真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第九話 義妹の野望

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第九話 義妹の野望

王宮の客間。

窓から柔らかな光が差し込み、重厚なカーテンが静かに揺れていた。

ヴィオレッタはその部屋で一人、椅子に腰掛けている。

テーブルの上には紅茶。

だが彼女はそれに手を付けていなかった。

視線は窓の外に向けられている。

やがて扉が開いた。

「待たせたな」

入ってきたのはカルディオン王太子だった。

ヴィオレッタは慌てて立ち上がる。

「殿下」

カルディオンは手を振った。

「そんなに畏まらなくていい」

そして彼女の向かいに座る。

「調子はどうだ?」

ヴィオレッタは小さく微笑んだ。

「おかげさまで」

「皆さん、とても優しくしてくださいます」

カルディオンは満足そうに頷いた。

「当然だ」

「皆、君が被害者だと分かっている」

ヴィオレッタは目を伏せる。

「……私は」

「そんなつもりでは」

カルディオンは少し笑った。

「遠慮する必要はない」

「事実なのだから」

そして紅茶を一口飲む。

「それより」

「父上にも話した」

ヴィオレッタが顔を上げた。

「陛下に……?」

カルディオンは頷いた。

「まだ正式な決定ではないが」

「この件は調べるそうだ」

ヴィオレッタの胸がわずかに高鳴った。

――調べる。

だが表情には出さない。

「……そうですか」

カルディオンは自信に満ちた声で言う。

「心配するな」

「父上も理解する」

ヴィオレッタは尋ねた。

「理解……?」

カルディオンは当然のように答える。

「愛の問題だからだ」

ヴィオレッタは少し驚いた顔をした。

カルディオンは続ける。

「政略結婚など時代遅れだ」

「愛する者と結ばれるべきだ」

ヴィオレッタは目を伏せる。

「……殿下」

カルディオンは優しく言った。

「私は君を選ぶ」

その言葉に、ヴィオレッタの指がわずかに震えた。

だがその震えは恐れではない。

歓喜だった。

彼女は俯いたまま小さく言う。

「でも……」

「私は」

カルディオンが遮る。

「結婚のことなら心配するな」

ヴィオレッタが顔を上げる。

カルディオンははっきり言った。

「離婚させる」

その言葉は、あまりにも軽かった。

ヴィオレッタは少し驚いたように見せる。

「そんな……」

「簡単ではありません」

カルディオンは笑った。

「簡単だ」

「私は王太子だ」

その一言には絶対の自信があった。

ヴィオレッタはしばらく黙っていた。

そして、ゆっくり言う。

「……もし」

「それが叶ったら」

カルディオンが身を乗り出す。

「叶う」

ヴィオレッタは小さく笑った。

「その時は」

彼女は目を伏せる。

「殿下の隣に立てるでしょうか」

カルディオンは迷いなく答えた。

「当然だ」

「君は私の婚約者になる」

ヴィオレッタは驚いたように目を見開いた。

だがその瞳の奥では、炎のような喜びが燃えていた。

王太子妃。

その言葉が、彼女の胸の中で何度も響く。

カルディオンは満足そうに立ち上がった。

「安心しろ」

「すべてうまくいく」

ヴィオレッタは深く頭を下げる。

「……ありがとうございます」

カルディオンは部屋を出ていった。

扉が閉まる。

部屋には静寂が戻る。

しばらくして。

ヴィオレッタはゆっくり顔を上げた。

そして、鏡に映る自分を見つめる。

その表情から、弱々しい笑みは消えていた。

代わりに浮かんでいるのは――

冷たい笑み。

「公爵夫人……」

小さく呟く。

「そんなもの」

彼女は肩をすくめた。

「誰が望むの」

鏡の中の自分に微笑む。

「王太子妃よ」

その声は甘く、そして鋭かった。

「王国で一番の地位」

彼女はゆっくり立ち上がる。

ドレスの裾が床を滑る。

「当然でしょう」

その頃。

アルヴェイン公爵邸。

フロレンティアは書斎で執事の報告を聞いていた。

「王太子殿下は」

執事が言う。

「ヴィオレッタ様との婚約を進めるお考えのようです」

フロレンティアは静かに紅茶を飲む。

「そう」

執事は続ける。

「離婚させる、とおっしゃっているとか」

フロレンティアは少し笑った。

「離婚」

そして窓の外を見る。

庭の薔薇が風に揺れていた。

「簡単に言いますね」

執事は静かに言う。

「王太子殿下ですから」

フロレンティアは頷く。

「そう」

そして机の上の書類を指で叩いた。

そこには、はっきり書かれている。

結婚証明
ヴィオレッタ・オデット
配偶者 ダリオン・アルヴェイン

フロレンティアは小さく呟いた。

「公爵夫人より王太子妃」

執事は黙っている。

フロレンティアは静かに笑った。

「野心家ですね」

そして紅茶を一口飲む。

「でも」

彼女は穏やかに言った。

「王太子妃になるには」

執事が目を細める。

フロレンティアは続けた。

「一つ問題があります」

「その女性」

「まだ」

「人妻ですわ」
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