白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第三十九話 静かな継承

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第三十九話 静かな継承

 初夏の光が修道院の中庭を満たしていた。

 王都は安定している。税収は回復し、商業は活気を取り戻し、医療制度も定着しつつある。王と王妃は堅実に国を運営し、貴族評議会も大きな対立を起こしていない。

 均衡は、今や習慣になっていた。

 だが習慣は、次の世代へ渡さなければ意味がない。

 その日、未亡人評議席の最年長が静かに席を退いた。

「もう十分に見届けました」

 彼女は穏やかに言う。

 長年、修道院の財務と外交を担ってきた人物。

 彼女の判断力は、白の領域を支えてきた柱だった。

 後任を選ばねばならない。

 若い世代の中から。

 評議席では意見が分かれた。

「経験が足りない」

「だが柔軟だ」

 私は沈黙して聞く。

 選ばれるのは、知識か、胆力か。

 最終的に、私は一人の名を挙げた。

 疫病の最中、物資管理を一手に引き受け、混乱を最小限に抑えた修道女。

 目立たない。

 だが確実。

「あなたが白を守れますか」

 私は問う。

 彼女は緊張しながら答える。

「守るのではなく、支えます」

 私は頷いた。

 守るという言葉には、閉じる響きがある。

 支えるは、動きを許す。

 数日後、新しい評議席が発足する。

 世代交代は静かだ。

 王宮でも変化があった。

 王妃が懐妊を公表。

 王位継承は安定する。

 王は修道院に書簡を送った。

「新たな命の誕生を前に、国の未来を考える」

 私は返す。

「未来は一人では支えられません」

 一方、ヴァルケンは財務監察官として各地を巡っていた。

 彼は報告書に署名する。

 かつては己の名誉を守るために署名した。

 今は制度を守るために。

 彼は修道院の門を見上げることがある。

 入らない。

 ただ立ち止まる。

 白い壁は変わらない。

 だが中の人々は変わる。

 夕暮れ、私は塔に立つ。

 風は穏やかだ。

 白い誓約は私一人のものではない。

 白は継承される。

 血ではなく、理念で。

 王家に子が生まれる。

 修道院に新たな評議席が生まれる。

 国は続く。

 白は、次の手へ渡った。

 静かに。

 確実に。

 鐘が鳴る。

 私は目を閉じる。

 終わりは近い。

 だが白は終わらない。
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