『平民を人間扱いしない公爵令息、あなたも平民です! ~系譜検察官の目は欺けません~

鷹 綾

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第6話 古文書と噂話

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第6話 古文書と噂話

王宮図書室の朝は早い。

まだ王宮の廊下に人影が少ない時間でも、ここには静かな気配がある。高い窓から差し込む光が長い机を照らし、革装丁の本棚が静かに並んでいた。

その中央の机に、今日もアウレリアの姿があった。

机の上には古文書が三冊。
横には紋章録。
そして大きな地図が広げられている。

アウレリアは羽ペンを動かしながら、小さく呟いた。

「……この年代なら、紋章はこの形のはずですわ」

古文書の紋章を見て、紋章録のページをめくる。

「やはり違いますわね」

メモ帳に書き込む。

紋章形状 十三世紀型

記録年代 十五世紀

小さく首を傾げる。

「後から作られた可能性がありますわね」

彼女の研究は、家系と紋章だった。

貴族にとって、家系とは名誉そのもの。

祖先がどこから来たのか。
どの戦争で功績を立てたのか。
どの王に仕えたのか。

それがすべて、家の価値を決める。

だが、アウレリアが見ているのは――

その矛盾だった。

そのとき、図書室の扉が開いた。

数人の令嬢たちが入ってくる。

彼女たちは机に本を置くと、すぐにおしゃべりを始めた。

「聞いた?」

「ええ、聞いたわ」

「舞踏会の話でしょう?」

アウレリアは本を読みながら耳だけを傾ける。

「ジオニック公爵家の嫡男」

「平民の娘を連れてきたって」

「真実の愛ですって」

くすくすと笑い声が広がる。

「婚約者がいるのに?」

「公爵令嬢だったはずよね」

「かわいそう」

別の令嬢が言う。

「でも素敵じゃない?」

「身分を越えた恋」

「まるで物語みたい」

「まあ!」

「夢見がちね」

笑い声が続く。

アウレリアはページをめくった。

彼女の興味はそこにはない。

だが、その名前が耳に残る。

ジオニック公爵家。

そのとき、司書が再び近づいてきた。

「アウレリア様」

「ご依頼の資料が届いております」

差し出されたのは、また別の木箱だった。

箱の蓋には小さく刻まれている。

王家管理資料

周囲の令嬢たちが目を丸くする。

「またあの箱よ」

「どうして?」

「王家資料よ?」

司書は静かに箱を机に置いた。

「本日は、王国貴族登録簿でございます」

アウレリアは丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます」

箱を開く。

中には分厚い帳簿が入っていた。

王国に存在するすべての貴族の登録記録。

家名。
紋章。
叙爵年代。

それらがすべて記録されている。

アウレリアはページをめくる。

静かな時間が流れる。

やがて彼女は、あるページで手を止めた。

小さく呟く。

「……ジオニック」

その名前を指でなぞる。

古い記録だった。

彼女はさらにページをめくる。

次の記録。

その次の記録。

そして小さく眉をひそめた。

「……あら」

再び紋章録を開く。

そして古文書を見比べる。

静かな沈黙。

アウレリアはメモ帳に書いた。

年代不一致

ペンを置く。

「おかしいですわね」

彼女の声はとても小さかった。

周囲の令嬢たちはまだ噂話を続けている。

「平民の娘ですって」

「公爵家に住んでいるらしいわ」

「囲われてるのかしら」

「まあ!」

笑い声が広がる。

アウレリアはそれを聞きながら、再び資料を見る。

紋章。

家系。

年代。

そして静かに呟いた。

「もし本当なら」

「これは……」

そこで言葉を止めた。

まだ確証はない。

だが、彼女の胸の中には

小さな違和感

が生まれていた。

王宮図書室の奥で。

誰にも気づかれないまま、

一つの疑問が静かに芽生えていた。
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