会もまた、信用を恐れるか」
◇
ヴァルケン家。
レオナルトはその報を聞き、思わず立ち上がる。
「破門だと」
彼は理解する。
修道院が倒れれば、森林共同管理も無効化される。
自らの再建計画も崩れる。
彼は初めて、祈る。
——あの白き銀行が崩れぬように。
◇
修道院の会計室。
助祭と監査官が帳簿を精査している。
「預託証書は現金裏付けあり」
「担保契約は合法」
「塩税は王家署名済み」
次第に監査官たちの表情が変わる。
疑念から、驚嘆へ。
助祭が問いかける。
「なぜここまで厳格に」
「未完成の契約を見たからです」
私は静かに答える。
「履行されぬ約束は、無効になる」
助祭は黙る。
その言葉の意味を、理解しているのだろう。
◇
三日後。
大司教庁より正式な通知が届く。
——調査の結果、聖マリアンヌ修道院の活動は教会法の範囲内であり、違反は認められない。
破門の影は消えた。
だが同時に、修道院の信用はさらに強固になった。
「教会公認」
その印は絶対だ。
◇
夜、塔の上。
私は静かに風を受ける。
院長が隣に立つ。
「危うかった」
「ええ」
「怖くなかったのですか」
「ございました」
私は素直に言う。
「ですが、恐れは記録で消せます」
白い誓約は終わった。
だが白い契約は、破門の影すら跳ね返す。
鐘が鳴る。
祈りの時間。
私は目を閉じる。
信用は、守られた。
そして白は、さらに強くなる。
穀物安定基金の発動から二週間。
王都の暴動は起きなかった。
塩と穀物の価格は抑えられ、修道院印の穀物券は市場で銀貨と同等に扱われるようになった。
それは安心の証。
だが同時に——嫉妬の種でもあった。
修道院の門前に、見慣れぬ使者が現れた。
赤い外套、金糸の刺繍。
大司教庁の紋章。
院長がわずかに眉を動かす。
「来ましたか」
応接室に通されたのは、若い助祭だった。
「聖マリアンヌ修道院の経済活動について、調査が入ります」
「理由は」
「教会財政への影響と、権限逸脱の疑い」
私は静かに椅子に腰を下ろす。
想定内だ。
資金が集まりすぎれば、上位組織は必ず動く。
「逸脱とは」
「銀行類似行為、通貨類似証書の発行、王家との独自契約」
院長が口を開く。
「すべて教会法の範囲内です」
「それを確認します」
助祭の視線が私に向く。
「あなたが中心人物と聞いています」
「帳簿の管理を担当しております」
「破門の可能性も視野に入る案件です」
室内の空気が一瞬で冷える。
破門。
それは修道院の信用の死。
だが私は動じない。
「調査を歓迎いたします」
助祭が一瞬だけ驚く。
「歓迎?」
「すべての契約は記録されています」
私は帳簿を差し出す。
「王家契約、商会契約、融資契約。教会法に基づき署名済み」
助祭はページをめくる。
沈黙。
数字は嘘をつかない。
◇
王宮。
財務官が報告を受ける。
「大司教庁が動きました」
「修道院を牽制するためか」
「信用の集中を恐れています」
王太子は苦笑する。
「教会もまた、信用を恐れるか」
◇
ヴァルケン家。
レオナルトはその報を聞き、思わず立ち上がる。
「破門だと」
彼は理解する。
修道院が倒れれば、森林共同管理も無効化される。
自らの再建計画も崩れる。
彼は初めて、祈る。
——あの白き銀行が崩れぬように。
◇
修道院の会計室。
助祭と監査官が帳簿を精査している。
「預託証書は現金裏付けあり」
「担保契約は合法」
「塩税は王家署名済み」
次第に監査官たちの表情が変わる。
疑念から、驚嘆へ。
助祭が問いかける。
「なぜここまで厳格に」
「未完成の契約を見たからです」
私は静かに答える。
「履行されぬ約束は、無効になる」
助祭は黙る。
その言葉の意味を、理解しているのだろう。
◇
三日後。
大司教庁より正式な通知が届く。
——調査の結果、聖マリアンヌ修道院の活動は教会法の範囲内であり、違反は認められない。
破門の影は消えた。
だが同時に、修道院の信用はさらに強固になった。
「教会公認」
その印は絶対だ。
◇
夜、塔の上。
私は静かに風を受ける。
院長が隣に立つ。
「危うかった」
「ええ」
「怖くなかったのですか」
「ございました」
私は素直に言う。
「ですが、恐れは記録で消せます」
白い誓約は終わった。
だが白い契約は、破門の影すら跳ね返す。
鐘が鳴る。
祈りの時間。
私は目を閉じる。
信用は、守られた。
そして白は、さらに強くなる。
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