真実の愛のお相手は弟の妻でした ―年上悪役令嬢は二十九歳―』

鷹 綾

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第十三話 弟との結婚

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第十三話 弟との結婚

アルヴェイン公爵邸の書斎。

机の上には、すでに整理された書類が静かに並んでいた。

結婚証明書。
教会の誓約書。
戸籍の写し。

フロレンティアは椅子に座り、その一枚をゆっくり読み直していた。

そこに書かれている名前。

ヴィオレッタ・オデット

そしてその下に。

配偶者
ダリオン・アルヴェイン

フロレンティアは静かに息を吐いた。

「……やはり」

執事レオナードが言う。

「疑いの余地はございません」

フロレンティアは書類を机に置いた。

「教会の誓約」

「王都の婚姻登録」

「貴族戸籍」

彼女は指で一つずつ触れる。

「すべて一致しています」

レオナードが頷く。

「はい」

フロレンティアは小さく笑った。

「つまり」

彼女は静かに言う。

「ヴィオレッタは」

レオナードが続けた。

「ダリオン様の妻」

書斎の空気が静かに揺れる。

フロレンティアは窓の外を見た。

庭では侍女たちが花を整えている。

平和な光景だった。

だが。

フロレンティアの声は静かだった。

「王太子は」

「それを知っています」

レオナードが答える。

「確認しております」

フロレンティアはゆっくり振り返った。

「それでも」

レオナードは淡々と言う。

「殿下は仰いました」

フロレンティアは軽く眉を上げた。

「何と?」

レオナードは少し言いにくそうに口を開く。

「人妻でも問題ない」

「離婚させればいい」

書斎の空気が止まる。

フロレンティアは一瞬だけ目を閉じた。

そして、ふっと笑った。

「……なるほど」

その笑みは穏やかだった。

だが。

どこか冷たい。

フロレンティアは椅子にもたれた。

「つまり」

「王太子は」

彼女は静かに言う。

「人妻と不貞を働くことに」

「何の問題も感じていない」

レオナードは慎重に言う。

「殿下は」

「真実の愛だと」

フロレンティアは小さく肩をすくめた。

「便利な言葉ですね」

レオナードは沈黙する。

フロレンティアは机の書類を整えた。

「三年前」

彼女はゆっくり言う。

「ヴィオレッタは」

「ダリオンと結婚した」

レオナードが頷く。

「はい」

フロレンティアは続ける。

「当時」

「ダリオンは十七歳」

レオナードが言う。

「そして」

フロレンティアは微笑む。

「ヴィオレッタは二十八歳」

書斎に静かな空気が流れる。

レオナードが呟く。

「十一歳差」

フロレンティアは頷いた。

「ええ」

彼女は少しだけ考える。

「ダリオンは」

「まだ子供でした」

レオナードは言う。

「伯爵家にとっては」

「公爵家との縁組は魅力的だったのでしょう」

フロレンティアは紅茶を一口飲んだ。

「だから」

彼女は静かに言う。

「年齢を偽った」

レオナードが頷く。

「二十八歳では」

「結婚は難しい」

フロレンティアは小さく笑った。

「十九歳なら」

「若い花嫁」

レオナードが続ける。

「公爵家も疑いません」

フロレンティアは窓の外を見る。

夕暮れの光が庭を赤く染めていた。

彼女は静かに言った。

「そして今」

「その人妻が」

レオナードが続ける。

「王太子妃を狙っている」

フロレンティアは小さく息を吐いた。

「欲張りですね」

レオナードは慎重に尋ねる。

「ダリオン様には」

「お伝えになりますか」

フロレンティアは少し考えた。

そして首を振った。

「まだです」

レオナードは頷く。

フロレンティアは静かに言った。

「弟は優しい子です」

「きっと」

彼女は小さく笑う。

「彼女を庇うでしょう」

レオナードは黙る。

フロレンティアは机の書類を軽く叩いた。

「でも」

彼女はゆっくり言った。

「事実は変わりません」

レオナードが頷く。

フロレンティアは最後に書類を見つめた。

そこに書かれた二つの名前。

ヴィオレッタ・オデット
ダリオン・アルヴェイン

彼女は静かに呟いた。

「私の弟の妻」

そして。

ゆっくりと微笑む。

「それなのに」

「王太子妃ですか」

その声は。

とても穏やかだった。
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