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第八話 王太子の思い込み
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第八話 王太子の思い込み
王宮の書斎。
大きな窓から春の光が差し込んでいた。
カルディオン王太子は机の前に立ち、王国の地図を眺めている。だが視線は地図の上を滑るだけで、実際にはほとんど見ていなかった。
彼の頭の中にあるのは、ただ一つ。
ヴィオレッタのことだった。
机の前に立つ侍従が慎重に口を開く。
「殿下」
カルディオンは振り向かない。
「何だ」
「例の件ですが」
「フロレンティア嬢との婚約破棄について、貴族の一部から問い合わせが来ております」
カルディオンは鼻で笑った。
「問い合わせ?」
「何を今さら」
侍従は少し言いにくそうに続ける。
「アルヴェイン公爵家が沈黙を保っているため、状況を確認したいと」
カルディオンはようやく振り返った。
「沈黙?」
「はい」
侍従は答える。
「公爵家は今回の件について、正式な声明を出しておりません」
カルディオンは一瞬だけ眉をひそめた。
だがすぐに笑った。
「なるほど」
「言い訳を考えているのだろう」
侍従は何も言わない。
カルディオンは椅子に座り、腕を組む。
「だが無駄だ」
「社交界はすでに理解している」
彼は自信満々に言った。
「フロレンティアが悪い」
侍従は慎重に尋ねる。
「しかし……」
「アルヴェイン公爵家は王国有数の大貴族です」
カルディオンは即座に答えた。
「だから何だ」
その声は強かった。
「公爵家だろうと関係ない」
「悪いものは悪い」
侍従はそれ以上言えなかった。
カルディオンは机を軽く叩く。
「それに」
彼は少し笑った。
「今回の件は正義だ」
侍従が顔を上げる。
カルディオンは続けた。
「私は虐げられていた女性を助けただけだ」
その言葉には、少しの迷いもない。
侍従は小さく言った。
「ですが……」
「ヴィオレッタ様は現在、結婚されております」
カルディオンは肩をすくめた。
「知っている」
侍従は一瞬黙った。
カルディオンは平然と言う。
「だが問題ない」
「離婚すればいい」
侍従は戸惑ったように言う。
「しかし」
「公爵家との婚姻です」
カルディオンは少し苛立った。
「だから何だ」
「不当な結婚なら解消すればいい」
侍従は言葉を選びながら言う。
「ですが、本人が望んでいた結婚だった場合」
カルディオンは即座に首を振った。
「そんなはずはない」
侍従は黙った。
カルディオンは自信に満ちた声で言う。
「ヴィオレッタは言っていた」
「望んだ結婚ではないと」
彼は少し優しい声になる。
「家の都合で無理やり嫁がされたのだ」
侍従は慎重に尋ねる。
「それは、ヴィオレッタ様ご本人の言葉でしょうか」
カルディオンは当然のように答えた。
「そうだ」
そして少し怒ったように言う。
「まさか彼女が嘘をついているとでも?」
侍従はすぐに頭を下げた。
「いえ」
「そのようなつもりは」
カルディオンは腕を組んだ。
「彼女は被害者だ」
「そして私は助けた」
彼は少し笑った。
「それだけの話だ」
侍従は静かに目を伏せた。
その頃。
王宮の別の部屋。
ヴィオレッタは鏡の前に座っていた。
侍女が髪を整えている。
鏡の中の自分を見つめながら、ヴィオレッタは小さく微笑んだ。
「王太子妃……」
その言葉を、誰にも聞こえないように呟く。
侍女が尋ねる。
「何かおっしゃいましたか?」
ヴィオレッタはすぐに首を振った。
「いいえ」
そして少し困ったように微笑む。
「ただ……」
「こんなことになってしまって」
侍女は優しく言う。
「王太子殿下が守ってくださっています」
ヴィオレッタは俯いた。
「殿下は……」
「とても優しい方です」
侍女は嬉しそうに頷く。
ヴィオレッタは鏡を見つめる。
その目は、どこか冷たかった。
一方。
アルヴェイン公爵邸。
フロレンティアは書斎で書類を読んでいた。
執事が言う。
「王太子殿下は、今回の件を正義だと主張しているようです」
フロレンティアは顔を上げる。
「そう」
執事は続ける。
「人妻であっても、不当な結婚なら解消できると」
フロレンティアは少し笑った。
「なるほど」
執事が言う。
「殿下は、ご自身の立場を絶対だとお考えのようです」
フロレンティアは窓の外を見た。
「王太子ですもの」
「そう思って当然でしょう」
執事は静かに言う。
「このままでは、国王陛下の前で審議になる可能性があります」
フロレンティアは頷いた。
「ええ」
そしてゆっくり言った。
「むしろ」
「それを待っていました」
執事が目を細める。
フロレンティアは机の書類を一枚手に取った。
そこには、はっきりと書かれている。
結婚証明書
ヴィオレッタ・オデット
配偶者 ダリオン・アルヴェイン
フロレンティアは静かに呟いた。
「殿下は」
「自分が何をしているのか」
「まだ理解していない」
そして小さく微笑む。
「王太子ですもの」
その声は穏やかだった。
「何をしても許されると思っているのでしょう」
王宮の書斎。
大きな窓から春の光が差し込んでいた。
カルディオン王太子は机の前に立ち、王国の地図を眺めている。だが視線は地図の上を滑るだけで、実際にはほとんど見ていなかった。
彼の頭の中にあるのは、ただ一つ。
ヴィオレッタのことだった。
机の前に立つ侍従が慎重に口を開く。
「殿下」
カルディオンは振り向かない。
「何だ」
「例の件ですが」
「フロレンティア嬢との婚約破棄について、貴族の一部から問い合わせが来ております」
カルディオンは鼻で笑った。
「問い合わせ?」
「何を今さら」
侍従は少し言いにくそうに続ける。
「アルヴェイン公爵家が沈黙を保っているため、状況を確認したいと」
カルディオンはようやく振り返った。
「沈黙?」
「はい」
侍従は答える。
「公爵家は今回の件について、正式な声明を出しておりません」
カルディオンは一瞬だけ眉をひそめた。
だがすぐに笑った。
「なるほど」
「言い訳を考えているのだろう」
侍従は何も言わない。
カルディオンは椅子に座り、腕を組む。
「だが無駄だ」
「社交界はすでに理解している」
彼は自信満々に言った。
「フロレンティアが悪い」
侍従は慎重に尋ねる。
「しかし……」
「アルヴェイン公爵家は王国有数の大貴族です」
カルディオンは即座に答えた。
「だから何だ」
その声は強かった。
「公爵家だろうと関係ない」
「悪いものは悪い」
侍従はそれ以上言えなかった。
カルディオンは机を軽く叩く。
「それに」
彼は少し笑った。
「今回の件は正義だ」
侍従が顔を上げる。
カルディオンは続けた。
「私は虐げられていた女性を助けただけだ」
その言葉には、少しの迷いもない。
侍従は小さく言った。
「ですが……」
「ヴィオレッタ様は現在、結婚されております」
カルディオンは肩をすくめた。
「知っている」
侍従は一瞬黙った。
カルディオンは平然と言う。
「だが問題ない」
「離婚すればいい」
侍従は戸惑ったように言う。
「しかし」
「公爵家との婚姻です」
カルディオンは少し苛立った。
「だから何だ」
「不当な結婚なら解消すればいい」
侍従は言葉を選びながら言う。
「ですが、本人が望んでいた結婚だった場合」
カルディオンは即座に首を振った。
「そんなはずはない」
侍従は黙った。
カルディオンは自信に満ちた声で言う。
「ヴィオレッタは言っていた」
「望んだ結婚ではないと」
彼は少し優しい声になる。
「家の都合で無理やり嫁がされたのだ」
侍従は慎重に尋ねる。
「それは、ヴィオレッタ様ご本人の言葉でしょうか」
カルディオンは当然のように答えた。
「そうだ」
そして少し怒ったように言う。
「まさか彼女が嘘をついているとでも?」
侍従はすぐに頭を下げた。
「いえ」
「そのようなつもりは」
カルディオンは腕を組んだ。
「彼女は被害者だ」
「そして私は助けた」
彼は少し笑った。
「それだけの話だ」
侍従は静かに目を伏せた。
その頃。
王宮の別の部屋。
ヴィオレッタは鏡の前に座っていた。
侍女が髪を整えている。
鏡の中の自分を見つめながら、ヴィオレッタは小さく微笑んだ。
「王太子妃……」
その言葉を、誰にも聞こえないように呟く。
侍女が尋ねる。
「何かおっしゃいましたか?」
ヴィオレッタはすぐに首を振った。
「いいえ」
そして少し困ったように微笑む。
「ただ……」
「こんなことになってしまって」
侍女は優しく言う。
「王太子殿下が守ってくださっています」
ヴィオレッタは俯いた。
「殿下は……」
「とても優しい方です」
侍女は嬉しそうに頷く。
ヴィオレッタは鏡を見つめる。
その目は、どこか冷たかった。
一方。
アルヴェイン公爵邸。
フロレンティアは書斎で書類を読んでいた。
執事が言う。
「王太子殿下は、今回の件を正義だと主張しているようです」
フロレンティアは顔を上げる。
「そう」
執事は続ける。
「人妻であっても、不当な結婚なら解消できると」
フロレンティアは少し笑った。
「なるほど」
執事が言う。
「殿下は、ご自身の立場を絶対だとお考えのようです」
フロレンティアは窓の外を見た。
「王太子ですもの」
「そう思って当然でしょう」
執事は静かに言う。
「このままでは、国王陛下の前で審議になる可能性があります」
フロレンティアは頷いた。
「ええ」
そしてゆっくり言った。
「むしろ」
「それを待っていました」
執事が目を細める。
フロレンティアは机の書類を一枚手に取った。
そこには、はっきりと書かれている。
結婚証明書
ヴィオレッタ・オデット
配偶者 ダリオン・アルヴェイン
フロレンティアは静かに呟いた。
「殿下は」
「自分が何をしているのか」
「まだ理解していない」
そして小さく微笑む。
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