真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第七話 真実の愛

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第七話 真実の愛

卒業舞踏会から十日。

王都の社交界では、ついに次の話題が広がり始めていた。

王太子カルディオンとヴィオレッタの婚約。

まだ正式な発表はされていない。

だが、誰もがそうなると信じていた。

王宮の貴婦人たちも、その話をしている。

「王太子殿下、本気のようですわね」

「ええ、毎日のようにヴィオレッタ様とお会いしているとか」

「婚約も時間の問題でしょう」

一人の婦人が小さく言った。

「ですが……」

「まだ離縁の話は聞きませんわね」

別の婦人が扇を揺らす。

「それは当然でしょう」

「時間の問題ですわ」

そして声を潜める。

「だって、政略結婚だったのでしょう?」

「愛のない結婚なんて、破棄されて当然ですわ」

その言葉に、周囲の婦人たちは深く頷いた。

人は、自分が信じたい話を信じる。

そして今の社交界は、**“真実の愛”**という物語を好んでいた。

その中心にいる二人は、ちょうど王宮の応接室にいた。

カルディオン王太子は、ゆったりと椅子に座っている。

向かいにはヴィオレッタ。

彼女は少し緊張した様子で座っていた。

カルディオンが言う。

「社交界の噂は聞いているか?」

ヴィオレッタは小さく頷く。

「はい」

「……私と殿下のことですね」

カルディオンは満足そうに笑った。

「皆、理解している」

「私たちの関係を」

ヴィオレッタは少し困ったように言う。

「でも……」

「まだ何も決まっていません」

カルディオンは即座に答えた。

「決まる」

その声は断言だった。

ヴィオレッタは驚いたように目を見開く。

「殿下……」

カルディオンは続ける。

「私は君を選ぶ」

「それだけだ」

ヴィオレッタは俯く。

「でも……」

「私は」

言葉を濁す。

カルディオンは軽く手を振った。

「分かっている」

「結婚のことだろう」

ヴィオレッタの肩が小さく揺れた。

カルディオンは平然と言う。

「問題ない」

「離婚させればいい」

ヴィオレッタは顔を上げた。

「そんな……簡単に」

カルディオンは当然のように言った。

「簡単だ」

「私は王太子だ」

その一言には、絶対的な自信があった。

「不当な結婚なら解消できる」

「それが正義だ」

ヴィオレッタは少し沈黙した。

やがて、弱々しい声で言う。

「でも……」

「私は」

「望んで結婚したわけではありません」

カルディオンの表情が険しくなる。

「やはりそうか」

ヴィオレッタは俯いたまま言う。

「伯爵家に言われて……」

「断れませんでした」

カルディオンは机を軽く叩いた。

「許せない」

その声には怒りが混じっている。

「公爵家も伯爵家も」

「女性を道具にする」

彼は立ち上がった。

「私は違う」

「愛する女性を選ぶ」

ヴィオレッタは震える声で言う。

「殿下……」

カルディオンは彼女の手を取った。

「君は自由になるべきだ」

「私が助ける」

その言葉を聞きながら。

ヴィオレッタは、ゆっくり目を閉じた。

そして、ほんのわずかに微笑んだ。

――思い通り。

だが、その笑みをカルディオンは見ていない。

彼は満足そうに言う。

「もうすぐだ」

「父上にも話す」

ヴィオレッタは驚いたように言う。

「国王陛下に?」

カルディオンは頷いた。

「そうだ」

「この件は正義だ」

彼は自信に満ちた顔で言う。

「父上も理解する」

一方その頃。

アルヴェイン公爵邸では、フロレンティアが書斎で書類を整理していた。

執事が報告する。

「王太子殿下が動きました」

フロレンティアは顔を上げる。

「ええ」

執事は続けた。

「国王陛下に、この件を話すそうです」

フロレンティアは静かに言う。

「そう」

執事は少し慎重に言う。

「王太子殿下は」

「今回の件を、正義の行動と説明するつもりのようです」

フロレンティアは少し笑った。

「正義」

執事は続ける。

「不当な結婚から女性を救う」

「そのような説明になるかと」

フロレンティアは椅子にもたれた。

「なるほど」

そして書類を指で軽く叩く。

そこには、はっきり書かれていた。

結婚証明
ヴィオレッタ・オデット
配偶者 ダリオン・アルヴェイン

フロレンティアは静かに言った。

「人妻と知っていて」

「助ける」

執事は小さく言う。

「はい」

フロレンティアは窓の外を見た。

「殿下は」

「自信があるのですね」

執事は答える。

「ご自身の立場に」

フロレンティアは微笑む。

「そうでしょうね」

そして紅茶を飲む。

「王太子ですもの」

執事が言う。

「この件」

「国王陛下の前で正式に審議される可能性があります」

フロレンティアは頷いた。

「ええ」

そしてゆっくり立ち上がる。

「むしろ」

その声は静かだった。

「それを待っていました」

執事は目を細める。

フロレンティアは書類を手に取った。

「舞踏会の時」

「私は言えませんでした」

そして小さく笑う。

「でも」

「今度は違う」

彼女の声は穏やかだった。

「国王陛下の前ですもの」

「誰も」

「止められませんわ」
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