31 / 33
第32話 ただの平民
しおりを挟む
第32話 ただの平民
王宮謁見の間。
衛兵に腕を掴まれたアドリアンは、まだ叫び続けていた。
「離せ!」
「私は公爵の息子だ!」
「貴様らごときが触れていい身分ではない!」
衛兵は表情を変えない。
淡々と腕を押さえつける。
もう誰も彼の言葉を聞いていなかった。
つい先ほどまで、彼は公爵家の令息だった。
だが今は違う。
ただの――
爵位詐称犯。
周囲の貴族たちは冷たい視線を向けている。
その視線に、アドリアンはようやく気づいた。
「……なぜだ」
震える声。
「なぜだ!」
彼は叫ぶ。
「お前たちは私に頭を下げていた!」
「私の家に媚びていた!」
「それが今さら!」
だが誰も答えない。
その沈黙が何より残酷だった。
床に崩れ落ちていたジオニック公爵が、弱々しく言った。
「アドリアン……」
その声は完全に力を失っている。
先ほどまで威厳を保っていた男とは思えない。
公爵は床に手をつき、震える声で言った。
「……終わりだ」
アドリアンが叫ぶ。
「終わりじゃない!」
「こんな判決は認めない!」
彼は玉座を睨みつける。
「陛下!」
「取り消してください!」
「我々は三十年も公爵として働いてきた!」
「それを今さら否定するなど!」
国王は冷たく答えた。
「働いていた?」
静かな声。
だが重い。
「お前は」
「最初から」
「公爵ではない」
その一言が、アドリアンの言葉を止めた。
国王は続ける。
「偽造された家系図」
「偽造された爵位認定書」
「偽造された紋章登録」
そして言った。
「すべて虚偽だ」
沈黙。
国王の声が謁見の間に響く。
「お前たちは」
「ただの平民だ」
アドリアンの顔が歪む。
「……違う」
かすれた声。
「違う!」
彼は叫んだ。
「私は公爵だ!」
「公爵なんだ!」
その声は、もはや悲鳴だった。
だが誰も同情しない。
貴族たちは静かに見ている。
そこに、かつての敬意はない。
あるのはただの軽蔑だった。
アドリアンは必死に言う。
「リナ!」
突然、彼は少女の名前を叫んだ。
謁見の間の端に立っていたリナが顔を上げる。
アドリアンは叫んだ。
「言ってやれ!」
「私は公爵だ!」
「お前は私の婚約者だ!」
「こいつらに言ってやれ!」
その姿は、あまりにも必死だった。
リナはしばらく黙っていた。
そして静かに言った。
「……違います」
アドリアンの顔が凍りつく。
リナは続けた。
「あなたは」
「私を守ると言いました」
彼女の声は震えていない。
「でも」
「私を閉じ込めました」
アドリアンが言葉を失う。
リナは言った。
「あなたは平民を愛していると言いました」
「でも」
「平民を見下していました」
沈黙。
リナは静かに言った。
「あなたは」
「公爵じゃありません」
その言葉は、刃のようだった。
アドリアンの顔が歪む。
「黙れ!」
彼は叫んだ。
「平民のくせに!」
その瞬間。
謁見の間に冷たい空気が流れた。
貴族たちは完全に理解した。
この男は、何も変わっていない。
アウレリアが静かに言った。
「もう終わりです」
アドリアンが振り向く。
「お前だ!」
「お前が全部壊した!」
「こんなことになるはずじゃなかった!」
アウレリアは落ち着いた声で答える。
「壊したのではありません」
「暴かれただけです」
沈黙。
アドリアンは言葉を失う。
衛兵が腕を引く。
「行くぞ」
アドリアンは最後まで叫んでいた。
「私は公爵だ!」
「公爵なんだ!」
その声は遠ざかっていく。
やがて謁見の間は静かになった。
国王が席を立つ。
「審問は終わりだ」
貴族たちが一斉に頭を下げる。
人々がゆっくりと退出していく。
その中で、リナは立ち尽くしていた。
アウレリアが近づく。
「大丈夫ですか」
リナは小さく笑った。
「はい」
そして言った。
「やっと終わりました」
アウレリアは頷く。
「ええ」
彼女は静かに言った。
「偽りは長く続きません」
リナは王宮の窓の外を見た。
空は晴れている。
まるで何事もなかったかのように。
だが確かに一つの家が消えた。
偽りの公爵家。
三十年続いた嘘。
それは今日、
王命によって終わった。
そして残ったのは――
ただの平民だった。
王宮謁見の間。
衛兵に腕を掴まれたアドリアンは、まだ叫び続けていた。
「離せ!」
「私は公爵の息子だ!」
「貴様らごときが触れていい身分ではない!」
衛兵は表情を変えない。
淡々と腕を押さえつける。
もう誰も彼の言葉を聞いていなかった。
つい先ほどまで、彼は公爵家の令息だった。
だが今は違う。
ただの――
爵位詐称犯。
周囲の貴族たちは冷たい視線を向けている。
その視線に、アドリアンはようやく気づいた。
「……なぜだ」
震える声。
「なぜだ!」
彼は叫ぶ。
「お前たちは私に頭を下げていた!」
「私の家に媚びていた!」
「それが今さら!」
だが誰も答えない。
その沈黙が何より残酷だった。
床に崩れ落ちていたジオニック公爵が、弱々しく言った。
「アドリアン……」
その声は完全に力を失っている。
先ほどまで威厳を保っていた男とは思えない。
公爵は床に手をつき、震える声で言った。
「……終わりだ」
アドリアンが叫ぶ。
「終わりじゃない!」
「こんな判決は認めない!」
彼は玉座を睨みつける。
「陛下!」
「取り消してください!」
「我々は三十年も公爵として働いてきた!」
「それを今さら否定するなど!」
国王は冷たく答えた。
「働いていた?」
静かな声。
だが重い。
「お前は」
「最初から」
「公爵ではない」
その一言が、アドリアンの言葉を止めた。
国王は続ける。
「偽造された家系図」
「偽造された爵位認定書」
「偽造された紋章登録」
そして言った。
「すべて虚偽だ」
沈黙。
国王の声が謁見の間に響く。
「お前たちは」
「ただの平民だ」
アドリアンの顔が歪む。
「……違う」
かすれた声。
「違う!」
彼は叫んだ。
「私は公爵だ!」
「公爵なんだ!」
その声は、もはや悲鳴だった。
だが誰も同情しない。
貴族たちは静かに見ている。
そこに、かつての敬意はない。
あるのはただの軽蔑だった。
アドリアンは必死に言う。
「リナ!」
突然、彼は少女の名前を叫んだ。
謁見の間の端に立っていたリナが顔を上げる。
アドリアンは叫んだ。
「言ってやれ!」
「私は公爵だ!」
「お前は私の婚約者だ!」
「こいつらに言ってやれ!」
その姿は、あまりにも必死だった。
リナはしばらく黙っていた。
そして静かに言った。
「……違います」
アドリアンの顔が凍りつく。
リナは続けた。
「あなたは」
「私を守ると言いました」
彼女の声は震えていない。
「でも」
「私を閉じ込めました」
アドリアンが言葉を失う。
リナは言った。
「あなたは平民を愛していると言いました」
「でも」
「平民を見下していました」
沈黙。
リナは静かに言った。
「あなたは」
「公爵じゃありません」
その言葉は、刃のようだった。
アドリアンの顔が歪む。
「黙れ!」
彼は叫んだ。
「平民のくせに!」
その瞬間。
謁見の間に冷たい空気が流れた。
貴族たちは完全に理解した。
この男は、何も変わっていない。
アウレリアが静かに言った。
「もう終わりです」
アドリアンが振り向く。
「お前だ!」
「お前が全部壊した!」
「こんなことになるはずじゃなかった!」
アウレリアは落ち着いた声で答える。
「壊したのではありません」
「暴かれただけです」
沈黙。
アドリアンは言葉を失う。
衛兵が腕を引く。
「行くぞ」
アドリアンは最後まで叫んでいた。
「私は公爵だ!」
「公爵なんだ!」
その声は遠ざかっていく。
やがて謁見の間は静かになった。
国王が席を立つ。
「審問は終わりだ」
貴族たちが一斉に頭を下げる。
人々がゆっくりと退出していく。
その中で、リナは立ち尽くしていた。
アウレリアが近づく。
「大丈夫ですか」
リナは小さく笑った。
「はい」
そして言った。
「やっと終わりました」
アウレリアは頷く。
「ええ」
彼女は静かに言った。
「偽りは長く続きません」
リナは王宮の窓の外を見た。
空は晴れている。
まるで何事もなかったかのように。
だが確かに一つの家が消えた。
偽りの公爵家。
三十年続いた嘘。
それは今日、
王命によって終わった。
そして残ったのは――
ただの平民だった。
4
あなたにおすすめの小説
おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。
ましゅぺちーの
恋愛
公爵家の令嬢であるリリスは家族と婚約者に愛されて幸せの中にいた。
そんな時、リリスの父の弟夫婦が不慮の事故で亡くなり、その娘を我が家で引き取ることになった。
娘の名前はシルビア。天使のように可愛らしく愛嬌のある彼女はすぐに一家に馴染んでいった。
それに対してリリスは次第に家で孤立していき、シルビアに嫌がらせをしているとの噂までたち始めた。
婚約者もシルビアに奪われ、父からは勘当を言い渡される。
リリスは平民として第二の人生を歩み始める。
全8話。完結まで執筆済みです。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王太子に婚約破棄された令嬢リリベッタ。
「これで平民に落ちるのかしら?」――そんな周囲の声をよそに、本人は思い出した。
――わたし、皇女なんですけど?
叔父は帝国の皇帝。
昔のクーデターから逃れるため、一時期王国に亡命していた彼女は、
その見返りとして“王太子との婚約”を受け入れていただけだった。
一方的に婚約破棄されたのをきっかけに、
本来の立場――“帝国の皇女”として戻ることに決めました。
さようなら、情けない王太子。
これからは、自由に、愛されて、幸せになりますわ!
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
妹さんが婚約者の私より大切なのですね
はまみ
恋愛
私の婚約者、オリオン子爵令息様は、
妹のフローラ様をとても大切にされているの。
家族と仲の良いオリオン様は、きっととてもお優しいのだわ。
でも彼は、妹君のことばかり…
この頃、ずっとお会いできていないの。
☆お気に入りやエール、♥など、ありがとうございます!励みになります!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる