白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第十七話 再婚という圧力

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第十七話 再婚という圧力

 未亡人修道女が増えるにつれ、王都の空気は微妙に変わり始めた。

 修道院に入るという選択が「敗北」ではなく「戦略」と認識され始めたからだ。

 それは一部の家門にとって、看過できない事態だった。

 ある午後、ひとりの若い未亡人が門を叩いた。年は二十を少し過ぎたばかり。まだ黒衣が似合いきらないほど若い。

「実家から再婚を命じられました」

 彼女は震える声で言う。

「ですが、相手は父の債務を肩代わりする商人です。私はその担保です」

 私は彼女の目を見る。恐怖よりも、諦めが強い。

「持参金は」

「返還されました。ですが、父が借金の保証に使うつもりです」

 それは典型的な構図だった。

 未亡人の持参金は「家のもの」だと見なされがちだ。だが法的には個人財産である。

「財産の名義は」

「私です」

「ならば、あなたの同意なしに動かせません」

 彼女は驚いた顔をする。

「ですが父は家長です」

「家長であっても、契約当事者ではありません」

 私は帳簿を閉じる。

「修道院へ入る意思はありますか」

 彼女は迷わず頷いた。

「ございます」

 それは逃避ではない。選択だ。

 数日後、彼女の父が修道院へ乗り込んできた。

「娘を返していただきたい」

 応接室で彼は声を荒げる。

「再婚は家のためだ」

「ご息女は成人し、財産の所有者です」

 院長が静かに告げる。

「同意なき契約は無効となります」

「家門の名誉はどうなる」

 私は初めて口を開く。

「名誉は売買の担保にはなりません」

 彼は言葉を失う。

 最終的に、娘は正式に修道院へ入った。持参金は寄進され、一部は彼女個人の生活基金として管理される。

 王都に再び噂が広がる。

 修道院は再婚圧力を無効化する。

 それは、家門の構造を揺らす。

 王宮でも議論が起きた。

「未亡人が再婚せぬことで、同盟が減る」

 王太子が言う。

「だが強制すれば反発が生まれる」

 財務官は冷静だった。

「修道院は合法の範囲内です」

 合法。

 それが最大の防壁。

 ヴァルケン家にもその話は届いた。

 レオナルトは静かに呟く。

「彼女は制度を使っている」

 力でなく、契約で。

 修道院内部では、若い未亡人が帳簿を学び始めていた。

「自分の財産が、こんなにも守られているとは思いませんでした」

 彼女は小さく笑う。

「守られているのではありません」

 私は答える。

「守っているのです」

 夜、塔の上。

 風が強い。

 王都の灯りの中には、まだ多くの女性がいる。再婚という名の再配置を強いられる者たち。

 修道院の門は閉じない。

 白い誓約は終わった。

 だが白い自由は広がっている。

 再婚は選択であって、義務ではない。

 それを証明する場所が、ここにある。

 鐘が鳴る。

 私は目を閉じる。

 契約は人を縛る。

 だが正しく使えば、人を解放もするのだ。
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