『平民を人間扱いしない公爵令息、あなたも平民です! ~系譜検察官の目は欺けません~

鷹 綾

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第8話 閲覧権限

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第8話 閲覧権限

王宮図書室の奥には、さらに奥がある。

高い本棚の並ぶ広間を抜け、重い扉を一つ越えると、そこは少し空気が違っていた。

窓は小さく、光は控えめ。
棚に並ぶ本は、どれも古く、革表紙が深い色に変わっている。

その棚には、小さな札が掛かっていた。

一般閲覧禁止

ここは王宮図書室の中でも、限られた者しか入れない区域だった。

司書の老人が扉の前で立ち止まる。

「アウレリア様」

「本日はどの資料をご覧になりますか」

アウレリアは少し考え、答えた。

「王国貴族叙爵記録を」

「それと紋章登録簿の原本も」

司書は頷く。

「承知いたしました」

老人は鍵束を取り出す。

小さな金属音が静かな廊下に響く。

鍵が外され、扉がゆっくり開いた。

アウレリアは迷いなく中へ入る。

そこには、さらに古い資料が並んでいた。

羊皮紙の束。
分厚い帳簿。
王国の紋章が刻まれた箱。

司書は一つの棚から大きな帳簿を取り出す。

机に置くと、ゆっくり開いた。

「こちらが叙爵記録です」

「王国で爵位が与えられた際の記録でございます」

アウレリアは丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます」

ページをめくる。

古い文字が並んでいた。

年号。
王の名前。
授けられた爵位。

王国の歴史そのものだった。

アウレリアは静かに読み進める。

やがて、ある名前のページで手を止めた。

ジオニック

彼女はその名前を指でなぞる。

記録は古い。

数百年前のものだった。

だが、すぐに別の資料を開く。

紋章登録簿。

さらに家系図の記録。

三つの資料を並べ、静かに見比べる。

そのとき。

小さく呟いた。

「……おかしいですわね」

司書は何も言わない。

ただ静かに見守っている。

アウレリアはさらにページをめくる。

そしてメモ帳に書き込む。

紋章形式 年代不一致

ペンを止める。

「まだ確定ではありませんわ」

小さく息を吐いた。

その頃。

図書室の外では、令嬢たちの噂話が続いていた。

「ねえ」

「あの子、また奥に入っていったわよ」

「本当?」

「ええ」

一人の令嬢が驚いた顔をする。

「あそこって……」

「王族しか入れない場所じゃないの?」

もう一人が首を振る。

「いえ」

「王家の許可がある人だけ」

「でも、あの子爵令嬢にそんな許可ある?」

「さあ?」

令嬢たちは顔を見合わせる。

「司書が甘いのかしら」

「それとも、誰かの推薦?」

「でも、ただの子爵家よ?」

くすくすと笑う。

「変人だから特別扱いされてるのかも」

その噂は、静かに広がっていた。

王宮図書室の変わり者。

本ばかり読む地味な令嬢。

社交界では、そんな評価だった。

だが――

その令嬢は今、王国でも限られた人間しか触れない記録を読んでいる。

王家の叙爵記録。

貴族の原本家系図。

紋章登録簿。

そのすべてを。

アウレリアはゆっくり本を閉じた。

そして小さく呟く。

「もし私の考えが正しいなら……」

言葉を止める。

まだ確証はない。

だが。

その違和感は、確かに存在していた。

机の上の資料の一つに、再び目を落とす。

そこには一つの家名が記されている。

ジオニック公爵家

アウレリアはメモ帳に、静かに一行書いた。

調査継続

王宮図書室の奥で。

誰にも知られないまま、

一つの疑問が

ゆっくりと輪郭を持ち始めていた。
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